「中性子戦争」時代が来るのか?

 Sydney J. Freedberg Jr. 記者による2018-8-8記事「Detect Nukes In Flight With Electron Beam Technology」。
   アラバマ州のハンツヴィル市で、宇宙とミサイル防衛のシンポジウムが開かれた。
 シンポジウムの主催者はデイヴィッド・マン退役陸軍大将。彼は2016まで宇宙&ミサイル防衛コマンドの司令長官であった。
 物理学者ウィリアム・デントが、中性子発生装置が諸問題を解決するとプレゼンした。
 デントは若い陸軍将校だったとき「セーフガード」ABMシステム(小型核弾頭の空中炸裂による放射線によってソ連のRVを迎撃しようというもの)に関与した。レーガン時代にはSDIに関わった。
 デントは目下、陸軍のために、IEDをはるか手前から発見する技法を研究している。
 米陸軍はすでに中性子放射による地雷探知装置を使っている。中性子は低密度の土壁などは透過するが、高密度の爆弾に衝突すれば、その爆弾材料を放射性に変える。したがってIEDからガンマ線が輻射されるようになるので、センサーで探知ができるという次第。
 ※これは初耳。しかし硝酸アンモニウム爆薬は高密度ではないし、放射性に変わるとは聞いたことがない。容器にドラム缶が使われていればそれはスチールだろうから、放射性化するだろう。しかしプラスチックの容器が使われていたなら? 逆に、舗装のアスファルトや、地中の大きな自然石も、中性子を浴びることでことごとく放射性を帯びてしまうのでは? どうも額面通りに受け取れない。そしてもっと初歩的な疑問。アフガニスタンやイラクで道を歩いている住民や軍属は、知らないうちに米軍車両から中性子線を浴びせられてしまうのか? 装置の操作員や車両のドライバーだって被曝しているはずだし、なんでそれが大問題にならない???
 この現行の中性子式地雷探知機は、対象物が小さくて深いと1m先までしか有効ではないが、浅く埋められた大きな爆弾なら20m以上先から探知ができるという。
 課題は、現行品は、中性子放射が非指向性であること。四方八方に中性子が飛び出す。ゆえに対象物までの距離の2乗に反比例して中性子密度が減少してしまう。
 ところがデントは、帯電しない粒子であるためにレーザーのように指向性は与え難かった中性子を、このたびビーム化することに成功したという。
 ※それが本当ならば、一大技術革命。ノーベル賞にも相当近い。
 この中性子ビームを使えば、キロメーター単位で、探知が可能になるという。
 中性子のスピードは、光の14%である。時速にすると、1億7400万km強。
 中性子ジェネレーターと、照準指向システム、給電装置など一式で、14トン以下の総重量にまとめられる、とデントは言っている。
 これは何を意味するか。とりあえずは車載システムとして地雷探知に使えるわけだが、14トンなら、大型輸送機や、大型人工衛星に搭載することも、不可能ではない。
 そこからは、SDI復活の道も開けるだろう。
  ※トランプは早くからこの報告を受けていたので「宇宙軍」創設に大乗り気なのか?
 敵が発射した弾道核ミサイルの再突入体(RV)の外殻金属、さらにその中味のプルトニウムやウラニウムはかなり密度が高い材料だから、ビームとして飛来した中性子を捕獲して、みずから顕著なガンマ線を輻射するようになるだろう。
 したがってレーダーと中性子ビームを同時に照射してやれば、リアルのRVはガンマ線を輻射し始めるが、メッキされた風船に他ならないデコイは観測可能なガンマ線を輻射しないので、簡単確実に見分けることが可能になる。
 ※この話には盲点がある。たしかにポリバルーン製デコイの時代はこれで終わった。しかし劣化ウラン殻に通常炸薬やダーティボム素材を封入したRVは、どうやって真弾頭と識別できる? ガンマ線の輻射がちょっと弱いというだけでは、それが非核である保証とはならないのだ。つまり「軽い水爆弾頭」と「重い非核弾頭」を、この方式では識別できない。軽量のダーティボムRVならば、やすやすと見逃されかねない。
 高エネルギーの中性子ビームは、シリコンやガリウムにとって有害である。したがってRV内の起爆回路を、ビーム照射だけで破壊できるかもしれない。
 ※この場合も、信管がなくともキッチリと機能を果たすダーティボムRVに対しては、効果がない。
 マイクロ波ビームも、敵RV内チップを破壊できるポテンシャルを有するが、射程は中性子ビームより短い。
 中性子は重く、電荷も帯びず、磁石に影響されず、簡単に励起されて飛び出したりしないが、いったん動きが与えられると、ほとんど止める方法がない。いわば、指穴のないボーリングボールのようなもの。
 デントはいかにして中性子に指向性を与えることができたか。
 まず、中性子は原子から分離できる。粒子加速器を使って、重水素と3重水素を核融合させると、中性子が飛び出す。
 中性子は電磁場に不感症なのだけれども、電子が飛び出すかくっつくかして荷電された原子の方は、電磁的に操縦できる。だから、中性子の親の方を操縦してやればいいのだ。
 質量保存の法則があるので、親原子核のスピンによって、そこから飛び出した中性子のスピンも従わせることができる。
 さいしょに原子を一列に整列させてしまえばいい。そしてその全原子を同じ方向にスピンさせる。さすれば、そこから飛び出してくる中性子の方向は、予測可能になる。
 SDI時代に構想された電荷粒子ビーム砲は、照準こそ楽なのだが、地球の磁力に影響され、大気とも摩擦があるため、粒子がどんどん減速してしまうのだった。それを克服するためには、馬鹿みたいなエネルギー源が必要だった。
 これに比して中性子ビームは、高性能炸薬よりも低密度の物料(たとえば大気)によっては捕えられず、地磁気からも影響されないで直進を続ける。したがって、遠達させるためにエネルギー源を巨大化する必要はない。
 ちなみに、ICBMの核弾頭は、爆発するまでは、バナナと同じくらいのガンマ線しか外に出していない。ゆえにパッシヴ方式で遠くから探知する方法は、なかったのだ。
 次。
 ストラテジーペイジの2018-8-9記事。
   シリアで露軍が学んだこと。
 最新型の対戦車ミサイルでも、走行中の車両にヒットさせることは、容易ではない。
 露軍の戦車隊の最近の戦技。「車懸りの陣」。10両の戦車〔つまり中隊か〕が、回転木馬のように円を描いて廻る。そして、敵方から見て、円周の横端に位置した戦車が、敵に発砲する。
 なんでそんなことをするのかというと、全周に対して敵ATM陣地を警戒するためだ。
 このあたりにはもうATMの脅威は無い、とみきわめられた時点で、はじめて、全戦車が、正面の目標(敵車両や歩兵陣地)に集中して交戦する。それまでは、ひたすら側方や後方のATM警戒に精力を割くべきなのだ。
 もし中隊の1両が敵ATMによって擱坐させられたら、全中隊はその1両を円陣の中に取り込んで守る。
 シリア軍に供与されている戦車は、行進間射撃をしても当たらない三流品なので、ゲリラの特攻車両に対して、特別な防禦陣を採用している。
 すなわち土を盛って防弾堤を築城し、その壁の後ろ側に戦車を隠す。ただし戦車砲による反撃ができる「狭間」の切り欠きは設けてある。
 もちろん発砲したらすぐ、その「窓」から離れる。
 ゲリラは、ATMと自爆トラックを併用するようになっている。
 築城だけが、それを無力化できる。