第7師団研修記念 15/10/30

(2003年に旧兵頭二十八ファンサイト『資料庫』へUPされたものです)

 

 長官官房広報課で毎年企画してくれる「防衛庁オピニオンリーダー・部隊見学」。
 平成15年度は10月29日から30日の2日日程で、場所は北海道の千歳地区であった。関東に住んでおれば、入間基地に集合し、そこからU-4やCH-47やC-1で沖縄でもどこでも連れてって貰うといういつものパターンなのだが、さすがに今年からは「お住まいは函館ですか。だったら近くの駐屯地のヘリで送迎しますよ」なんて言ってはくれない。往復切符1万円を自腹購入して、汽車(オレたち地方の田舎者は「JR」なんて呼ばないだよ)で出かけることとなったのである。いやー、北海道で私有車が無いのはほんとに不便。だけど「高速道路つくるカネがあるなら、新幹線を通してくれ」というのも間違いなく道民の多数意見ですから、ついでにご紹介しておきます。

 この日は訓練検閲の状況最終日で、ヘトヘトの部隊の中からランダムに小隊を選抜、89式FV(ファイティング・ヴィークル=装甲歩兵戦闘車)からの重MATと35mmと同軸7.62mmの実射でしめくくっていた。(望遠を持たぬため、各実射の写真は無し。)
 35mmは1両の「BMP」(そんなんもう来るのかよ、という突っ込みはその場では控えた)に対して各車が1発づつ発射して3発を集中するセオリーのようだった。幕敵にはしっかり当たっていた。
 89式FVを保有するのは、歩兵(普通化)が機械化されている第7師団だけ(内地で見られるのは教育用)。次は第2師団にも回っていくのだろうが、かなり先の話か。この89式とペアを組む90式戦車は、第7師団、第2師団(戦車連隊を有するが、歩兵の比率が高く、かつ機械化の度合いは低い)と行き渡り、第5旅団(いまは師団だが間もなくシュリンク)がその次に受領するようだが、第11旅団(いまは師団)までは行かぬのではないかという話であった。

 加藤健二郎氏(後頭部)も「防衛庁オピニオンリーダー」の常連だ。(このコナれないカタカナの肩書きは、NHKの番組タイトルの付け方にも似た官公署的センスがまぶしく、オレ的には人に語るのがためらわれる響きがあるのだが、海上保安庁でも同じ肩書きを下さっており、やはりその肩書きおよび連年のご招待の意図は「広報してください」というところにあるだろうと思うから、ここでPRを致すわけである。)
 写真は、UH-1で某駐屯地から某施設に移動している機内。加藤氏とは「夜間の照準の難しい40mm自動擲弾発射機が重宝するとしたら、それはチョッパーから俯瞰射撃をする用法だけではないか。銃を痛めることを嫌う陸自では米軍のように普及することはあるまい」との意見でだいたい一致している。皆さんのご意見はどうかな?

 ヒューイは3機編隊で、10月の十勝沖地震で貯蔵タンクが炎上した出光石油基地(苫小牧海岸)の上空を通過。右下の1個が黒焦げです。1個だけサイズが違うので、共振の周波数が運悪くピッタリと合っちゃったんでしょうなあ。ついでに、これ見て思うんですけど、ハワイ空襲で重油タンクを全部燃やすのには、それだけでもハンパじゃない数の艦攻/艦爆が必要だったのでは?

(おまけ)

 防衛庁技術研究本部の札幌テストセンターは、国産ジェットエンジンとかミサイル用のラムジェット・エンジンの試験を行なう日本で最強の設備(メインは3音速風洞)が整っている。ガッチャマンの秘密基地のような非日常的内部と思ってOK。
 写真は、開発中の超兵器の恐るべき秘密の数々に圧倒され、すっかり固まって出てきた兵頭である。『それで、…世界制服は何時できるのかね?』と思わず葉巻をくゆらせつつ、猫を撫でつつ、質問しそうになってしまったのだ。(もちろんペットの持ち込みは禁止です。隣の敷地は牛の牧場なのだが。)

  【写真無し】

◎「口の堅い兵頭」というご公儀筋の評判を落としたくないので、内部写真も1枚も示すことができず、申し訳ありませんが、既知かつ公知のアウトラインにつき、蛇足的概説をしておくとしましょう。
 皆さんは「風洞」と聞くと、TVドラマの『タイム・トンネル』のようなものの奥に(…オレも古いな…)巨大なプロペラがぐるんぐるんと回っているようなものをご想像されるかもしれない(これを「ゲッチンゲン型」といいます)。あるいは富士の樹海とか…(それは風穴)。
 しかし今は、次のような風洞が主流であります。
 屋外の巨大ガスタンクにまず6気圧くらいで圧搾空気(ただし乾燥空気。そうでないと吹き出したとき結露現象が起きてしまうから)を溜めておきます。それを再度コンプレッサー(ガスタービン直結の遠心もしくは軸流式)で高圧にして、風洞に導きます。風洞の断面は四角形です。直線で長い導入経路の天井部分にはリニアーに多数のソレノイドが設けてあり、空気道の「絞り」を微妙に変えていくことができます。
 このとき、風洞の横幅(2mです)は不変でありまして、天地の狭さだけが2mから数センチまで、連続的に、自在な曲線でもって、変え得る。
 通り抜ける所の断面積を狭くすればするほど、流体は高速になるという現象は、たとえば洗車するときに透明ホースの途中を強く握ってみれば、あぶくの挙動で確かめられられるかと思います。この原理で、札幌試験場では、最大マッハ4までの気流を
実現している。遅いほうは亜音速(0.3マッハ)まで遅くできるので、この数値的エンベロープの広さと、風洞断面積の広さ(2m×2m)において、日本国内にある他省庁や私企業の風洞は、札幌試験場には敵わないそうです。
 しかし、アメリカやEUの風洞には負けているんですね(ライト兄弟も手作りの風洞で実験してから飛行機を飛ばしたというくらい、アメリカは年季が入ってます)。防衛庁の風洞は、二百数十億円くらいかけて造ったらしいのですが、大蔵省は「アメリカにも無い世界最高の風洞を造らせてくれ」といっても聞く耳は持ちません。(風洞とは別な施設ですが「エンジン高空性能試験装置」という燃焼テストチャンバーも敷地内にあって、こちらは高度7万5000フィートまでは対応しているものの、マッハ2.5を越える高速には対応できていません。これを明記してある公式パンフレットを見れば、日本はSR-71とかバルキュリーのような巡航兵器を造るつもりはないのだな、と米国人も安心することでしょう。)
 なお、巨大ガスタンクの空気は、超音速気流を再現すると、十数秒くらいで全部なくなってしまいます。その短時間にデータを取らなくちゃならない。
 ちなみに、翼面にテープを貼ってピラピラさせるやつ、あれはメーカーにある低速風洞で実施できることなので、ここでは致しません。
 風洞性能のスペックで重要なのは、実機より小さい模型で実験するわけですから、「レイノルズ数」をいかに実機と実空気の関係に近づけてやることができるか、であります。たとえば、空気をどこまでも薄くして良ければ、高速吹き出しを実現するのは容易になるのですが(ドイツの最新風洞などはコレ)、それでは粘性が、実機と実空気の関係と、かけ離れていく。高速で吹き出す空気の密度が濃いというのも、札幌試験場のウリであります。
 皆さんは、供試模型を支えている棒、あれが気流を乱してしまうことはないのだろうか、と思いませんか? それは確かにあるようです。が、今は計算によって補正ができるのだそうです。
 アメリカの風洞は、超音速でなお且つ、湿った空気を吹き出すこともできるそうです。これはたいへんな技術で、単純に水蒸気を混ぜようとしても、吹き出した瞬間に氷の粒になってしまうのがオチであります。日本では実現できていません。
 風洞で消費された圧搾空気は、最後には、吸音材を貼った巨大消音棟の内部にて、大気圧に戻されます。敷地の隣は牛の牧場ですけれども、このおかげで、牛たちも突然の轟音で驚くようなことはないのであります。
 ところでこの施設の人事面での面白いところは、「場長」が陸自の将官であることでしょう。なぜ空自ではないか? どうも、建設用地を探すときに、空幕さんはあまり協力的ではなかったらしいですな。みすみす、格好良いポストを逃したわけか。
チャンチャン!

 高さ70.6mある千歳空港の管制塔。いまは成田の91.1mなどに抜かれているが、できた当時は日本一の高さだった。ちなみに世界一はスキポールで101.7mもあり。

 千歳空港の管制は国交省ではなく防衛庁の担当となっている。恒常風が夏は南、冬は北で一定しているので、4本の滑走路はすべて同じ方位に延びている。ただしナビゲーターが混同してしまうといけないので、航空地図ではわざと1度づつ違えて表記してあるのだ。
 邀撃というやつは、スクランブルして会敵するまでに、こちらの戦闘機が敵機と同じかそれ以上の高度に達していなければならず、しかもそれが我が領土内の上空であったならばもう遅い。というわけで、ロシアの核爆撃機が高速化するのに伴って、米空軍のF-86部隊は千歳を引き払い(昭和33年頃)、三沢以南に後退した。つまり千歳基地は「国境に近すぎる空軍基地」と言って差し支えないだろう。このシビアな環境下、F-15のスクランブルのために民航機の離発着を待たされてしまうなどとブー垂れている日本人は全員、露探である。

 下の階にある管制室。かつてより随分照明が明るいのである。(写真が暗いのは撮りっきりカメラのため。)
 管制官は普段は2時間交代。ラッシュ時には1時間で交代しなければ、集中力が保てなくなる激務である。
 ちなみに空港の管制レーダーが比較的に小さいように見えるのにもかかわらず、覆域がかなり広いのは、こちらの信号に対して飛行機の方からリスポンドをしてくれるからである。その返ってくる信号の中に、固有ID、高度、速度、方角、上昇中か下降中か、ぜんぶ入っている。
 1本の滑走路は、ジャンボのような大型機は後流(タービュランス)が残るので3分の間隔としなければならないが、戦闘機など中型機以下ならば2分ごとに離陸または着陸させることが許されるといわれる。したがって、隣国が弾道弾を撃ってきたような場合に、基地の全力を短時間で空中退避させたいと考えたなら、滑走路の数は多ければ多いほど良いのである。

 千歳に40機が展開しているF-15のシートにわたしも座らせて貰った(その写真は無し)。
 防衛庁は、さすがに潜水艦でも飛行機でも、最新型の内部を親切に公開してくれるようなことはない。潜水艦ならば、来年除籍されることになっている最旧型。F-15ならば、グラスコクピット化される前の古い型だ。しかしF-15は電子機器を大改修してとことん寿命まで使っていく気である。まだ残っているF-4はF-2で置き換える。が、その先は…?
 F-22やF-35を韓国が買ったら、財務省でも検討してくれるのだろう。
 F-15の単座型のシート後方には、与圧されざるガランドウのスペースがあり(跳ね上げ式のキャノピーの後半の下端面に板があって、それが閉じれば密封される)、ここにかなりな機材が追加搭載できそうだった。
 どうせ改修をやるのなら、まずアメちゃんの左手のサイズにあわせてあるために、親指を延ばしても親指ボタンに届かぬスロットルハンドルからして、なんとかしたらいいんじゃないの、というのが実感だ。宇宙船から戦車まで、乗り物にはチビばかり乗せることにしたら設計が楽じゃないかと割り切るロシア式に対し、「デカい奴ほど耐久力もあるじゃろう」と欲張るアメリカ軍。日本はどっちでいくべきか?
 いうまでもなく戦闘機は、買ったら一生使える耐久消費財ではなく、消耗品の集合体である。たとえばタイヤ。着陸が下手だと余計なブレーキングが必要になるために1回でゴムが剥け、全交換しなければならぬ。千歳基地は5cm以上の積雪で除雪をするが、5cm、あるいはもっと積もった滑走路でも、離発着は問題なくできる。
 千歳は三沢と並び、雪国にあるのに降雪で使用不能になることは滅多に無いという点では好立地だ。青森空港などはその点ぜんぜん恵まれていないのである。 ちなみにタキシングウェイを滑走路代わりに使うのは無理らしい。上からみて直線であっても、レベルから見るとサインウェーヴのようにうねっているからだ。
 さらに余談続行。F-15の燃費だが、ミリタリー出力では3リットルで1秒とぶ。
 これがアフターバーナーだと、13リットルで1秒。マッハ2.5ならば1秒で730mは進むだろう。
 空自はJP-4(ガソリン6割に灯油4割のブレンド)を使っているが、これを米軍機に供給したり、米軍のJP-8を空中給油されたりして問題は無いのか? 

答え:最初の数回に限れば、問題はない。

 空中給油の鉄則だが、給油できる機会は逃さずにこまめに実施する。なぜなら、給油機の調子が急に悪くなるという困った事態だってよくあるから。F-15を千歳からアラスカまで7時間でフェリーしたときは、途中で5回の空中給油を米空軍のタンカーから実施した。ベーリング海で泳ぎたいパイロットはいない。

 「特輸隊」という日本語表記がカッコ悪いと、司令が随分気にしておられた。ここは日本に2機しかない「政府専用機」の運用部隊で、じつは千歳にあるのである。
 政府専用機は、常に2機が同時に飛ぶ。先行機に皇族や首相をお乗せし、30分送れてバックアップ機が続いていく。先行機に不具合があれば、すぐに輸送任務を交代できる(もちろん、どこかに降りてからだが)。これまでのところ、そのような事態は1度だけ、あったそうである。
 鍛えられた若い人間が耐えられる最大加速度は11Gだそうで、F-2などは6Gくらいの機動を平気でする。これに対して、軍用輸送機のC-1は、荒い着陸もこなさなければならないが、それでも3Gまでしか耐えられないように機体構造ができてい
る。さらに民間のジャンボ機となれば、1.5G以上の加速度は決してかからないように、操縦機能からして制限されている。というわけで、戦闘機パイロットを40歳くらいで卒業すると(そのあたりの年齢で、ハイG機動中に首が回らなくなるそうである。若いうちはそれができる)、民航機の機長になるのは簡単だが、その逆は、ないのだ。特輸隊の機長はもちろん全員が戦闘機卒業者だ。

 機内の1階前方部分が内部撮影禁止なので、文章でお伝えしよう。首相や皇族の居室兼寝室は1階の先頭キャビンにあった。すぐ上が操縦席ということになる。長椅子やベッドにも、ちゃんと安全ベルトが備わっていた。ビデオなどを再生できるテレビが壁に埋め込まれていた。御付きの者、補佐官等の居室もやや後ろにある。同行記者などは最後部のエコノミー席にすし詰めにされるようだ。中央には会議用の大テーブル。もちろん地声は通じないから全員ヘッドセットで交話する。小泉総理はそこで必ず同行者との記念撮影をするそうである。
 機内騒音という点では、もともと古い設計であるジャンボは、あまり理想的ではない。特に頭にコブのある形状のため風切り音が強いという。核戦争指揮機としての「エアフォース・ワン・日本版」を考えるときに、この騒音問題は重要だ。首相が冷静に危機対処を考えられなくては困るであろう。では米国はなぜジャンボなのかといえば、やはり核爆発から安全な距離を取り続けるために、航続性能が最重視されているのだ。
 ちなみに兵頭の体験的機内騒音ランキングは、CH-47 > C-1 > UH-1 > 佐川急便の遊覧ヘリ > 民航ターボプロップ > 民航ジェット(U-4を含む)となるが、ブラックホークは未聞。しかし馬力から考えて、静かなわけはないだろう。

 狭い! エアバスのような1階建て飛行機と違い、2階建てジャンボの操縦室は、シベリア収容所の懲治房のように狭かった。正副機長の他に、バックアップのパイロットが後席から監視しており(逆噴射など許さん!)、さらに、航空機関士の代わりに航法士が控える。背伸びもできないし、シートがリクライニングするわけでもない。
 なお、操縦要員、それから運用幹部たちは、いちおうアメリカの「エアフォース・ワン」の部隊でも勉強をして来たという。ただし、連中は、AF1のセキュリティ機能については一切、何も教えてくれなかったそうだ。たとえば、ミサイル避けのECMやフレアはあるのか。隠された自動火器はあるのか。大統領用の脱出カプセルはあるのか(たぶん無いという話だった)。
 もちろん本機にも秘密スイッチはありません。

 キャビン後部の記者会見席。アテンダントはもちろん空自隊員である。
 キャビン後部の……ここ、何て言うんですか? クルー用の機内食は、和洋に分かれ、正副機長が同じメニューで腹痛などを同時に起こさぬようにしているのは、民航機と同じであった。

 本機最大の特徴は、邦人救出用のこのメカだ! なんと自前のタラップあり(200kgくらいあるらしいが、写真の作業服の女の同乗隊員が手で上げ下げする。この人たちは機内で複数見かけたが、飛行中はキャビンの床下にある貨物室に居るのだろうとしか思えなかった)。

 この前部貨物室は、さらに機内の階段によってキャビンへ通じている。ということは、飛行中は与圧されているのだろう。
 ところで兵頭はかねてより、「女の隊員を増やすな」論者である。たとえばこのハッチめがけて南ベトナムの群集が殺到してきたとして、女の隊員でその群集を梯子の上から張り倒し蹴り飛ばし、邦人だけを確実にレスキューできるのか?
 皆さんも是非、考えてください。

   【写真なし】

◎この他に、88式SSMとMLRSの展示説明も受けたのだが、雨天の夕方のガレージ内の撮影となり、わたしの使いきりカメラには何も写っていなかったから、報告はまたの機会としたいのである。

  これがU-4です。オレはのらなかった。
のっているのはオレ
 まんなかの人は元海自幹部で今は拓殖大学の鈴木祐二教授ですぞ。
 こんど安全保障論の大学院専攻が新設されたらしい。

おまけ:最近のH先生 15/10/6(寒中水泳記念)

「10月6日の尻別川にて撮影された写真。当日、近くの羊蹄山山頂は冠雪していた。インストラクター氏が水深のあるところにさしかかったとき『ここで飛び込んでもいいですよ』といったら、若い人がみんな飛び込んだ。しょうがないから私もとうとう寒中水泳。まさかこの歳になって10月の北海道の川で泳ぐことになるとは思わなかった。ちなみにドライスーツ着用なので、潜水をやっても、足首より上から腹のあたりまでは濡れないで済んだ。さすがに首周りから水はしみてきた。なおこの日は早朝の降雨のため、増水した川の水の透明度は、水中見通し距離20cmぐらいだった。考えてみると、なんて危ないんだ!」

 「なお来年は北海道の各種スカイ・スポーツに挑む予定である。」