平成16年度 近畿地方部隊見学

(2005年3月24日に旧兵頭二十八ファンサイト『資料庫』で公開されたものです)

兵頭流軍学 開祖 兵頭二十八先生 より
 防衛庁オピニオンリーダーおよび防衛政策懇談会のメンバーによる平成16年度近畿地方部隊見学(05年3月15日~16日)の、写真によるご報告である。今回は空自・小牧基地と海自・舞鶴基地を回った。

小牧 レポート

青色塗装のC-130は、イラク行き用に改造中のもの。黒枠の中のレンズは、地対空ミサイルのロケットモーターが発する赤外線を探知して警報するIRセンサー。これが計4個ついていた。
同じく。空自のC-130部隊はすべて小牧所属。イラク以外にも新潟やらインド洋やら予定外の使用が増えて絶対的な数不足に陥っていた。中東にはピンチヒッターでU-4を飛ばしている。そこで今回の視察もCH-47での移動となった。
機尾にも2方向に向けてミサイルセンサーが付けられていた。中央の小さな2球は尾灯か。

 民航がセントレアに行ってしまったので閑散とした小牧基地(=旧名古屋空港)。この結果、困ったことになった。ひとつはタラップなどの大型機用地上施設も撤収されたため、政府専用機が小牧を利用できなくなってしまった。もうひとつは、三菱工場の戦闘機の音が目立つようになってしまった。当地の住民は過去の墜落例から戦闘機にだけは不寛容らしい。ちなみに日本がC-17を買ってもしょうがない理由が、この地上ファシリティの不備という。千歳と百里くらいでしか運用ができぬのでは困るわけだ。

 イラク名物の砂嵐にC-130が耐えることは実証された。では次期輸送機C-Xのような大口径のターボファンの場合は砂嵐によるトラブルは考えられないのか? ターボプロップで問題なければ、ターボファンでも問題ないとのことであった。また次期輸送機が双発になることについても輸送関係の○○隊長さんにこっそり訊いて見た。隊長さんはC-Xの双発には反対で、できれば四発にしてくれというご意見だったんだそうである。なんとなれば、空自の輸送は、ランニングコストや運航回転率だけ考えればよい民航と違い戦時想定である。エンジンに被弾する場合がある。そのとき、2発の半分を失うのと、4発の1/4を失うのとでは大違いであると。また昔C-1ベースの改造機でUSBとかいって、主翼上面のそれも前縁にエンジン排気口をもってくるという特殊なエンジン配置でコアンダ効果とやらにより揚力を倍増せんとするSTOL実験機があった。斯くすれば下から見た赤外線も減るし騒音も減るから良いことづくめなんじゃないの──と思っていたが、いつの間にか計画は消滅した。その「ダメな理由」も今回聞かせてもらえた。離着陸時の、エンジンの噴流によって強制的に揚力を増した低速飛行状態のとき、もしそのエンジンが事故または被弾によって止まったら…? たちまち翼上面で空気剥離が生じ、とてもリカバーはできないのである。

主翼下、燃料ポッドの上に「チャフ・オンリー」と書かれたカバーがある。イラクで使用するときはこのカバーは外す。
主翼下の胴体の横には「チャフ・オンリー」と「フレア・オンリー」と書かれたカバーが並んでいる。これらカバーを外せば、射出装置が剥き出しとなる。
機首下に増設された風除けに注目。ここにも敵ミサイル欺瞞手段の放出口がある。チャフかフレアかは聞き忘れた。スマン…。

 コクピット内に、敵の地対空ミサイルの接近を警報する計器が二つ、増設されていた。どれがその計器であるかは書かないことにする。

  パイロットの後方、機関士席の頭上に仮眠ベッドが…。まさに空とぶ長距離トラック。たとえばC-1だと内地から硫黄島まで飛んで気象が悪くなっても引き返すことは不可能だが、C-130ならば余裕で他の飛行場に向かえるのだ。

 C-130の荷室にはトイレも設けられていた。もちろん空中から垂らし飛ばすことはなく、タンクに回収する。加藤健二郎さんは実際に座って調子を確かめていた。

舞鶴 レポート

 舞鶴の海自用のヘリ飛行場にCH-47が降りた。左端に写っているのはいつも防衛庁の視察でご一緒する應蘭芳さん……といわれても若い人は分かるまいが、TV実写版『マグマ大使』をリアルで視ていた世代ならば興味があろう(ググれ)。なお画面の奥には、シナからの輸入石炭を燃やす火力発電所を建設するために架けた橋が見える。若狭湾は原発銀座で特別警戒地区になっているはずだが、まだ電力が足りないらしい。

 管制塔から『のと』が見えた。本来なら地方隊を置くべき新潟が軍港でないために、舞鶴地方隊が西は島根沖、東は秋田沖までもカバーしなければならない。いかに日本は大東亜戦争後も太平洋側を「正面」視していたかが分かる。不思議な謎だ。

 総監部の廊下は軍艦式に配管が剥き出し。じつはこの建物は大正14年に江田島から移転した機関学校のもので、ネイバル・ホリデイで計画中止となった軍艦の材料が転用されている。舞鶴は曇りの日が多いゆえ米軍艦上機の空襲もほとんど受けず、こうしてそのまま残っているわけ。天井がやたら高いのは、海軍士官の浩然の気を涵養するためという。我々はこうした説明を、水兵で入隊し、砲術ひとすじタタキアゲで三佐になった方から受けた。昔ならば「兵隊元帥」と呼ばれた特務少佐ではなかったか。

「母は来ました今日も来た」──舞鶴は終戦後に大陸からの引揚げ船を迎えた港で、ここはそれを記念した博物館。入港船は岸壁や桟橋につけさせずに、沖泊させてランチで上陸させた。すなわち日本人を装った朝鮮人などを勝手に上陸させぬ用心だ。検疫で伝染病を疑われた人は隔離施設に収容された。将来の半島有事でもこの心掛けが必要だろう。博物館で再認識したのは米軍がジャップの引揚げのためにリバティ船を100隻も貸してくれたんだということ。典型的なサイズは7200トン、148×19m、ここに3300人くらい乗せて運航できた。もともと2週間で1隻造ったというから恐れ入る。これと日本の戦標船を比べればあまりに格差があり、彼我の統制の質の違いを思わざるを得ない。

SH レポート

 次に艦載の対潜ヘリSH-60を見る。中型ヘリは天井が低くていかにも窮屈そうであるが、SH-60が3時間を越えて飛び続けることはまずないゆえ、苦にはならぬとのことであった。

 両側のオーディオスピーカーのような黒いものはEMSで、敵潜水艦などが出すわずかな電波の放射を探知する。後方にもあり全方位を警戒できる。整備兵が触っている円筒はデータリンクの送信装置で、機体後部にもある。指向性の強いマイクロウェーブらしく、リンク中は2m以内に近寄るなと警告文が書いてあった。

 左舷。整備兵の左手が触れている翼は、次のK型では大きくなって、そこにヘルファイアが吊下される予定。

 左舷後方に向いたEMS。その右側の白いドラムはフライトレコーダーで、ヘリがもし海没してもこいつだけは分離され回収されるように外部に飛び出している。

 ふつうヘリをダッシュさせるには機首下げの姿勢になるのだが、この水平尾翼が自動的に角度を変えることでSH-60の機首は水平を保つ。尾部ローターの回転軸はやや傾斜しており、これにより尾部ローターも揚力を稼ぐ。

 右舷のこのダーツのようなものは、ワイヤーで吊るして海面上を舐めさせ、地磁気の変化を捉えるMADである。既知の地磁気データと違うところがあれば、そこに敵潜がいる可能性がある。

 後席の1人分を占めているディッピングソナー。パッシブのソノブイで敵潜の位置を絞った後、ホバリングしながらこれを、横方向に最も遠くまでアクティブ・ピンが届く水深まで下ろしてやる。確実な探知半径は2.5kmで、もしこの範囲に敵潜が在れば決して聴き逃すことはない。そしていったん探知した敵潜をSH-60がロストすることもありえないとの話であった。アクティブの周波数は機ごとに違っているから、敵潜からも、何機のヘリでどのように絞り込まれつつあるのか、情況の見当がつくという。ちなみに次期SH-60のK型はディッピングソナーが低周波に変わる。それはディップさせると唐傘の骨のようなものが開くのだという。なおP-3Cと違い、SHは機上でソノブイの解析ができず、データを母艦に中継して解析してもらわねばならない。ソノブイは1本50万円くらいらしい。ディッピングソナーはSH-60が自機で解析できる。

うみたか レポート

 46ノットで爆走できるミサイル艇『うみたか』。このクラスの艦長は少佐級と聞いた。なにしろ幹部は4名しか乗ってないのだ。もともと対ソ用の計画艦だったから、北鮮のボロ船相手には勿体無いような強力兵装だ。後部に4発積んだ対艦ミサイル(キャニスターには90式SSMとレタリング)はハープーンの改造品だという説明をうけた。本当ですか? ちなみに射程は「100km強」とのこと。

 高速航行時に舵をきると、ハルはいったんは内傾するが、じきに外傾するという。最大速度で最も急激な舵をきっても転覆しないことは試験済みだという。計算上、70度くらい傾いても転覆しないという。おお、怖…。

 椅子は高性能なスプリング・クッションが効いている特別なもの。波に乗ったときの上下動がすごいのだろう。5点式ハーネスで固縛するようだ。ちなみに食堂の椅子もガッチリした肘付き椅子であった。

 通路は狭かった。ベッドは3段(最新護衛艦は2段)。ただし水兵の体格が向上しているので面積は昔より大。キッチンはなく、3日分のレトルト加熱食のみ。これが護衛艦であれば2週間分の生鮮食糧を積み込む。「1000浬シーレーン防衛」を標榜した折、1000浬の作戦往復は2週間に相当すると計算されたからだ。このミサイル艇内にも神棚と公衆電話(船舶電話)があった。

 複合型作業艇。28ノット出るらしい。その真下あたりが補機室で、機関科員がエンジンを遠隔監視していた。

 煙突の後ろ側にガスタービンの吸気グリルがある。機関が冷えている状態から安定アイドリング状態にするまで約10分、その状態で静止から40ノット航走までタッタの30秒で加速できるという。ちなみに海保も40ノット出せる船を調達しているが、エンジンはドイツ製の高速ディーゼル。国産ディーゼルには40ノットは無理だそうだ。出力は海保のが小さいが、これは兵装が軽いため。

 ウォータージェットの首振りノズル。これが3個並んでいる。46ノット出すときは3つのエンジン(つまり3つのウォータージェット)を使うが、33ノットまでは外側の2基だけでいい。また27ノットまでは1罐でOK。さらに、3つのうちのどのノズルでも、18ノットの経済運航ができる。後進はスラストリバーサーによる。吸水口はミサイルの下の艦底にある。ウォータージェットの弱点として、小さな流木をエンジンが吸い込んだ場合にタービンが破損することがあり得る。ゴミだらけの大陸沿岸で作戦しても大丈夫だろうか?

 甲板下、オットーメララ対空自動砲の基部。ボトリング工場のような揚弾機である。ここに76ミリのタマを80発セットしておけば、最大発射速度で1分足らずで撃ち尽くす。そのあとはまた人力で給弾しなければならない。砲身はもちろん水冷。この兵装は世界中に輸出されておりカタログも公開だから、こんなところを我々に撮影させてもOKなのだろう。

 同じ岸壁に舞鶴地方隊の指揮下には無いイージス艦『みょうこう』がいた。これをミサイル艇の赤外線カメラでズームアップしたところ、SPYレーダーが煙突の次に白く光って目立つ。つまりかなりの熱量だ。聞けば、SPYレーダーは水冷しているのだが、その結果、こんどは結露が集塵機のように作用して、薄汚れた「涙」が垂れてみっともなく、その拭き取り掃除が手間だそうである。


管理人 より
語るべき言葉は全て語られている。私などがもし何かをあえて付け加える事を許されるならば、それは黒く塗りつぶしているのでわかりづらいだろうが、「とんびに注意!」(舞鶴4)の笑顔が、素敵過ぎる事である。