(2016年12月25日に旧兵頭二十八ファンサイト『資料庫』で公開されたものです)
(兵頭二十八先生 より )
「トリパラ計画」についてご説明する。中年を過ぎて北海道のようなクソ寒い土地で暮らしていると、毎年自力で越冬している生物には畏敬の念を抱くようになる。その生命力に率直にあやかりたいと願う心境に達するのだ。
だが、目にこそつかないが、越冬できずに凍死してしまう小動物もいるはずで、それは同じ土地で暮らす人間にも「恐怖」を共有させる。
そこで、もし人間の営為によって、そんな境界線上の野鳥個体の運命を好転させることができるとしたらどうだろうか。
通信販売がここまで発達すると、そこにじゅうぶんな空きスペースさえあれば、実験には僅かなコストしかかからない。
かかる興味本位から、わたしは2013年以降、裏の荒地に各種の鳥の「食餌樹」――すなわち「いつか実が成るはずの木」の苗を植えてみるようになった。
しかしこれは一筋縄では行かぬとすぐに気付かされた。
商品カタログ上の売り文句で「耐寒性が強い」とか「土を選ばない」とか「半日陰でも育つ」とか書いてあっても、2年以内に環境にマッチせずに枯死、衰弱、消滅してしまうものが過半なのだ。定着し、越冬できても、成長が遅くて、2年経っても開花しないものもある。北海道に自生しているはずの種類でも、そのようなケースがある。
それは品種をミスったのか、ショップの差なのか、植える時期が悪かったのか、わずかな日照の違いが関係しているのか、ヘンな硫安臭い安物の培養土を投入したのがまずかったのか……? 皆目わからぬ。断定的なことを1~2年にして言えるようになることもまずない。
さりとて無制限に大量の苗木を試してみることなど許されない。だから、偶然に大きく左右される、手探りのワンタイム試行となってしまう。
知らない子供が春先に闖入して来て遊び半分に枝をヘシ折ったり、真冬に自治体が雇った除雪ホイールローダーが勢いよく突っ込みすぎて幹をボロボロにしてくれるといった撹乱も突発する(しかしこのアクシデントによって、御殿場桜の頑丈さや梅の復活力の偉大さは分かった)。
テーマは最近では、秋に結実して冬まで実が残る種類の樹木をミックスして成長させた場合、そこは“鳥のパラダイス”になるのか――を確認することに絞られつつある。
こんな実験を進めるにあたってはいくつか気をつけねばならぬこともある。
まず、将来この貸家から引っ越して実験地も長期にわたって完全な放置状態になる場合であっても地域には迷惑がかからないように周到にアセスメントしないといけない。たとえば鋭いトゲがあるメギのようなものは最初から選べない(ノイバラは植えなくとも既にはびこっているので許されるだろう)。苦くないのに毒がある実が成る種類も避けた方がいいに決まっている。また2016年夏のかつてない強風を教訓とするなら、長期的にやたら喬木化するであろうヤマボウシやエゴノキのようなものを残置して行くのも無責任だということになるだろう。万一、予想外に高く伸びてしまったときは、それが脚立で届かぬレベルに達する前に主幹をカットすべきだろう。
こんなことをあれこれ心配すると、場所は北国でもあるし、比べ見られるものも寂しい数に限られてしまうのである。
だからまとまったリポートを書けるのもあと数年後になりそうだが、とりあえず途中経過を報告しておく。報告なくしては地上のパラダイスは近づくまい。
2015年4月にガマズミ2苗とミヤマガマズミ3苗を散らすように植えておいたところ、本年は3株(うち1株はミヤマガマズミ)が結実した。
雌雄異株の虫媒花なのでどこか近くに雄樹があるのだと考えられる。近所では見たことがないのだが……。
写真1枚目の症状は「サンゴジュハムシ」の食害。この被害がまったくない株もあった。場所の差なのか? 撮影後に殺虫剤を噴霧したら食害は止まり、この株は秋に結実した。しかし放置しておいたら開花すらしなかっただろうし他の株もいずれ害虫から襲撃されたかもしれない。これは考えさせられた。
写真の2枚目は開花状況である。白いボサボサしたのが花。わたしのバカな鼻ではほとんど匂いは分からなかった。
背景の青花は、毎年こぼれダネで更新される一年草のヤグルマソウ。左の巨大な豆科の蔓は、宿根スイートピー。これだけで密林を構成し、絡み付かれたヤマブキなどの潅木は埋没してしまう。ヤマブキは一重なのだが未だ結実を確認できない。
北海道にも自生するらしいが見たことのないのがサワフタギ。2015年4月下旬に大苗を定植。同年秋には結実しなかったが、2016年秋には、わずかばかり結実してくれた。それが3枚目。見にくくてすいません。
雌雄異株の風媒花なので、どこかに雄樹があって、そこから飛来した花粉で受精したとしか考えられない。しかし、それはいったいどこにあるのだろうか?
2014年4月中旬に定植。その年も、その次の年も、常緑のローゼットだけが越冬して、花茎が立ち上がる兆候はなかった。しかしローゼットの面積は確かに拡大した。耐寒性なのは間違いない。そして2016年。いきなり開花したのである。 3枚目背景左寄りのヤマハギ(植えて2年目)は、この夏の異常強風で地際から倒伏した。ところが、2m以上も直立する「タカアザミ」はビクともしないものが多かった。野生の底力を見た。
ラージでないただのエルサレムセージは、北海道では冬を越せないと言われている。
実は成らない。
何のケアもしていないのに年々大株化する常緑の植物だ。こんなものも特記する価値があると思い、写真を掲げる。
全草から、人のバカな鼻でも分かるほどの香気が立ち上る。そのせいなのか、ほとんど虫には食害されぬように見える。
花期は短いものの、ご覧の通り豪勢。
実は成らない。
2015年4月中旬に、異なるショップからクコを1株づつ取り寄せて定植してみた。
たちまちその月の下旬に2株とも主茎が寒さで枯れかかり、ひこばえだけが小さな葉を付け、夏になっても元気は回復しなかった。
写真の1株は枯れ木のように見えるけれども、これでもまだ生きている。越冬はできたのだ。そして夏には葉が出たし枝も伸びた(柔らかいトゲあり)。しかし勢いは弱い。生きているのに枯れているような感じなのだ。もちろん2016年も開花まで行かなかった。もう1株などは、買ったときよりも株が縮んでいる。
まだ結論を出すのは早いかもしれない。しかし北海道の野外ではこいつは無理なのだという判断に私は傾いている。気候が合えば、秋になる実はいわずもがな、葉まで生食できるという奇跡の木本植物だと思ったのだが……無念。
2015年3月中旬に定植した小苗のウメモドキは、いつのまにか「消滅」。これは定植が早すぎて寒さにやられたと思う。
しかし同年4月下旬に定植したもっと大苗の別のウメモドキは、同年は開花して結実しなかったけれども、2016年9月には立派に結実してくれた。
ウメモドキは北海道には自生していないのではないかと思う。しかしホームセンターで鉢植えを売っていたのを見かけたことがあるから、全く育たないわけでもなさそうだ。
不思議なのは、これは雌雄異株の木で、しかも風媒花。どこかに雄樹があって、そこから花粉が飛んでこない限りは、結実しないはず。
では、わざわざ実の成らない雄樹を買って植えている人が、近くにいるということか? それはどんな人なのか?
2015年5月上旬に定植したコトネアスターは、最初から結実状態で、その年にも開花しまた結実している。矮性なので積雪期には完全に埋もれてしまう。そして翌年3月に確認すると、枝の下方の実はまだそのまま残っている。ナナカマドのような苦い味ではないのだが、なぜか鳥の間では、この実は人気がないように見える。
2枚目の後ろで倒伏しているのは、夏の強風に負けたタンジー。ただし枯れることはない。
2014年10月下旬に定植したカーラント。たぶん土が悪すぎるのだろう、矮性のままでちっとも成長する感じもしないのだが、翌年6月、はやくも結実。7月中旬には人が食べられるくらいになった。しかしこの実は冬までには綺麗に消える。野鳥が気に入っているのだろう。冬に残る実ではないのが、残念である。
夏に結実する庭木としては「ニワウメ」もある。接木で売られており、2015年3月上旬に植えたのが16年にはもう一定数の結実を見た。こちらはヒヨドリが毎日数個づつのペースで腹に収めるのを観察し得た。
晩秋に結実するはずのハマナスは、なかなか大きくなってくれない。カマツカ、マユミも然り。はあと何年待てばよいのか、見当もつかぬ。
2016年3月中旬に定植して、いきなりその夏に開花し、いきなり結実。こういうのは珍しい。越冬できるのかどうかは未確認だが、報告する価値があると思うので、掲載する。
イボタノキは雌雄同株。近くに同種の樹が1本もなくても結実するとされる。
実の直径はごく小さい。12月初め、この近くに雌雉がいたのに出くわして、互いにびっくりしたものだが、雉の目当てはこの黒い実ではなくて隣のワイルドストロベリーだったようだ。
これは川の土手の大木の枝の下に毎年勝手に生えくるのを、1~2年前、別な場所に試しに移植してみたものだ。つまり野生で実生。土地に合っていることだけは疑いもない。
成長が旺盛なので、生垣のように強剪定しても耐えるかどうか2年続けて実験したが、やはり弱まらない。
スイカズラのような小花が咲き、それに続いて夏に実ができる。赤いのと黄色いのが混じるのでキンギンボクと呼ばれる由。実は有毒とされるが非常に苦いおかげで人による誤食はまず起きぬそうだ。それはありがたい性能であるが野鳥がついばんでいるのもまた見たことなし。写真の実は秋にはすべて干からびた。
しかし、これが自然に生えてきたということは、何かのトリが落としたに相違なかろう。
2015年4月末に植えたムラサキシキブ。越冬して2016年秋に結実した。実の直径が小さいので最小サイズの鳥でもウェルカム。
沙漠緑化に役立つ棘のある潅木、すなわちサキョク――といっても日本では誰もわからないので「ロシアン・オリーブ」などという商品名で売られている。ユーラシアの東西に分布するようだ。
写真の株は2016年3月中旬に苗を植えたもので、まだ一度も越冬していないわけだから、ほんらいならば来年までリポートは待つべきだろう。が、この土地では珍しく、すばらしく成長が早かったから、特筆の意味でその姿をご紹介しておく。このスピードは「アキグミ」に通じるポテンシャルを感じさせる。(残念ながらアキグミは1メートル半を越えたのにまだ開花に至っていない。)ツルウメモドキやゴミシのような蔓植物の苗よりも高速で延びるとは、どういうことだ?
背景の白ボルトニアがほとんど枯れている晩秋にも、沙棘の葉の色は夏と変わっていない。このまま常緑で越冬するのかどうかは、観察を続けないと分からない。もし来年以降も調子がよければ、いずれ開花して結実してくれるかもしれない。
いったいどんなトゲが出てくるのかも未確認なので、家の窓からよく見える場所を選んである。
手前のゲラニウムは、今年数種類を植え比べてみたもののひとつ。これらは来年末まで待たないと、どれがよく土地に合っていたか、見極めはつけられない。いずれリポートしよう。
2015年春に定植してこれで2年目の青色フジバカマが今年は豪勢な大株になった。花期もじゅうぶんに長く優秀。春には何もなかったような地面から夏に急激に大きくなるところもおもしろい。ただし3年目はどうなるかはわからない。無肥料の放任でも年々増殖するなら、それは大したものだ。
実は成らない。
地下茎でやたらに増えるヤナギランの芽はこの春には裏庭の数割をカバーする勢いで、いかなることになるかと期待をしたが、不思議なことに今年はさっぱり開花せず、肩透かしを喰わされた。例外的に1、2株に印しばかりの開花が見られたのみでシーズン終了。
多年草でも株によって咲く年と咲かぬ年があったりする。これは球根のカマッシアでも経験する。だが、すべての株が一斉に咲かない現象というのは初めて観察させてもらった。
実は成らない。
(管理人 より )
メリークリスマス!
クリスマスでの更新である。この姿、まさに兵頭流軍学門弟の鑑である。もちろん一人前の兵頭ファンたる者ならば、盆暮れ正月は無論の事、ましてやクリスマスなどに心乱されるなど不心得者との誹りをまぬがない。
ひたすら兵頭本を読み、寄稿記事を追跡し、新刊が早く発売されるのを.朝夕と神仏に祈るのが正しい、いや当然の生活である。いくらなんでも休んで良いのはラマダンくらいだ。
改めて、メリークリスマスである。ちなみに私は来週からタイで酒浸りの1週間を送ってきます。
当サイトをご覧いただいている皆様、どうか良いお年をお過ごしください。
今年もありがとうございました!