本夕の地政学講話(#3)では「飛行機の地政学」をお話しします。

 David B. Larter 記者による記事「The US Navy is moving to put more ship-killer missiles on submarines」。
   対艦型のトマホーク(潜水艦発射用)はレンジが1000海里である。新型の対艦バージョンは2023に配備が始まる。
 しかしこの射程になると、中間での最新目標情報受領が欠かせない。到達するまでに敵艦は大きな距離を移動してしまうので。この中間誘導は、別な航空機や衛星からするしかない。

 次の国防長官に就任するであろうミシェル・フローノイは、2020-6月号の『フォーリン・アフェアーズ』に寄稿して、対支開戦後72時間にして、南シナ海に所在する中共のすべての軍艦、潜水艦、商船を撃沈できるように米軍の能力は整備されるべし、と揚言している。頼もしい。

 ※ペンタゴンは2025年までに、シナ軍艦艇の数の5倍の対艦ミサイルを保有したいと考えている。フローノイは全面賛成だろう。

 次。
 H I Sutton 記者による2020-11-16記事「Rare Electric Narco Submarine Seized in Colombia」。
        コロムビア政府が11-5にツイッターで公表したところによると、同国のククルピ川沿いの麻薬組織の秘密造船所を奇襲捜索し、新型の密輸用潜航艇を押収した。

 建造コストは1隻150万ドルと見積もられる。
 運べるコカインは6トン強。米国での末端価格は1億2000万ドルとなるので、建造費は安いものなのだ。
 近年、途中で米コーストガードに邀撃された場合のリスクを分散するため、1隻あたりの積載荷物量を1.6トンくらいにして小型化するのがトレンドだった。しかしこの艦はトレンドに逆行している。

 大型化した判断の根拠は、北米海岸に接近したところで完全潜没航行すれば、探知されないという自信を持ったからだろう。
 近年の小型密輸艇は、全没性能がなく、正確には、乾舷高ゼロの半没艇だった。
 しかし米コーストガードの探知センサーが充実して、これでは被発見を免れなくなった。

 全没艇はディーゼルだけで航走することはできず、電池とモーターが不可欠である。
 そして新発見の大型潜航艇は、内燃機関をもっておらず、10トンの電池と2個のモーターだけが動力であった。

 10トンのバッテリーを搭載すれば、3ノットで12時間、潜航できる。それでおよそ32海里を前進できる。
 ※「3×12」は36じゃないのかよ?

 コロムビアから北米海岸までの距離はもちろん32海里どころじゃない。じつはこの潜水艦、出発してからほとんどの行程は、水上船に曳航してもらうようになっているのだ。
 そのために、船首先端に小さな曳航用のリングがある。

 深度調節は、船体の前方と後方に1組ずつついている、水平潜舵翼による。

 このタイプの潜航艇は2017-7に初登場した。そして米沿岸警備隊はいままでこのタイプを洋上では一度も、捕獲できていない。だから敵は成功を確信して大型化したのだ。

 次。
 Rupert Darwall 記者による2020-11-16記事「Joe Biden’s Net-Zero Isn’t Normal」。
     バイデン&ハリスは、ウェブサイトで、2050までにネットゼロエミッション経済を実現するとブチあげている。
 これはアメリカの敵どもをよろこばす政策である。
 というのは風力タービン、太陽光発電パネルなどの製造のためには中共やコンゴ共和国やロシアからレアメタルを大量輸入し続ける必要があるからだ。

 2017年の一試算によれば、同じ電力を生み出すために必要な労働者の数は、石炭発電なら1人で済んでしまうが、天然ガスなら2人必要であり、ソーラーだとしたら79人必要である。
 つまりエネルギーをソーラー化することで、失業者に職を与えることができるだろうというもくろみがバイデン政権にはある。

 ソーラーと風力が生み出す、「1メガワット×1h」の価値は、しかし、火力発電より低い。というのも電力は蓄積することができず、電力消費者たちの需要の増減に応じて供給を加減しなければならないのに、ソーラーや風力にはその加減は不可能だからだ。質が悪いのである。

 げんざい米国人は1人あたり年に16.56メトリックトンの二酸化炭素を排出している。先進国では、豪州がこの数値を上回っているが、とにかく先進国中では突出しているといえる。

 ボリス・ジョンソンとエマニュエル・マクロンは「ネットゼロ」を高唱するのが政治的に利巧である。というのは英国人は1人あたり年に5.65メトリックトンの二酸化炭素しか出しておらず、仏人は5.20トンだからだ。これはEU平均の7.53メトリック・トンより少ない。米豪とは無論比較にもならない。だからこの2国は、「ネットゼロ」とフカシていさえすれば、他のどの先進国よりも威張れるわけだ。

 次。
 Liu Zhen 記者による2020-11-17記事「China now has the nuclear strength to hit back at a first strike, former PLA colonel says」。
    王湘穂のフカシの第二弾が明らかになった。
 莫干山で、こんなことをしゃべった、と報道されている。

 中共のICBMは「地下の長城」と呼ばれるトンネル網内を車両機動するので、米国からの第一撃に対して無傷で生き残ることができ、すぐに射ち返して米本土を焦土化させられる、と。

 王は典拠を示さなかったが、複数の米国の見積もりが、米中核戦争になった場合には、中共国内には、北米に射ち返せる核弾頭は1個ぐらいしか残らないとしているという。
 王はそれに反論したのだ。

 ※トライデントSSBN×1隻でも中共の戦略核能力を先制的に一掃することができる。これは誇張ではない。ただし議会で予算を取らねばならぬ都合上、そういう見積もりは公表はされないのである。バイデンとハリスには、これからブリーフィングされるはずだ。ブリーフィングを受ければ新大統領は中共に対して強気になってしまう。そうなる前に宣伝工作を打って、中国の怖さをバイデン=ハリスの深層心理に刷り込んでやろう――というのが、『超限戦』の著者の作戦だ。トランプは政権移行作業を邪魔し続けることによって、敵の宣伝工作がつけいる時間を提供しつつある。



「地政学」は殺傷力のある武器である。〈新装版〉 ニュー・クラシック・ライブラリー


日本史の謎は地政学で解ける (祥伝社黄金文庫)