If even in U.S. a single-entry-mind man could be The President, nuclear vengeances shall be the option of the day in the bomb-spread world.

 Philip Rucker and Robert Costa記者による2016-3-21記事「Trump questions need for NATO, outlines noninterventionist foreign policy」。
   『ワシントンポスト』紙社説委員会の質問にトランプがいろいろ回答した。
 彼の考えは、米国は海外関与を減らし、もっと国内に資源を投入するべきだというもの。
 ネイション・ビルディングに手を出すべきじゃない。それはうまくいかぬことはもう証明された。アメリカはバブルの上に座っていて、しかも19兆ドルの財政赤字がある。このバブルがはじけると地獄がやってくる。だから今は自国を再建するときであって、海外問題に首を突っ込んでる場合じゃない。
 われわれはイラクに学校を建ててやった。彼らはそれを爆破した。そしてまた建てた。また爆破された。そんなことを三度も繰り返してるんだよ。その間、ブルックリンには1軒の学校も新築されちゃいない。米国政府が米国内に投資をする気がないから、われわれの公立小中学校はずっと赤字なんだ。もちろんおれたちはこの米国の外側に世界があるってことを知ってはいるよ。しかし米国のいたるところの大都市のまんなかに差別され放置され忘れられた黒人の「インナーシティ」があるのはいったい誰のせいだ。政府がくだらない外国関与をしているから国内に使うべきカネが無いんだよ。
 トランプは、レーガン政権の国務長官ジョージ・シュルツを讃え、今のケリー国務長官をけなす。
 ウクライナ問題に対処すべきはドイツ以下の欧州NATO諸国だろ。米国ではない。なぜロシアの侵略問題に米国が世界中で対処しなければならないんだ。
 欧州NATOはわれわれ米国からカネを吸い上げ過ぎている。このコスト負担は持続できない。だからこの関係はもう止めるべきだ。
 韓国は金満のえらい工業国家になってるよな。しかるにおれたちはいまだに、韓国のために軍隊を駐留させたり軍用機や空母を派遣したり大演習をしてやっている。そこにかけたおれたちの多額の税金を韓国人からはまだ払い戻してもらっていないじゃないか。おれたちは彼らのために使った費用を彼らに請求すべきなんだ。彼らはそれを全額支払うべきなんだ。
 アジアなんかに関与したってアメリカにとっては一銭の儲けにもならない。それは現実が証明しているじゃないか。アメリカ国内にはこんなに貧乏人が多くて、政府の財政収支は大赤字じゃないか。昔のアメリカはこんなに貧しくはなかったぞ。もっと強力で裕福だった。
 中共は信じられない野心を抱いているよ。いまや中共は無敵感に浸っている。そうさせたのはだれだ? オレたちなんだよ。アメリカ政府がシナ人のために多額のアメリカ人の税金を突っ込んでやったんだ。それなくして、今のような中共の交通インフラは無かった。おれたちのおかげでシナ国内にはとほうもない規模の空港、高速道路、橋が無数にできあがった。ニューヨーク市にあるジョージワシントン橋すら、彼らの最新橋梁にくらべたらおもちゃみたいに小さい。ところがアメリカ政府はアメリカ国内にはそういう橋や道路を造らない。どうかしてるじゃないか。
 ※このあたりはナヴァロ教授のレクチャーが反映されていると思う。
 ※トランプはしきりに、アドバイザーは誰だ、という質問をマスコミからされる。それに対しては「公表をしない」というポリシーがあってもいいと思う。なぜなら、その名前をマスコミの前で挙げたとたんに、そいつは候補者トランプのアドバイザーではなくて、彼トランプ以外の誰かのロビイストやエージェントに変質するおそれがあるからだ。
 次。
 Steven Mufson記者による2016-3-28記事「How Belgian prisons became a breeding ground for Islamic extremism」。
  パリとブリュッセルのテロを実行したイスラム教徒の多くは、以前に軽罪(といっても武装強盗やカージャックだが)で欧州の刑務所に入っていた。
 欧州ではどこのムショの中にも過激イスラム伝道師のようなやつがいて、そいつがチンピラアラブ人を自爆テロ犯に仕立て上げるのである。
 この伝道師は禁酒も勧めるところがミソ。
 ベルギー人の看守たちはアラブ語など理解できないから、房と房のあいだで何が交話されていても放置だ。
 礼拝の時間になると、テレビを消せ、とアラブ人受刑者は要求する。他の者は従うしかない。
 ベルギー国内の刑務所受刑者数は11000人である。うち20~30%がムスリムである。ベルギー国内の住民のムスリム人口は比率にして6%なのだが。
 ある元長期受刑者の証言。彼は、〔チュ二ジアの?〕プロサッカー選手からアルカイダ支持者になったトラベルシという囚人と同房になった。そいつから2003に聞かされた身の上話によると、トラベルシはベルギーのクレインブロゲル空軍基地に自動車爆弾で突っ込む役をわりあてられたのだが、やらないで逃げた。その基地には米軍の核ミサイル〔おそらく投下核爆弾のこと〕が貯蔵されていたのだと。
 ベルギーの刑務所内では、大音量でコーランミュージック(それも銃撃音の効果音付き)を流していても、看守から少し音を小さくしろといわれるだけ。
 両親が面会にくると受刑者は宗教書を差し入れてくれという。両親は息子が麻薬と酒から足をあらったのだと思ってよろこんで差し入れる。しかしそれは獄内伝道師による、テロリスト教育の成果にすぎないのだ。
 ベルギー監獄当局から、若い囚人の脱ラディカル化のために公式に雇われている一人のイマーム氏いわく。彼らを一緒の獄に入れてはいけないんだ。集まれば、彼らは、じぶんたちが強くなったと勘違いしてしまうから。コントロールできなくなる。
 ベルギー刑務所の中にはふたつの言葉しかなかった。ヘイトと〔宗教的〕リスペクト。どっちもキチガイ沙汰なのだ。もう聞きたくない。
 ※26日に浜松にお集まりの皆さん、ありがとうございました。缶詰爆弾についてはひきつづき調べてみますがあまり期待しないでくださいね。懇親会で昭和5年生まれの方から〈めんどうくさい、と思ったら、死期が迫った証拠だ。面倒な仕事はリハビリだと思って取り組むことだ〉と健康の秘訣をご教示いただきまして、わたくしは電撃を受けたように感じました。


Why US&SK don’t carry out joint-exercise during NK’s busiest farming season of May?

 毎年5月に韓国で米軍と韓国軍が1ヶ月間にわたって陸海空のリレーで演習を続行するようにすれば、北鮮では、農民がその期間中、くだらない国威発揚作業に動員されるから、北鮮の水田での作付けは準備作業からしてまったく不可能になる。
 その演習終了直後は、こんどは北鮮軍隊が農村に入って農耕を手伝うしかないだろう(トウモロコシの直か蒔きなら間に合う)。
 北鮮軍の臨戦レベルは、夏の戦争シーズン直前(6月)に急降下するしかない。これは半島の安全に資する。
 秋の収穫期の後半にも、米韓軍が同様の演習をぶつけてやれば、北鮮農民は北鮮軍隊から略奪される前に収穫物を個人宅に隠匿できるので、むしろ米韓軍が北鮮農民から感謝されるだろう。
 北の体制崩壊を早めれば、毎年高コストの演習を反復する必要もなくなる。米軍の演習費もかからなくなり、トランプ候補も満足するだろう。
 次。
 JANE PERLEZ記者による2016-3-20NYT記事「U.S. Casts Wary Eye on Australian Port Leased by Chinese」。
  退役豪州軍人で豪州戦略政策研究所所長のピーター・ジェニングスが豪州国会の公聴会で証言。シナ人は、ダーウィン港で、艦船がどのように運用されているか、搭載と卸下をどうやっているか、艦船が出す電磁波の完全なモニターができるであろうと。
 公聴会でだいぶあきらかになったが、ダーウィン市を首府とする「ノーザンテリトリー」州は、ローカル政治家も経済支配層もド腐れであった。※沖縄の土建ボスやゾンビ左翼とは少し違った意味で。
 彼らが、シナ人からカネを得たいがために、州の選挙前に大急ぎで港湾の99年間リース契約を結んでしまった。だから破格に安い。3億6100万ドル。豪州政府を通じて米国にも相談しなかった。
 しかし労働党のデニス・リチャードソン国防大臣は否定する。いわく。シナ人スパイとやらは埠頭の「フィッシュ&チップ」店のベンチで、1日じゅういかなる船もダーウィン港に出入りしないのを眺めることになるだけさ。
 それほど経済的には過疎だったわけである。今までは。※添付写真を見ると本当に船舶の姿が無い。ちなみに3月のかの地は猛暑。
 もし豪州海軍がFONOPをやるとしたらダーウィン港から出航する。これは米国務省が言った。
 港の借り上げ契約をしたのは中共企業ランドブリッヂ社だが、競合入札ライバル社より2割も高い値を付けた。彼らの目的が商売なのかどうかは疑わしいと米国政府は見ている。
 米軍艦船がいつも給油してもらっている陸上燃料タンクも、ノーザンテリトリー政府がランドブリッヂ社にリースしてしまった土地の中にあるのだ。頭おかしいんじゃないのか、というのが米国政府の心の中。
 ランドブリッヂ社の会長は、2013に山東省から、「国防開発に尽くした10人」の一人として表彰されている。
 本社は日照にある。国策石油企業CNPCから石油商品を供給され、それを自社ブランドでGSなどに小売りしている。
 現港湾マネジャーのオコーナー氏にいわせると、ダーウィンにシナ人労務者を導入する計画はない。
 ダーウィンには毎年100隻前後の軍艦が寄港する。ほとんど米海軍か豪州海軍。
 じつはシナ人が次に目をつけている豪州港湾がある。フリーマントルだ。ここの権利もすでに入札にかけられているのだ。※このWWII以来の匿れた潜水艦用軍港の既往については草思社文庫『北京が太平洋の覇権を握れない理由』の22頁から23頁で書いた通りである。
 オバマ大統領は2015-10にマニラでターンブル首相に面会したとき、ダーウィン入札について相談がなかったことを詰った。
 「次は事前にわれわれに知らせてくれ」とオバマ氏は言ったそうだ。
 ※求む。豪州のどまんなかにあるアリススプリングズ市の空港に隣接した砂漠に、東洋では最大にして唯一の、軍用機のボーンヤード(砂漠露天保管場)があります。ここに旅行してその写真を撮った方、あるいはこれから立ち寄ってくれる方、ご連絡ください。兵頭が次著のための写真を欲しています。ご注意。米軍のパインギャップ施設には近寄らないでください。それには興味ありません。もうひとつ。アリススプリングズ市もノーザンテリトリーなので、いろいろ腐っているおそれがあります。特に都市犯罪。
 次。
 John McCarthy記者による2016-3-18記事「Australia and the South China Sea」。
 ※この寄稿者は以前の駐日大使さんである。駐インド、駐インドネシア、駐米大使も務めている豪州の外交界長老。
 南シナ海を論ずる豪州人には2グループがある。ひとつはワシントンの代言人。米国と異なる方針は議論抜きでダメだと考えている。
 もうひとつは、中共の侵略は許されないけど、南支那海は豪州イシューではないから、われわれは何の行動もすべきでない、と言う。
 どちらも間違いだ。ナショナル・ポリシーというものは、セルフィッシュであるのが筋だからだ。われわれは豪州の必要に基づいた戦略方針を画定しなくてはいけない。米国やシナをよろこばせることを第一に考えるようではダメなのだ。
 米国人だとこういうかもしれない。おまえは闘技場の中心で敵手と相対しているのか、それとも単に切符を買っただけの外野席の客か、と。
 まずわれわれは、商品の自由な運送、そして海上航行の自由から益を得ている地域国である。シナと同様に。
 さらに、南シナ海が安定しているかどうかは、特定少数国の地域紛争問題ではない。太平洋諸国全部の大問題である。
 フィリピンがスカボロ礁に関して国際常設仲裁法廷PCAに中共を提訴した。われわれは中共にその判決に従いなさいと言いたいところだが……。
 ……じつは豪州の立ち位置には非の打ち所がある。1982国際海洋法会議の決め事に、豪州は賛成しておらず、加わっていないからだ。
 豪州は東チモールとの国境に関して公然と争っている当事国であり、それについてはPCA裁定には従うつもりがない。だから、中共に対して、弱国を脅して境界で譲歩させようとするな、などと偉そうなことは言いにくい次第だ。
 わが労働党は、東チモールとの2国間協議が紛糾している国境問題でPCAの裁定をうけいれてもよいという考えを示唆しているが……。
 南シナ海の最大の権利当事者はASEANなんだから、アセアンがもっと団結して強く中共に対峙しないとダメだろう。そのように豪州はハッキリと言明して促すべきである。
 誰か1国がシナに文句をつけたって、シナ人は聞く耳を持たない。
 南シナ海でのFONOPは、やるべし。ただし米艦隊と合同ではすべからず。豪州艦隊が単独でFONOPをやれ。それによって豪州は米国様の馬廻り小者ではないというところを示すのだ。
 ただしコースは選ぼう。ボルネオ島北西端のコタキナバル市とインドシナ半島南東端のホーチミン市の間を結んだ海上線を通過するコース。または、マニラ港に出入りする商船がよく使う航路。それらを、豪州軍艦および豪州軍航空機がFONOPとして通行してみせるべきである。それなら別に中共に挑戦しているようには見えぬ。
 ※人口小国の苦労というものがよくわかる二つの記事をご紹介しました。あの広さなのに2000万人くらいしか人が住んでいないんだから、政府の悩みは並大抵じゃないだろう。豪州の広さはメルカトル地図ではよく分かりません。地球儀で確かめると呆れます。シナ企業がくれるというはした金に目が眩んでしまうのも、人口2000万人ではロクな大産業が育つ見込みはないから。そして労組が強い(それで世界中の自動車工場が逃げ出してしまった)。にもかかわらずフランス系資本の豪州Thales社は豪州海軍最大の軍港たるシドニーの「ガーデンアイランド」海軍基地内の「キャプテンクック」というドライドックなどを所有し、海軍にリースしている。2004年以降、特定国籍の労働者は軍需企業で雇ってはならないという法がある。調べるほどに、面白いです。


Racism is working in IRAQ, sir.

 奥山真司先生から新刊『中国[チャイナ]4・0』(文春新書、2016-3pub.)を頂戴したのでサワリをご紹介したい。エドワード・ルトワックに奥山さんがインタビューして1冊にまとめたもので、とてもよみやすい。
 英国の外交政策は30年で変わる。ドイツは50年で変えてくる。ソ連は30年ごとに変えた。プーチンは20年ごとになっている(p.133)。
 しかるに中共は過去15年のあいだに対外態度を3回変更した。アフリカの小国並に、予測ができない。
 【トウ】小平以後、2009までの中共の態度を「チャイナ1.0」とする。
 経済的にも軍事的にも着実に強大化するものの、諸外国から鋭く警戒されるような挙動は慎んでいた。
 リーマンショックで米国経済が減速し、他方でチャイナ経済だけは年々10%以上伸びると錯覚して以後(2009末~)の中共の態度を「チャイナ2.0」とする。
 あと10年したら米国も追い抜けると勝手に都合よく計算して強気となり、諸外国から忌み嫌われることなど気にしなくなった。
 たとえば蒋介石と国民党が戦前のいちばん弱い時期にでっちあげた「十一段線」を改変して「九段線」と言い始めた。これでASEANの大半を一気に敵に回したが省みず。
 そもそも、最初の大誤解をさせたのは、ゴールドマンサックス社のセールストーク。だがローマ帝国以来、同じような経済趨勢がセベラル年以上連続することはないのだ。
 ルトワックのパラドックスも発動した。たとえば小国のベトナムを脅迫して屈譲させようとしても、危機を感じた米国やインドがこぞってベトナムの支援に回るので、脅迫開始時点よりも中共の対越ステイタスは下がってしまう。
 かくして、「チャイナ2.0」は間違っていたと中共は2014秋にようやく気付いた。
 2014秋以降の中共の態度を「チャイナ3.0」とする。
 これは「1.0」と「2.0」の折衷。
 脅迫する先を少しは選ぶようになった。フィリピンは狙われた。フィリピンは、ベトナム政府がしたように、シナ人観光客に対する国家後援テロを命ずることができなかったがために、領海を一方的に蚕食されつつあるのだ(pp.60~61)。
 北京が「1.0」まで戻れない理由は、内政に問題が多すぎ、外政だけに集中できないため。
 ロシア流との違いも際立つ。ロシアの対外行動は常に有言実行。シナでは政治家は嘘でたらめを言っても国民もそれを許容するので、口だけ侵略になってしまう。
 「3.0」の破綻は、習近平の2015秋の訪米で天下に知らされた。ホワイトハウス会談の翌朝に、太平洋艦隊ハリス司令官が豪州で「押し返す」という演説。さらにその直後に訪米した韓国大統領を前にして中共の行動は許さないとオバマが断言。
 「3.0」を誘導したのはキッシンジャー。『キッシンジャー回顧録――中国』の末尾で「G2」をほのめかしたのを、シナ人が妄信した。
 ところが米国人には、ロシア人やシナ人相手の「G2」など認める気持ちはぜんぜんない。それがなぜ習近平に伝わっていないかというと、ヒトラーがかつて持っていた、そしてプーチンが今持っている〈情報フィードバック回路〉を、サダム・フセインや習近平のような指導者たちは持っていないから。
 ヒトラーはラインハルト・ハイドリヒから、自分の演説が国民に不評であるといった真実を正確に報告されていた。だから戦争の最後まで粘りに粘ることができた。プーチンもああ見えて国民の声を全部聞いた上でその人気に投ずる政策を打っている〔つまり帝政旧領の回復を望んでいるのはロシア国民自身であり、彼らはそのためにはWWIIIを辞さない。またプーチンがトランプと馬が合う理由も大衆重視だから〕。習近平にはあきらかにそのフィードバック回路が無い。
 ルトワックがいちおう提案してみる「チャイナ4.0」。
 九段線を撤回してインドネシア、マレーシア、ブルネイとの摩擦を解消すること。※ナツナ諸島については主張を撤回しているのでインドネシアにはもはや不安は無いはず。だから高速鉄道案件もすばやく決まった。
 空母の建造を中止すること。それで米国の警戒感を解消できる(p.153)。
 本書の最も面白い箇所は、91頁~93頁および98頁。
 2003のブッシュ政権によるイラク征服作戦の際、ルトワックがさる会合に呼ばれ、イラク内の民族と宗派の対立の様相を概説した上で、民主主義はあの国には無理だとの意見を述べたら、たちまち「レイシスト」とレッテル貼りされ、誰も聞く耳を持たないようになった。これはアメリカ人の一般的な世界観・人類観である。文化の差などないはずだと盲信するのだ。(ルトワックはルーマニア生まれ)。
 じつはこのジョージ・W・ブッシュ政権は、戦争内閣ではなかった。経済内閣として組織されていたので、主要閣僚のほとんどが減税や規制緩和ビジネスのことしかマインド・セットに入っておらず、対アルカイダの総合戦略などとうてい立てられもせず、愚劣さにおいてまさしく日本の1941真珠湾攻撃にも匹敵するイラク征服をおっぱじめてしまったのだ。
 本書の二番目に面白い指摘は、129頁から130頁。
 韓国人が憎んでいるのは、日本の統治時代にパルチザンとなって日本人を殺そうとしなかった自分たちの祖父たち。終戦直前まで日本の将校は朝鮮の街で安全そのものに暮らしていた。誰も軍高官を襲撃しようとはしなかった。抵抗など無かったのである。これは1940におけるオランダと同じ。彼らも抵抗せずにドイツに占領されることを選んだ。だから、オランダ人の戦後の反独態度は、恥ずかしさのあまり過剰になった。1960年代までドイツ人はオランダではバカンスはぜったいに楽しめなかった。その逆に、チトーのパルチザンがドイツ軍とわたりあったユーゴスラビアでは、戦後のドイツ人旅行者はすぐに大歓迎された。ユーゴスラビア人は自分たちを恥じる理由がなかったからである。※これを読んで戦後フィリピン人が親日である理由がよく分かった。フィリピン・ゲリラが殺した日本兵はかなりの数なのである。山本七平氏の著書に生々しい。
 ルトワックの予言(pp.144~5)。もしこれから中共がもっと強大化してシベリアの石油/ガス田を支配すると、中共はアウタルキーを得てしまうので、海軍など作る必要はなくなる。
 ルトワックの対日提言(pp.172~3)。中共に対しては「慎重で忍耐強い対応」は逆効果。殊にアメリカが面倒みきれない尖閣/離島事態に関しては、日本単独で、「有事に自動的に発動される迅速な対応策が予め用意されていなければならない」。さもないと単独抵抗できずにクリミアをうしなったウクライナと同じ運命が日本には待つのみ。国連も何もしてくれない。
 タイムリーです。


数年前から近所づきあいしているカラ吉夫婦が今年はわが借家のすぐ近くに巣をかけた。5月中旬までの子育てを観察したい。

 ストラテジーペイジの2016-3-10記事「Free Range Data Reveals All」。
   洋上で、不審な動きをする船舶だけを浮かび上がらせてくれるビッグデータ解析ソフトができた。「偽難民」の密入国事案の水際阻止に役立つ。
 過去のAIS航跡をビッグデータとすれば、平常運航と異常運航の違いはすぐに分かるのである。
 典型的な密入国商売船の動きは、港湾の外縁に到着したのにそこで1週間近くも漂泊して、入港しようとはせぬ船。これは逮捕を免れる算段をしているのである。
 最も燃費が節約できるコースを、荒天でもないのにわざわざ避けている船。非常に怪しい。
 海軍やコーストガードが有している諸データでは「人間密輸」の探索の役には立たないが、こうしたビジネス・データをビッグデータとして利用すれば、話は簡単なのだ。
 国際的な合意により、300トン以上の民間船は、AISとインマルサット通信機を持たねばならぬことになっている。
 これもオープンソースインテリジェンス(OSINT)の一種であるし、また、軍民デュアルユース情報機器だともいえる。
 米陸軍は、オープンソースの利用法の手引書を作っている。「Army Techniques Publication 2-22.9」(ATP 22.9)というマニュアルだ。主にインターネットの話。
次。
 Bryant Jordan記者による2013-3-9記事「Enlisted Airmen May Begin Flying Drones This Year, General Says」。
  とうとう人手不足の米空軍が、下士官にも無人大型偵察機グローバルホークを操縦させることに決めた。
 ことしの9月30日(米国の予算年度の最終日)より前に、それは実現するという。
 ただし当面は、この人事措置は、偵察型のグロホに限定される。武装リーパーには当面は適用しない。
 しかし検討はしている、と上院軍事委員会で証言された。
 ※日本は周回遅れどころじゃなくなってきたね。ナイジェリア、パキスタン、イラクは、すでに中共製のプレデター相当機を使って爆殺ミッションを開始している。インドとヨルダンは、イスラエルから同等機を買っている。


函館の蔦屋さんは、店舗から自転車で10分のところに住んでいる地元作家の本を取り上げてくれぬと張り合いが出ませんぜ。

 ※まあ産経新聞は北海道で売ってないからサンヤツ広告も目につかないと思うけどね。
 JAMES ELLINGWORTH記者による2016-3-8記事「Drug in Sharapova doping case used by Soviet troops in 1980s」。
  マリア・シャラポワ選手が服用していたドーピング剤メルドニウム(meldonium、別名 mildronate)は、1980年代にアフガニスタンで作戦するソ連兵たちのスタミナを増すために投与されていた薬である。
 メルドニウムを製造しているラトビアの製薬会社いわく。医療現場では、このクスリの投与は、ふつう4週間から6週間に限られる。
 1人の患者に4~6週間の投薬治療を、1年に2回か3回、反復することはある。
 ところがシャラポワ選手はこのクスリを10年間常用していたと白状した。
 メジャー大会で5回優勝しているキャリアのすべてが実はクスリのおかげだったかもしれない。
 シャラポワ選手は、今年1月、メルボルンの全豪オープンで、この禁止薬物が検出された。2016-1-1にメルドニウムが「世界反ドーピング協会」から選手の禁止薬物として指定された直後のこと。
 WADA(反ドーピング協会)がメルドニウムをリストに加える意向は2015-9から公知であった。そして2015-12にはシャラポワ選手は、このクスリを使い続けると来年からはひっかかるよという警告のインフォメーションのeメールを受け取っていた。しかし、そのテキストをロクに読まなかったという。
 メルドニウムの主な作用は、血流の促進である。もともと、心臓病の治療薬なのだ。しかし心臓病大国である米国ではほとんど知られていない。FDAで認可をしてないからだ。しかし、ソ連=ロシア軍内部では、かつてはふつうに処方されていた。
 メルドニウムを開発したのはラトビア人のイヴァルス・カルヴィンス。彼が2009年に地元の新聞のインタビューに答えて、80年代のアフガン侵攻作戦中のソ連兵にこのクスリが投与されていたことが明かされている。
 アフガニスタンのような高地で、重い装具を背負って20kmもかけずりまわったら、酸素欠乏から虚血症になりますな。
 そこでメルドニウムですよ。ただし投与には本人の合意はありませんでした。誰も何も質問せず、上官の命ずるままに、全員がそれを服用したのです。
 1996年のアトランタ五輪では、やはりロシア選手のサンプルから「ブロマンタン」という薬物が検出され、爾後、禁止リストに加えられている。このクスリも、ソ連時代に軍隊で投与されていたものであった。
 カルヴィンスに言わせると、メルドニウムはドーピング薬とは違う。筋肉を強化するわけじゃないから。メルドニウムは、人間が肉体的なストレスに極限まで堪えられるように援けてくれるのである。すなわち、身体が生存のための予備としてとってある最後のエネルギーまでも使えるようにしてくれるというのが、その効能なのだ。
 シャラポワ選手は何と自白したか。過去10年間、風邪をひいたとき、糖尿病の初期症状が出たとき、心臓エコー検査で不正常が発見されたときなど、折々に服薬してきました、と。
 最初は2006年。そのときいくつもの健康問題を抱えていたので。それ以後、常用していたかどうかは話さず。
 ※ソ連のアフガン戦争は1979-12に始まり、1989-2に最後のソ連部隊が撤兵して終わった。とっくに90年代からこのクスリがロシア・スポーツ界で普及していなかったと考える方が不自然である。10年どころじゃあんめえ。メジャー大会五度優勝の自分の偉大な履歴を守ろうとしているのだ。
 メーカーにいわせると、メルドニウムには危険な副作用も少ないので、心筋細胞が酸欠で死んでしまうというリスクがある患者はどんどん使ったらいいじゃないか。
 スポーツ選手がこれを使うと、脂肪酸がエネルギーに変わる体内の過程が、スピードダウンするのだという。
 そして極限まで消耗しても肉体が耐えてくれるため、精神的にも敵選手より長くもちこたえられるようになるのだという。
 メルドニウムは今モスクワで普通に売られている。ガラス瓶と錠剤の形で。APの記者も試しに買ってみた。添付の注意書きには、副作用として、血圧の変化、心脈のイレギュラー化、皮膚の変調が列記されている。
次。
 Franz-Stefan Gady記者による2016-3-05記事「Is the Japan-India Military Aircraft Deal Dead?」。
  4月までに契約するという話であった、新明和のUS-2×12機のインド海軍向け商談。3月になっているのに、まったく何の進展もないようだ。
 インド紙『ザ・ヒンドゥー』が報じた。
 ※この海軍向けというのが全く奇妙で、交渉相手は最初からインド国防省ではなく「商工省」。技術移転だけぶったくろうという態度がミエミエだった。詐欺話みたいなもんに安倍政権はひっかかったのだ。戦前アタマの旧通産官僚は退場して欲しい。
 打診は2011から始まっていた(日本の民主党政権時代)。
 2015-12に安倍とモジが会談したとき、技術協力が謳われた。
 そしてその場でUS-2を売るという話に言及された。
 総額16億5000万ドルの契約が2016年の4月までになされる。まず完成機2機が引き渡され、その後、ライセンス生産が始まる、という話であった。
 ところが、日印の外相級会談でもUS-2の話は全く出ていない。だからこの商談そのものが、じつは存在しない。
 それでもひょっとして何か基礎了解の共同声明みたいなものが今年か来年、あるかもしれない。
 だがその先が大変だ。オフセット交渉が待っている。技術移転要求が待っている。
 長年武器輸出をしてこなかった日本人は、インドの官僚機構特有の多重難題を突破するノウハウを全く持っていない。
 インド海軍は、このUS-2を、アンダマン諸島とニコバル諸島に置きたいと考えていた。ベンガル湾の監視強化のため。
 ※詳しくは次の武器輸出をテーマにした本の中で語ろうと思っていたが、多忙につき執筆が遅れていて出版は夏以後になりそうだから、先に少し話しておく。インド軍がいろいろな最新兵器を早く持ちたいと欲している感情は、ホンモノ。パキに対してはいままで負けなしだったのだが、中共が新鋭機をそろえてくるので、もはやウカウカしてられない。ところがインドという国は、クーデターを防止するために、軍の政治権力がその規模のわりに異常に小さくされている。陸軍じたいも「パラミリタリー」等と呼ばれる複数の組織と並列的に運営されていて、もし1つの軍事組織が政府に叛乱しても、他の組織で鎮圧できるように、独立直後から工夫されている。それと、軍隊はカーストを差別しないので、真のエリート名門流は将官にならない。その結果、財務系官僚の力がものすごく強い。軍事的合理性よりも、コストが低いことや、オフセット(相殺投資)がでかいことや、技術移転がフルセットであることなどが重視されるのだ。しかも、MMRCAの十数年越しの経過を辿ればよ~くわかるのだが、二段階入札が終わって一社に絞られたあとで、そこからオフセット交渉が始まる。それがとてつもない要求で、最新デジタルレーダーのソースコードを開示しろとか、さしものダッソー社とフランス大統領も、よくもブチ切れないものだと感心するくらいに虫の良い要求が出てくる。インドの核実験について米国主導の制裁に加わらなかったあのフランスですら、いまだにラファールの初号機を引き渡せないで、工場投資だけが先行しているのだ。ところがこのインドにあとから米国が突然食い込んできた。P-8の完成品輸入が実現したのもオドロキだったが、MMRCAではやばやと斥けられているはずのスパホのラ国導入があっというまに決まってしまったのには人々はもっと驚いて可い。これはアメリカがロシアの対外武器セールスとPAK-FAを本気でぶっつぶそうとしているのと、「対支の核警戒をネパールで共同でやりましょう」というハイレベルでの裏取引があるにちがいないと兵頭は睨んでいる。「共同核戦略オプション」を提示できない日本には、インドの武器市場は無理である。もっと有望で合理的な市場可能性については、次著で示す。


大商社幹部の発想セットが東條英機時代で固定しているという真の恐怖。

 文春新書の1月の新刊『日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったか』は貴重資料が満載の労作である。
 おそらく「大慶油田」の真相については拙著『極東日本のサバイバル武略』(2011)の方がわかりやすいだろうと思うのだが、戦前の日本企業による北樺太石油の開発に対してソ連がいかなる厭がらせをしてけっきょくその投資をぜんぶぶったくってしまったのかについての記述は本書の白眉である。
 〈資源外交〉とかいった寝言を今日いまだに信奉している《戦前あたま》の旧通産官僚や外務省やその周辺のおかしな親露系/親儒教圏系/親イスラム系の人士たちには、きっと良い薬になるだろう。
  …………と思って読み進むうち、ふと気付く。彼らはまた同じことをやっている。その名を「サハリン2」プロジェクトという。
 この経緯も本書は紹介してくれているが、多額の投資が注ぎ込まれて開発が軌道にのったところでロシアがいろいろ難癖をつけておいしい利潤をほとんど押収してしまうというパターンは、戦前と一緒。
 戦後の海外油田プロジェクトに関係している日本人は、どうもぜんぜん「学習」というものができぬ人々らしい。
 嗚呼、三井物産・三菱商事に対する漠然としたリスペクトが崩れて行く……。
 最後の訴えが、「一次エネルギー資源を確保するための現在の政府支援策、たとえば石油・天然ガスの探鉱開発に関わる出資、債務保証だが、これは継続、拡大すべきだ。」(p.243)とはすさまじい。東條英機の亡霊か?
 アメリカ合衆国一国が世界の海を支配している現在、そしてパナマ運河が拡幅される近未来以降はますます、エネルギー資源を、こちらから他国の支配域までわざわざ掘りに出向く必要など、日本人にはこれっぽっちもないのである。「シーレーン防衛」すら、今の日本国にとっては大概の非常時において無意味だ。利に聡いはずの商社員が、そんなことすらも看破できず、戦前官僚の妄念に奉加帳式につきあって企業保身の道と心得ているとすれば、それこそ慨嘆に値する話だ。
 これから研究しなければならないことは二つある。
 まず、全国の石油備蓄基地。これを近隣敵性国家からの「ミサイル攻撃」から、どうやって防御するのか。
 いまのままだと、一夜にして焼亡させられてしまうのは目に見えているだろう。
 むしろ国内の民間企業の石油在庫に税金をかけないという特別措置を講じて、全国津々浦々に分散的に「余剰石油」が常在するというありさまにしておくのが、有事には安心なのではないだろうか。
 もうひとつは、非常時に計画外の大迂回航路を選択することを余儀なくされたときに、原油タンカーが積荷の原油をそのまま、もしくは特別なフィルターで濾過した後に、機関の燃料として混焼できるような、できるだけコンパクトな予備システムを実現して、今から世界に普及させておくことである。


やらない気満々?

 RICHARD LARDNER記者による2016-3-3記事「Conservative national security leaders unite to oppose Trump」。
  上院の軍事委員長である共和党員のジョン・マケインは、共和党員に向かい、トランプ候補がコマンダーインチーフ(全米軍最高司令長官)にも、自由世界のリーダーにもふさわしくはないと示唆。マケイン自身、2008の大統領選に出馬した経験者。
 2012の大統領選に出馬したミット・ロムニーも、もし共和党がトランプを大統領候補に選出すれば、アメリカの安全も繁栄も先細りする未来が待つと警告。
 ブッシュ政権の本土防衛庁長官だったマイケル・チャトフは「ウォー・オン・ザ・ロックス」のサイト上に公開した書簡にて、保守系のナショナル・エキスパートたちは個々の問題でそれぞれ違った意見を有するものの、「トランプはダメだ」という大きな点では皆一致していると。
 これに賛同する政府高官経験者の署名多数が添付されている。
 チャトフ公開書簡が示唆すること。もし11月にトランプが勝っても、その政権で高官になってやろうとする保守系の国家安全保障問題のプロたちはごく少ないであろう、ということ。
 ※日本で喩えるなら、ルナティック鳩山が右翼化して小泉人気を得て自民党と国会に4年間きっちり君臨するようなもの。これを歓迎するのは、天下が動乱しても失うものはない貧困下層階級と、その混乱を日本に波及させたいわが国の反日マスコミだけだ。しかし、政府高官になりたいタマなんて、いくらでもいるだろ。生涯所得はまちがいなく増やせるんだし。威張れるし。
 国家安全保障問題のプロたちが問題にするのは、トランプの本性は「嘘つき」だということ。とうてい、西洋社会における公人の資格は無いのである。外交の場に出てくることじたいが許されないのだ。
 また、トランプ流の「貿易戦争」が実行されれは、世界経済は壊滅するだろう。
 トランプの外交顧問が誰なのかは謎だが、トランプ自身、リチャード・ハース(Richard Haass)に敬意を払っていると語った。二人のブッシュ大統領に仕えた男で、今、米国外交協会の親玉。ハースは確かにチャトフの公開書簡には賛同の署名をしていない。
 不動産ビジネスでの成功は、外交スキルと似たようなものか? ぜんぜん違う。そもそも四回銀行破産しているトランプ氏のビジネス・スキルとは、破産法廷をくぐりぬけるスキルではないのか。
 ※ところで日本ではまったく報道されてないが、選抜徴兵(ドラフト)のための18歳の誕生日の登録を男子だけでなく女子にも法律で強制するべきかどうかにつき、米国内では大論争がある。これは女子隊員を戦闘職種に就けたり最前線へ送り出すかどうかとはまったく別問題。「市民の義務」の問題であり、まさに法哲学が問われる。オバマは上院議員時代にこれに賛成を表明している。脱落する前のブッシュ、クリスティー、ルビオ候補は賛成。テッド・クルスだけがハッキリとそれはキチガイ沙汰の不道徳だと断言(こいつは登録と最前線送りとを混同している可能性大)。民主党のヒラリーは煮え切らない。トランプとサンダースは判断を保留している。
 ※さらに余談。サンダースは、ヒスパニック移民阻止についてはトランプにまったく賛成だと発言すれば、ヒラリーを凌いで11月にトランプにも勝てるチャンスがあったと思う(今はもうない)。中南米から不法労働者があとからあとから供給され続ける限り、「オバマ・ケア」など絶対に実現しない。外国人労働者は、米国人労働者の、社会保障制度(財源)上の必然の「敵」だからである。流入労働者を阻止することでしか、国内労働者の福利厚生は充実させ得ない。逆にヒラリーが属するエスタブリッシュメント階層にとっては、流入労働力を搾取しつづけられる社会が望ましい。それは「国民皆保険」とは無縁の社会である。だからじつは、いまやトランプ候補がいちばん「米国国民皆保険制度」の実現に近い位置に立つのだ。ただしトランプの選挙参謀には、ここを宣伝に転化できる才能はないように見える。


フジ産経グループは早くナヴァロ教授にインタビューし、全力でおもてなししとく方がいいぜ。

 Mark Hosenball and Steve Holland記者による2016-2-26記事「Trump being advised by ex-U.S. Lieutenant General who favors closer Russia ties」。
 ドナルド・トランプがさいきん選んだ軍事アドバイザーは親露派のマイケル・フリン退役中将だ。DIDの長官だった。任期は2012~2014。      
 フリンは2015の晩餐会にてプーチンと同じテーブルに座って撮影されたツーショットがある。
 ※米大統領選は博打みたいなものなので、偶然の風向き次第で当落が変わってしまう。ヒラリーは国務長官時代に北鮮を訪問して「マスゲーム」観覧を辞退して北鮮指導部に地団駄を踏ませた(オルブライトのような無能者ではないと見せ付けた)。トランプは逆のタイプだろう。トランプはプーチンのファンであることを隠していない。そして両名ともに中共と闘った経験がない。ヒラリーは中共から過去の裏選挙資金問題で脅される可能性すらある。中共はもちろんトランプにも「二重張り」しているだろう。不動産ビジネスのボスに合法的に賄賂を渡す方法などいくらでもある。そこで日本が使える切り札は、ナヴァロ教授しかない。すでにこのブログで紹介したように、「反支・親日」のナヴァロ教授がトランプの相談役の一人だ。もともと民主党員なのに、トランプからも買われている。それは「反支」の商品ボイコット提言がトランプから気に入られているからだ。このナヴァロ教授を日本の保守メディアが今から厚遇しておくべきことは、気の利いたメディア経営者ならば当然に判断できることだが、日本のメディア幹部が常に気が利くとはなかなか思えない節もあるから、ここで書いておく。おそらく文藝春秋社は、すでに手を打ちつつあるだろうが……。
 ※ロシアがバルト三国やポーランドを征服すると、ロシアにとってどんないいことがあるのか? 人口と工業を接収できるので、「擬似GDP成長」ができる。経済無策のプーチン氏には、ロシア経済のマイナス成長を逆転させる方法としては、もうそれしかないのだ。まあそんなことより、これからの動乱に備えて、新刊『「地政学」は殺傷力のある武器である。』を読みましょう。早くも増刷が決まりました。


「読書余論」 2016年3月25日配信号 の 内容予告

▼安藤信雄ed.『海軍中攻史話集』S55-3、中攻会pub.
 銀河の前の「泰山」(M-60)も、双発急降下爆撃機のユンカース88を参考にしたものだった。
 揚子江流域の居留民が上海へ引き揚げはじめたのはS12-8-1からで、8日にはほぼ終わった。
 8-14の午前中ににシナ空軍が延べ40機をもって、旗艦『出雲』、陸戦隊、江上の艦艇を爆撃した。
 中攻への給油は、総計3000リッターぐらい。いくらがんばっても3時間かかる。
 ※本書はあまりにも濃密且つ大部なので、今回は途中まで。この作業の皺寄せで今回は『海軍』および『帆船時代のアメリカ』の摘録はナシ。
▼横森周信『海軍陸上攻撃機』S54
 本庄は、96陸攻のアスペクト比は計算上は10がよかったが、なんとなく前例に縛られて8.3にしてしまった、と後悔。
 水平尾翼ももっと大きくすればよかった、と。
 フィリップス提督は、日本の双発機が魚雷攻撃するとは思っていなかった。
 一式陸攻の最長作戦行動は、往復1750海里(3240km)、11h以上の対艦爆撃ミッション。
▼矢島祐利[すけとし]『アラビア科学史序説』1977-3、岩波書店
 紀元前2000年頃のバビロニアの粘土板に、二次方程式をこなしている計算が多数記されている。
 したがって代数の発明者はイスラム教徒ではない。
 だが、それをまとまった書籍にして残したのは、アラブ人。だからアルジェブラが英語の代数になった。
 コーランには絵のことは何も語られていない。しかしマホメット言行録たる『ハディース』の中で神学者たちが、人物を描くことは神の創造を真似ることでよくない、という教えを作り上げてしまった。
 ハディースはたくさんある。が、アル・ブハーリー(810~870)の『キターブ・アル・ジャーミ・アッ・サヒーフ』(完全な収録の書)が有名で、非常に尊重されている。
 A.D.8世紀には、アリストテレス学派の著作から注釈まであらかたアラビア語訳がでた。ユークリド、プトレマイオスなどもアラビア語で読めるようになる。そうしなければ諸外国と太刀打ちできないという危機感があった。
 コーラン釈義の文法から修辞学、哲学に発展したのが9世紀。
 次の1世紀で教養的諸科学が発達。翻訳を脱して独自研究に移る。
 11世紀に、イスラム・オリジナルの科学を生産。
 歳差運動はギリシャ天文学では100年に1度とされている。とすれば春分点が全天360度を回るのに3万6000年かかることになる。インド人はこれを大周期だと考え、それが輪廻思想になり、ピタゴラスにまで影響を与えた。
▼防研史料 航本『一式二五番二號爆弾説明書』S16-12
▼防研史料 海軍火薬廠・海軍造兵大佐・中谷達次郎『爆薬炸填法ノ講義』S3-2
▼防研史料 『駐独海軍武官情報(爆弾・機雷関係)』S17-1-17~S18-2
 ソ連とドイツの対艦用徹甲ロケット爆弾のデータはすべてここにある。
▼山本正・他『北海道山菜誌』1980-5
 ロンドン軍縮会議に出発する若槻礼次郎が盲腸炎になったが、ハコベの汁を飲んでよくなった。
 M35-1の八甲田遭難。前岳の北斜面の竹藪中に入ったために進退きわまった。もちろんネマガリタケ=チシマザサ。
 クルミの樹は、ハエやアブを遠ざける。だから畜舎や堆肥場のまわりに植えるとよい。
 マタタビの茎・葉・実に含まれる謎のスピリットは仔猫と牝猫には効かないという。性ホルモンではないかという。
 マタタビは雌雄同株。ミヤママタタビは異株。
 ホテイシメジは、酒と一緒に食べると酔い方が数倍になる。
▼高橋英一『生命のなかの「海」と「陸」――ナトリウム・ケイ素の生物誌』2001-10
 唐朝が発明した「塩税」。肉食できず穀食頼りの下層民は追加の塩無しでは病気となるので、政府が塩を専売にして消費税を上乗せしてしまえば徴税コストはゼロでなんぼでも重税化できる。しかし典型的な逆進税であるため、闇塩結社犯罪と易姓叛乱のタネが制度内にビルトインされたようなものだった。
▼『今昔物語』 巻28の続き
 ◆  ◆  ◆
 「読書余論」は、主に軍事系の古本を、兵頭が注目した一斑の摘記や読書メモによって紹介し、他では読めないコメントも附しているものです。
 あまりに多すぎる過去の情報量の中から「兵頭はここは珍しいと思いました」というポイントだけ要約しました。
 大きな図書館に毎日通えない人も、最低費用で、過去の軍事知識のマニアックな勘所に触れることが可能です。
 また、ミリタリーしか読んで来なかった人には、他分野の情報が、何ほどか有益かもしれません。
 「読書余論」は、毎月25日に「武道通信」から最新号が配信されます。1号分の購読料は500円です。
 バックナンバーも1号分が500円で、1号分のみでも講読ができます。
 過去のコンテンツは、配信元の「武道通信」のウェブサイト
http://www.budotusin.net/yoron.html
 で、タイトルが確認できます。
 電子書籍ソフト対応の「一括集成版」もできました。詳細は「武道通信」で。
 ウェブサイトでわからない詳細なお問い合わせは、(有)杉山穎男事務所
sugiyama@budotusin.net
 へどうぞ。


第三次大戦を始めんとするツァーリに執拗に面会を求め、しかも「四島返還」以外のオプションは持ち合わせぬという一群の人々。頭だいじょうぶか?

 Thomas Gibbons-Neff記者による2016-2-26記事「U.S.-made missile goes up against one of Russia’s most advanced tanks」。
  ロシア最新のT-90戦車に、米軍のTOWミサイルを命中させたならどうなるのか。シリアのアレッポの北西にある町で、CIAが反アサドゲリラに供与したTOWをじっさいにT-90に命中させた映像が遂に撮影された。それは2-26にUpされた。
 T-90は、ラタキア飛行場の守備のために2015-9から持ち込まれている。残念ながら、当該戦車のクルーがロシア人なのかシリア人なのかは不明である。
 TOWは砲塔に水平に命中した。
 つまり、T-90には付いていたはずの、ショトラなんとか、という、対戦車ミサイルの照準や誘導を狂わせるデバイスは、実戦では機能しなかった。
 しかし、クルーがハッチから五体満足で逃げ出しているから、HEATは砲塔装甲を貫徹しなかったと考えられる。
 すなわちリアクティヴ・アーマーはTOWに対しては鉄壁なのだ。ちなみに、露軍用のものは、輸出用よりも高性能といわれる。
 ※ロシア製リアクティブ・アーマー(反応装甲)に対しては、もはやトップアタックか、7kg以上の炸薬(155ミリ榴弾相当)を足回りにぶつけてやるかの選択しか、ミサイルには無いということがこれではっきりしたと思う。
 ※ところでいったいロシアはシリアで何をしたいのか? まさに、こういう実験がしたかったのである。これからプーチンはバルト三国とポーランドに対して戦争を起こす。バルト三国は露軍25個旅団を集中してD-Day+3日で完全制圧できると計算されている。なにしろ現役軍隊が三国ぜんたいで6万人しかいないのだ。NATO空軍の活動を3日間だけ麻痺させればそれはうまくいく。それは物理的に可能である。しかしクラウゼヴィッツの言う「潤滑油の回っていない軍隊」は実戦では思わぬ摩擦で止まってしまうかもしれない。だから「潤滑油を熱くして機械の隅々に回しておく」準備があらかじめ必要なのだ。それをプーチンはシリアで露軍にさせているのである。では、どうしてロシアはバルト三国の支配にそんなにこだわるのか。そこが知りたい人は、兵頭の最新刊を読みましょう。地政学の問題なのです。
 次。
 Matthew Cox記者による2016-2-25記事「Army Says Weapons Treated with Permanent Lube Will Eliminate CLP」。
  米陸軍があたらしい小火器用の潤滑剤DSL(durable solid lubricant)を発明し、来年以降に導入する。グリースとは違う、乾燥状態の固体潤滑剤で、この潤滑作用は半永久に長持ちするから、整備の手間が軽減されるという。小火器の製造工程からこの潤滑剤を使う。
 とりあえず、M4カービンと、M240分隊軽機に、この新潤滑剤を採用する。
 従来は、CLP(cleaner, lubricant, and preservative)という小火器専用の液剤(洗い油と潤滑油と防錆油の機能を全備)を塗布していた。このCLPが、小火器についてはもう要らなくなる。
 小火器部品の中のボルト・キャリアーとボルトで比較してみた。CLP塗布のボルトキャリアーの表面からは75%の燐酸塩が失われた。ボルトの表面からは90%の燐酸塩が失われたた。しかしDSL塗布の場合、どちらも、燐酸塩は5%未満しか減損しなかった。
 しかし小火器専門家にいわせると、DSLは、チャージングハンドルや緩衝バネやその他のパーツについては適用性がないのではないかと。
 さらに専門家からの疑問。その銃が、まさに新品同様の状態であったならば、非液体の乾いた潤滑剤というのもアリかもしれないが、戦場で使い込む環境では、やはり液状・ゲル状の潤滑油がなくては、摺動パーツの「ひっつき」が起きてしまうのではないか?
 時が経てば、ハッキリするだろう。
 ※この記事は腹立たしいほどわかりにくい。記者は元空挺さんだが、科学記事の書き手ではないし訓練されたリポーターでもない。だから多義的であいまいな語を安易に使う。固体潤滑剤とはグラフェンを使ったものなのか? その正体についての何のヒントもない。小火器専門家とは、潤滑油やケミカルのことがよく分かっている専門家なのか? そこも甚だ疑われる。