隣の国を滅ぼす作戦を書いた本が3万部も売れるとは、日本もまだ捨てたものじゃない!

 Ashley O’Keefe 記者による2017-2-1記事「Sea Control 127 ―― Dr. Tom Fedyszyn on Russian Navy Ops, Acquisition, and Doctrine」。
  ※以下、Fedyszyn 教授による講演のトランスクリプションの概要。
 ロシア潜水艦の活動は、過去25年間で最大になっている。今。
 2001年から2003年までのあいだ、ロシア潜は大西洋には1隻も無かったのに。
 現在、全世界で、年間に延べ「1500・隻×日」のロシア潜水艦の外洋活動が確認されている。
 『クズネツォフ提督』号について。こうした空母を含めたロシアの巨艦建造技術は、伝統的に、悪い。
 学校の通知表で言うならば「D」から「Dマイナス」の水準だ。
 ロシアのマスコミは、20年前は自由に近かった。今はもはや自由ではない。プーチンのプロパガンダツールとして統制されている。
 プーチンは行政官としては失格である。プーチンはロシアGDPの右肩下がりをずっと止められないでいるからだ。ロシアのあらゆる分野で予算が緊縮されている。
 地方自治体の予算が、半額カット。
 年金受給者の年金額が、半額カット。
 そんな中、唯一、海軍予算だけがカットされていない。しかしロシア経済が回復しなかったら、海軍予算も早晩、カットされるはずだ。
 ロシア空母は、対内的にだけ、ものすごく意義がある。その遠洋活動がロシア国内のプレスで宣伝されることにより、ロシア国民が喜ぶのだ。それがロシア空母の唯一の効能である。
 だから、プーチンは軍艦好き、海軍大好きである。
 じっさいには、シリア沖で、公称定数である艦上機数のわずかに四分の一が、かろうじて発着艦したにすぎない。そもそも積んでいった数が、公称定数の半分(20~25機)だったのだ。そのうちの2機がシリア沖で海中に墜落している。
 しかしロシア国内では、『クズネツォフ』がシリア空爆に大活躍したと報道されていて、ロシア国民はその大本営発表を聞いて喜んでいる。したがってプーチン先生にとっては「A+」の評価となる。
 同空母が北海を南下して地中海に入る間、ずっと英海軍の4杯の駆逐艦が追躡監視していた。異常な黒煙や白煙が出る様子も逐一、英国では、報道されている。
 ロシアからの兵器輸出は、ロシア経済の分母が小さいために、彼らにとっての意味は大きい。今月はじめ、『シュトーム23000E』とかいう新型空母を建造してインドに売り込むという話が『ディフェンスニューズ』で報じられた。
 こうしたセールス活動の一環としても、『クズネツォフ』を実働させる必要があるのである。シリア沖の映像とプレスリリースが、生きた販促展示となるのだ。こんな技術を持っているんですよ、っていうね。インド人に見せているのである。
 インド海軍の七割は、ロシア製の輸入品である。
 モスクワには米軍士官よりもおおぜいのインド海軍士官がいる。90年代に、わたしは彼らに尋ねたことがある。なぜロシア製を買うのかと。ロシア製の品質に問題があることはインド人もよく承知していた。だが、ロシアは米国と違って高度軍事技術の輸出にいちいちうるさいことを言わない。しかも、限られた予算で、十分に調達できるのが、ロシア製なのである。
 ロシアからインドに売られたスキージャンプ型空母『ヴィクラマディティヤ』は納期を4年もオーバーし、コストは3倍に膨れ上がった。それでも、インドが買える空母はロシア製だけだから、しかたがないのである……と、インド人士官たちが異口同音に答えてくれた。
 とはいえインドは今、純国産の原子力空母も建造中だから、もしこれがうまく行けば、ロシア造船界にとってはバッドニュースとなる。ただし、竣工がおそろしく先になることは、既往から推して確実だが。
 『シュトルム』型空母を3隻以上建造するなどといったロシア人の話はフカシだ。6万5000トンをいちどに建造できるドックはないので、2箇所で半分づつ建造してそれを最後にひとつに溶接しなければならない。今のロシアの造船技術ではまず無理である。
 しかも、例によって、主機を核にするのか非核にするのか、それが定まっていない。核にするならフラットデッキ空母にできるが、非核ならスキージャンプだ。主機が定まらないでは上構デザインも決まらないし、中層以下の甲板に納めるカタパルト用のスチーム設備も何も決められない。
 ロシア海軍は海洋ドクトリンを更改する。前回は2015年、その前は2001年だった。
 2001年版ドクトリンは、あきらかに、海軍将官が草案に関与させられていなかった。
 通商と観光業とエネルギー産業の役人がほとんどドラフトをまとめてしまい、最後の仕上げで海軍がちょこっとだけ意見を訊かれたのだとわかるようなつくりだった。
 しかし2015版海洋ドクトリンは、プーチンがフリゲート艦『ゴルシコフ提督』の上級士官室内で署名しているところがテレビで宣伝されている。場所はカリニングラード軍港内。その場には軍関係の高官しか立ち会っていなかった。
 このドクトリンにはとんでもないことがいろいろ宣言されている。まず、ロシア海軍のミッションは、北極海で他国の軍艦には自由に活動をさせないことであると。
 NATOはロシアの筆頭脅威であり、NATO海軍がロシア本土に接近しないようにロシア海軍を大西洋に展開する、と。
 また、地中海にロシアの小艦隊を常在させねばならぬ、とも。
 全編、「NATOの脅威」ばかりだった。太平洋方面に関しては、中共やインドの海軍と良い関係を築くということしか書いてない。
 回顧すれば、ワシが『ウィリアム・V・プラット』の艦長であった1989年に、最後の露艦が地中海から去っていくのを見送ったものだ。これがソ連のトリックではないと分った後、わが艦隊司令官は麾下艦長たちに訊ねた。おれたちはこれから何をすればいいんだ、と。ワシは提案した。「15の港に親善訪問して廻るというのはどうです?」。誰もそれ以上の名案は出せなかったよ。ラヴトレインならぬラヴボートの巡航が、こうして決まったのだ。
 決して馬鹿にしているわけではないが、ロシアは「大きなナイジェリア」なのである。
 ロシア経済は、国際エネルギー価格に依存している。
 2008に、西側では無名のセルドュコフが国防相に任命された。彼はロシア海軍からは感謝されている。装備調達費の4割を海軍建設に回してくれたから。
 セルデュコフの大改革は、徴兵は艦隊に勤務させないと決めたことだった。艦内厨房や、海軍基地には、まだ徴兵がいる。しかし他の分隊の水兵は志願兵だけとした。冷戦期のソ連水兵は文盲に近かった。それでは近代戦はできないと彼は認識している。
 どん底の2001年頃、フリゲート1隻つくるのにロシアの造船所は14年も必要とした。冗談ではなく。今は5~6年で竣工できるようになった。
 国際油価が上がって懐が暖かくなると、ロシアはまずSSBNに投資する。
 『ボーレイ』級(955型)SSBNはイイ線を行っている。
 いま、3隻が就役していて、5隻は建造中/計画中だ。
 ただし、プラットフォームができているのに、ミサイルができていない。SLBMブルヴァの固体燃料がダメなのだ。試射は、失敗の連続だった。
 しかし現在では、半数が成功するところまで来ている。
 『デルタ3』『デルタ4』『タイフーン』も少数あるが、いずれも信頼できぬSSBNでしかない。
 SSNに関しては、まだまだ静粛性において、ロサンゼルス級やヴァジニア級には追いつけていない。
 昨年、カスピ海からミサイル艇が巡航ミサイル「カリブル」を発射した。1000トンの『ブヤン』型に8基搭載できる。それが1500海里も飛翔する。26発を射ち、途中で落下したのが3発だけ。あとは目的地まで到達した。これは大したものだ。
 プラットフォームは他にもあった。黒海に配備されている『キロ』型。これが地中海まで出てきて、そこからも「カリブル」を放ったのだ。
 プーチンは、海軍や軍艦が好きだと考えられる。それはクールなのだ。
 ロシアからアサドへの補給物資は99%が、黒海を発してタルトゥス港に入るルート。そのシーレーンをプーチンはロシア海軍に確保させている。
 米外交団がキューバで話し合っているときにも、プーチンは巡洋艦をハバナ港に寄港させた。
 ロシア海軍は、制海海軍でもないし、接近拒否海軍でもない。
 しかし、黒海、バルト海、大西洋では、手ごわい敵手である。特にロシア本土の海岸線に近いところならば。
 ※今月末には徳間書店から、インドとロシアの間の兵器ビジネスを詳しく取り上げた面白い本が出ます。同書では久々に、今後の日本の国産軍用機の展望についても語らせていただきます。乞うご期待。


疑わしきは爆殺――ファイナルエクスプロージョン

 ストラテジーペイジの2017-1-31記事。
  メキシコ政府は5000万ドルを投じて弁護士たちを雇って、米国内の不法滞在メキシコ人集団をサポートさせる。
 2016年だけで、米国内に違法に住み着いているメキシコ人たちは、250億ドルもの外貨をメキシコへ送金してくれている。なんとメキシコ原油の輸出金額よりも巨額なのだ。これを守るために政府として5000万ドルくらい出すのは当然のことである。
 在米不法メキシコ人たちからのメキシコ本国への送金額は、2013年には220億ドルだったが年々増えており、2017年には280億ドルになるだろうと見積もられている。トランプが禁止しない限りは。
 メキシコ国内の失業率が高いので、不法移民の北米への送り出しを幇助することは、多くのメキシコ政治家にとっての公然たる「仕事」になっている。彼らは今ではそれは「権利」だとまで思っている。
 メキシコの領土そのものが、それよりも南にある中米諸国からの不法移民の通り道となっている。これら中米不法移民はメキシコを経由して北米へ入ろうとする。それをメキシコ政府は黙認してきた。ところが、メキシコ国内の犯罪組織が、これら通り抜け移民たちをあまりに堂々と襲撃するようになったので、政府として知らんぷりもできなくなってきた。
 メキシコ政府が中米からの不法移民を排除しようとする法律の過酷さは、とっくの昔から、トランプ以上である。
 他方でメキシコ南部国境の警察官たちは、中米不法移民から賄賂を受け取って入国をめこぼししている。
 メキシコの石油産業は国有化されている。その国営企業をペメックスという。ところが、この会社を通さずに勝手にメキシコ原油を米国へ売るメキシコ人犯罪組織がたくさんある。
 23社の米国企業がそれを承知で買っているとして、ぺメックスは提訴していたけれども、2016-12に敗訴が確定した。
 「それが盗品とは知らなかった」という主張が認められた。
 メキシコ通貨ペソはドルに対して価値が下がり続けている。しかも、政府が油価を上げるために原油生産量を絞ったので、庶民の消費する自動車燃料代は高騰。常食のトルティーヤすらも、原料の値上がりが小売価に反映されて、家計を圧迫中である。
 各地でガソリンスタンド襲撃が起きている。また、テキサス州のエルパソに通じる国境の橋を暴徒が封鎖して、メキシコ石油をメキシコ市場で放出しろと要求したりしている。
 ※沙漠しかないところなのに、パイプラインで越境させていないのだから驚きだ。ISかよ!?
 台湾海軍保有の博物館級潜水艦2隻のうち『カットラス』について、台湾政府は1900万ドルを投じてリファービッシュし、なんと2026年まで現役で使うと発表した。1945年の建造だから、2026年には81年選手である。
 ※マンガの世界ではなく、これが現実である。台湾がいかに信用してはならぬ国なのかについては『日本の武器で滅びる中華人民共和国』で説き尽くした。これら台湾海軍の「ナンチャッテ潜水艦」の真実もそこに記述してある。バカ右翼はいくら事実をつきつけられても思い込みを曲げないから、読まなくていいよ。ちなみに三刷がかかっています。
 『カットラス』は、1900トンしかないのに乗員は84名必要。
 水上では33km/時 出せるが水中では29km/時 しか出せないという、大時代な艦型。
 7km/時の微速ならば連続48時間、潜っていられるというのだが……。
 オランダ製の2500トン×2隻は、200人の乗員で動かしている。この乗員たちのモラールは最低に落ちている。
 ※艦長・士官と兵曹・水兵の間に相互の信頼関係がない。その理由も『日本の武器で滅びる中華人民共和国』で解説しました。あたりまえのことなんですけどね。そのあたりまえの情報が、バカ右翼の耳には入らないらしい。
 2011年に台湾は、中共からの経済制裁の脅しに屈しない、ディーゼル電池式潜水艦のサプライヤーはどこにあるか、調査した。そして米国の造船所にはそれが可能であるという結論を得ている。
 欧州企業は、潜水艦そのものは売れないが、こっそりと、部品や、技術助言や訓練はしてやれる。もちろん有料で。


「読書余論」 2017年2月25日配信号 の 内容予告

▼筑摩書房『世界文学大系65 中世文学集』S37
 佐藤輝夫tr.「ローランの歌」。騎士道と武士道の違いを知るためには11~12世紀に作られたこの武勲詩を読まねばならぬ。
 史実では、敵はイスラム教徒軍ではなく、ピレネーのバスク人。しかも合戦は夜襲であった。ローランらは戦死し、シャルルは懲罰作戦を実行できなかった。
 欧州ではオリーブの小枝が古代から和平と降服のしるし。白旗ではなかった。
▼カレル・ヴァン・ウォルフレン『日本/権力構造の謎』1994 早川文庫
 執筆は1988になされ、ハードカバー訳刊は1990だった。
 戦前と戦後の日本官僚は連続していると初めてチャルマーズ・ジョンソンの『通産省と日本の奇跡』が指摘。
 零細企業は、不景気のショックを、大企業にかわって吸収する役目を果たしている。そのため、日本では企業倒産率が高い。
 日本の企業内労働組合は、非正規社員は、何年勤続していても、組合に入れてやらない。
 筆者は早稲田大学で4年間教えた。政経学部の学生はほとんど何も勉強しない。それでも講義に出席する限りは単位を与えなさいというのが大学の指示事項であった。
 ※今日、大学生は偏差値を問わず「貧困世代」なのだとする意見があるが、リアルの講義に出席する必要も認められないような講義がすべての大学に間違いなくあるので、カリキュラムをリストラしてオンライン化もしくはタブレット化もしくはスマホ化して大学の過半を実質「通信制」化または「夜学」化すれば、学生の居宅問題は解決したようなもんだろう。
 秦野章は、日本大学専門部(夜学)卒で、中曽根内閣で法相になった。東大京大法科卒でないために、司法官僚はつまはじきにした。
 ※高校の夜学率ももっと高くていいはずである。そして大学の夜学は、朝の4時から8時までやったっていいはずだ。
 ココム関連国内法規違反を、外務省と防衛省は監視しようとしたが、通産省は拒否した(p.248)。
 外務省は、特亜に対して一貫して、象徴的な謝罪のジェスチャーを示すべきだと政府に要求。それを文部省が拒み続けていた。
 儒教圏では「野党」がそもそもありえない。統治者は本来高潔だとされる。その統治者に反対する勢力というものがあるなどおかしいから。
 ※よって儒教圏には議会制民主主義はなじまない。
 1985-8の日航機事故。
 空自のF-4×2はレーダーから消えた日航機の墜落現場を、4分でつきとめた。
 運輸省航空局は、それから2時間半も、陸自に捜索を要請しなかった。
 事故から10時間後に陸自のヘリが、日の出後になって旅客機残骸を視認。暗視装置がなかったので。
 すべては日航が悪いことにされた。日航は運輸官僚の天下り先なのに、運輸省とは仲が悪かったので。
 鮎川は戦後の中小企業を政府が統制するのに大貢献した。その成果が、中小企業基本法。
 鮎川の死後、その仕事は岸が引き継ぎ、1987の岸没後は、田中義一の長男である田中龍夫に。龍夫は旧満州の革新官僚。通産大臣、文部大臣を務めた。
 エリツィンは予定の数日前に訪日を取りやめた。日本外務省がかたくなに北方領土返還問題だけをとりあげようとしたため。応ずればエリツィンは国内で袋叩きになるしかなかった。
▼福島安正・著、太田阿山ed.『大陸征旅詩集』東亜協会S14-9 非売品
関東都督として、関東州内の産業道路を500里建設し、愛川村柘地植民を創始した。
 長野県出身者を軍人にしてやるための組織は、信星会といった。初代会長福島の死後、それは財団法人信武会となる。坂本俊篤が二代目会長。
 ロシアが大国になったのは偶然ではない。辺境の軍政がじつに厳峻によく機能している。隣辺に隙あらばかならず前進躍進。こうやって国威を張ってきたのだ。
 モンゴルで便秘になりたくなければ、朝と昼は羊肉を口にしないで乳茶を鯨飲せよ。
 まず旅行前に現地語を図書で研鑽することを勧める。言語が分れば、旅行中に、一事・一物からも学ぶことができるのである。回顧すれば、この企画が承認されてから、ほとんど睡眠を廃して下調べをした。
 土地によって相手から尋ねられることが全部違ってくる。ロシア人は馬に興味があるようだった。ドイツ人は、異国の地形にしか関心がない。蒙古では、物の名前について訊かれた。清国人は、物の値段を問うてくる。そして日本では、危険だったでしょう、お疲れでしょうと、そればかりを言われる。有り難さを覚える。
 3-19に黒竜江の愛琿に到達。シナ人は夜郎自大で天下の情勢を全くわかってない。数が多いのを誇るだけでは未開人だ。
 ロシアは、バンデラバス(バンダルアッバス)の港が欲しくて南侵のチャンスを窺っていた。ペルシャ軍の礼砲が湿っていてうまく鳴らず、国の軽重がよくわかった。
▼浜谷英博・松浦一夫・他『災害と住民保護』2012-3
 内閣にはエマージェンシーパワーがあるというのが英米流の考え方なので、憲法明文がなくとも、必要に応じてどうにもできるはずだ。
 「国会拒否権制度」を確立しておけば、事前承認のような白紙委任にもならず、実効性のある民主統制は可能になるだろう。
 州兵が、連邦正規軍に編入される場合、U.S. National Guard と呼ばれる。そこに入隊した個人は、州兵と連邦軍に dual enlistment したことになる。
 ドイツでは、ヨウ素剤は、45歳以上の成人には処方されない。甲状腺代謝障害を起こす可能性が高いため(p.268)。
 ◆  ◆  ◆
 「読書余論」は、主に軍事系の古本を、兵頭が注目した一斑の摘記や読書メモによって紹介し、他では読めないコメントも附しているものです。
 あまりに多すぎる過去の情報量の中から「兵頭はここは珍しいと思いました」というポイントだけ要約しました。
 大きな図書館に毎日通えない人も、最低費用で、過去の軍事知識のマニアックな勘所に触れることが可能です。
 また、ミリタリーしか読んで来なかった人には、他分野の情報が、何ほどか有益かもしれません。
 「読書余論」は、毎月25日に「武道通信」から最新号が配信されます。1号分の購読料は500円です。
 バックナンバーも1号分が500円で、1号分のみでも講読ができます。
 過去のコンテンツは、配信元の「武道通信」のウェブサイト
http://www.budotusin.net/yoron.html
 で、タイトルが確認できます。
 電子書籍ソフト対応の「一括集成版」もできました。詳細は「武道通信」で。
 ウェブサイトでわからない詳細なお問い合わせは、(有)杉山穎男事務所
sugiyama@budotusin.net
 へどうぞ。


イタドリとルバーブ(Rhubarb)は染色体数も同じ 2n = 44 のタデ科多年草。奇跡の寒冷地放任野菜を創成できるだろう。

 DARLENE SUPERVILLE 記者による2017-1-28記事「Trump sets 5-year and lifetime lobbying ban for officials」。
  トランプ大統領は、連邦政府高官だった者が辞職後に外国政府のロビイストとなることを死ぬまで禁ずること、また、その他のロビー活動も離職後5年以降でなければしてはならないことを、大統領命令で定めた。
 米国民の利益よりも、転職後の生涯年収を増すことを考えて影響力を行使するような奴は、そもそも政府高官になるべきではない。
 この措置は選挙期間の末期から揚言してきたことである。オバマの2009署名の2年間禁止令はザルだったと。それをキッチリ実行した。
 ※こうした信念ゆえに、中共の代理人たるキッシンジャー老人との面談などは、トランプには不快そのものだったのだろう。
 以前の政治的任用者で、この5年ルールに反していたと判明した者は、やはり、以前のエージェンシーのためのロビー活動を5年間禁止される。これは、辞職後5年+5年=最大10年という意味である。※むしろ狙いはこっちの方にあるのだろう。中共のロビイストを徹底排除したいのだ。
 政権によって政治任命された官僚は、以前の雇い人や顧客のための案件に関与することを2年間は控えねばならぬ。
 ※予想される評論。イスラエルロビーは目こぼしされるダブルスタンダードだ。


空自はF-35を切らない限りTHAADなど買えないのは明らか。

 Stratfor による2017-1-27記事「How Far China’s Nuclear Capabilities Stretch」。
  北米に到達する中共のICBM「東風5」は、液燃の注入に何時間もかかるので、企図がすぐにバレてしまう。ただの飾りだった。
 路上機動式の固体燃料の「東風41」の開発は1980年代後半にスタートしたはずだが、完成は遅れに遅れた。
 その前に2006に「東風31」が固体燃料のICBMとして完成した。
 とても奇妙なことに、せっかく「東風31」ができたにもかかわらず、中共は、それをインドとロシアに向けて照準しただけで、決して米国向けにはしなかった。
 新冷戦中なのに、役立たずな「東風5」だけを、ひきつづき対米用に満州に配備し続けた。
 ※拙著をお読みの方にはこれは少しも不思議ではないことだと分るでしょう。
 表向きには、「東風31」は北米大陸のメキシコ湾岸まで届かないので、「東風5」を残したのだとされる。そんな説明は苦しいだろう。
 「東風31改」で射程は少し延びた。しかしペイロードは小さいとされて、あいかわらず「東風5」はリプレイスされなかった。
 「東風31」は全ロシアに届くものである。だから、いまさら「東風41」がシナ大陸のどこへ展開されようとも、特にロシアにとっての脅威が増すわけじゃない。
 むしろ「東風41」を満州に置くことにより、シベリアからの短距離核SSMや通常兵器によって「東風41」が破壊されてしまうリスクは増すのである。
 しかし哈爾浜配置にはかけがえのない利点がある。シナ領土のうちで北米大陸に最も近いところは、満州なのだ。だから「東風5」もすべて、満州に展開されてきたのである。
 距離が近いということは、到達時間は短くなるし、ワシントンDCやそれ以南の大都市へも余裕で届く。
 ※「東風41」の飛距離やペイロードが不十分だから満州に置くのではない。これまでは飾りであった「東風5」を、実用ICBMでリプレイスするが、それでいいのか? ――と、トランプに向けて問いかけを発しているのである。「毛=ニクソン密約」を忘れるなよ、というメッセージなのだ。この脅しに対するトランプの「返し技」が異例に遅い。いちど単弾頭化したミニットマンをまたMIRV化するのでは芸がない。わたしの提案。米海軍の1万トン級の水上艦艇に、核トマホークを各艦1発だけ搭載させる。こうすることで、洋上で危険挑発を仕掛けてくるシナ船を即座にその場で撃沈できる口実も得られる。
 次。
 ストラテジーペイジの2017-1-27記事。
  これまた中共からの対トランプ・メッセージ。2017-1-25に、中共はデュアルユース車輛の対北鮮輸出を止めた。
 ※24日に「東風41」の脅しをかけておいて、25日には「北京は北鮮をコントロールしますよ」と米国新政権向けに宣伝しているわけ。この二つの宣伝政策は、セットである。
 TELは12輪から20輪。先年、シナから北鮮へ輸出されたものは16輪型。BMは12トンから50トン。運ぶのは簡単。だが垂直に立てるのは難しい。且つ、ブラストに耐えて再使用できるようにするのはもっと至難。たぶん北鮮の場合は、1車から一度きりしか発射できぬ。
 三代目は、シナ製ジープを鉄道で輸入して、それを4月15日の紀念日に軍の高官たちに私的にプレゼントすることで、北鮮軍の忠誠をつなぎとめようとしている。これは2012に発覚した。1000両以上が輸入された。
 2011時点で北鮮は中共から年に4000台強のトラックを輸入した。
 それらのトラックはもう北鮮国境を越える前から、北鮮軍の塗装色にされていた。中共側には、これが軍用だという認識があったであろう。それを民用だと強弁した。※民用だとしても、あからさまな国連決議違反なのである。それをあらためて止めますと言って米国に恩を着せようとするのだからずうずうしいこと限りなし。
 2017-1-20、中共はTHAADに関するイヤガラセとして、韓国の映像コンテンツと音楽コンテンツをすべて国内で禁止して2ヵ月経つが、あらためてそれに加えて、韓国製の空気清浄機と加熱便座も輸入を禁じた。
 ※ロシアは、東欧配置のイージスアショアが実は対米向けのICBMを地上で破壊できるBMなんじゃないかと疑って、大反対している。同じことを中共も心配している。つまり在韓THAADはABMじゃなくて、満州の対米用ICBMを地上で撃破できるBMになるんじゃないかというわけだ。
 シナ人のド腐れ商魂。国連がカネを出し、エイド団体が北鮮へ食料と医薬品を送ろうとするのを、中共の港湾に措いて阻止。そうしておいて非公式に、「中共内で買い付けた食料・医薬品ならば、北鮮へ持ち込んでもいいぞ」とエイド団体幹部にささやきかけているという。
 2013に平壌近くに駐屯する北鮮軍部隊の規律を調査した北鮮の公式文書が2017-1-12に韓国内でリーク報道されている。軍人たちは基地内からコンピュータ、ラジオ、電気製品をかっぱらい、反政府パンフレットが基地内に配布されているという。盗品は闇市場に流されている。
 平壌近郊部隊に配属される兵隊は、平壌市内のカネモチ階級の子弟ばかりだ。かっぱらった高額家電品は、平壌付近の闇市場でしか、買い手も無い。地方では住民の所得が低すぎるからだ。
 部外秘の公文書も、カネに換えるために持ち出した北鮮人がいるのだ。それは北鮮内で電子化されて、オンラインでシナ領内の「買い手」に送信された。
 北鮮のカネモチ階級は、家族をいちどにひとりづつ、脱北させている。公安に賄賂を掴ませて、一人を合法出国させる。そいつは二度と帰らないが、公安は政府向けには、長期出張だと報告しておく。家族は、そいつが海外から送金してくるカネで、また一人を出国させる。これを繰り返すのだ。
 さいきん、中共警察は、北鮮人のプログラマー集団(プログラマー12人+指揮官1人+目付け役の公安1人)が某国大使館へ駆け込んで亡命しようとしたのを拘束して、北鮮に強制送還した。
 この出稼ぎシステムエンジニア集団は、シナ国内の犯罪組織から仕事を請け負い、違法ギャンブル・サイトを構築してやっていたという。
 中共の地元警察ももちろんこうした活動を知っているが、普段は、賄賂を貰うかわりに見逃してやっているのだ。
 アブサヤフが2016-10に誘拐した韓国人船長を1-10に解放した。おそらく1000万ドル未満の身代金が支払われたと見られる。※『キャプテン・フィリップス』をケーブルで観たが、出だしから前半までの緊張感がすばらしいね。低予算でここまでできるんだ。
 SIGザウアーP320は 実は1985コンペにも出ていて、そのときはM9に敗れていた。性能では互角だったが、ザウエルの方がベレッタより少し値段が高かったので、負けたのだ。
 より正確には、SIGのP226である。このアップデート品がP320なのだ。※ストライカー式でポリマー多用なのにアップデート??? 別なシナモノじゃないか。
 ベレッタは戦場で酷使すると物理的な自壊が進むということが、イラクやアフガニスタンでわかった。1985コンペは、そこを見抜くことに失敗したわけである。米陸軍には良い拳銃を見抜く眼力は無いんだと証明された。※最初からSIG一択の陸自は凄いよ。
 2011にはシールズがSIGのP226を「Mk25」として公費調達している。
 シールズ隊員は1980年代からP226を私弁調達していた。その市販モデルにレールとかをとりつけさせたのが「Mk25」。


関東軍は最後には朝満国境に立て籠もるつもりだった。中共もそれを考えているのだね。

 ストラテジーペイジの2017-1-26記事。
   ロシアメディアの説明によれば、このたび哈爾浜に現れた「東風41」は、最短有効射程が3000kmなので、それより近間のシベリア各地にとっては脅威ではない、という。
 事情の分っているロシア人は言う。中共は米国と核の投げ合いをしても勝負にならないが、ロシアとなら勝負できるのだと。
 また、シナ人の真の狙いは核戦争よりもその人口によってシベリアを征服することなのであると。
 中共のこうした動きはロシア国内の世論を痛く刺激する。ロシアにとってのリアルな脅威は中共だけだと多くのロシア国民は考えている。
 イラン、ロシア、トルコから支援されたアサド政権は、アレッポの回復後、シリア北東部(ハマ、ラタキア、イドリブの3州)の反政府ゲリラ掃滅に作戦重点を移しつつあり。
 この3州では、アサド支持はがんらい堅い。
 トルコは、この3州から、親PKKのシリア内クルドを追い払いたい。
 その焦点は、アレッポの西にあってトルコと接壌するイドリブ州。
 トルコ陸軍に、ロシア空軍がCASを提供中である。
 この3州には反アサドのゲリラは多いが、ISはほとんど居ない。
 他方、シリア東部(ラッカなど)にはISが蟠踞中で、これを、クルド軍、イラク政府軍、西側干渉軍は、片付けたい。
 トルコ国民の間では、イランやロシアやアサドとつるんでいる政府方針への反発が根強い。いずれもトルコ人にとっては伝統的な「敵」であるから。
 アサドやロシアよりも、簡単に約束事(たとえば停戦協定)を反故にするのがイランである。というのもイランは政府の上に聖職者がいて、政府の決定を宗教の理屈で覆すことが平気でできるのだ。トルコは宗教独裁政体ではない。
 2016年のウクライナのGDPの伸びは1.5%だった。おそらく2017には3%になってくれるだろう。ちなみに2015のGDPはマイナス10%だった。
 2017-1-19にウクライナ警察は、イラン向けの航空貨物の中に禁制品の航空機部品らしきものを発見した。
 調べたところ、それはロシア製の古い対戦車ミサイルの部品だと判明した。
 イランは、対戦車ミサイルも自給しづらいくらいに国連制裁で困っているのだ。
 ロシア、トルコ、イランは「不自然同盟」の関係にある。歴史的にこんな関係は持続しないと分っている。しかしイランは過去に、不自然同盟を何度も利用してきた。
 カザフスタンの首都アスタナ市では、ロシア、トルコ、イラン、アサド対シリア国内ゲリラ諸派の和平会談が、2017-1-23にスタート。
 2日間開かれたが成果無し。
 米国が加わることをロシアは望んでいるが、イランと、トランプは、米国の参加を望んでいない。
 米国はオブザーバーも派遣しなかった。
 ゲリラはテロと無縁なFSAだけが招待された。
 アーラーアルシャム、ファターアルシャム戦線、そしてクルド軍は招待されず。もちろんISも呼ばれず。
 もしシリアが平和になったらどうなるか。まずアサドは不起訴特権を頂戴してどこかの外国へ安全に亡命。平行してシリアで総選挙が実施されるだろう。
 ISはシリア領内には支配域を持つことを許されない。
 2017-1-13に、イスラエル北部から地対地ミサイルが発射され、ダマスカス郊外のメザー空軍基地に着弾した。破壊されたのは、イランから空輸されてきた、衛星誘導式の地対地ミサイルだった。
 ロシアは、イスラエル軍が、シリア内のヒズボラがイラン製の地対地ロケットを発射してくる前に、それを先制爆砕してしまうという作戦方針について、ずっと黙認をしている。イスラエル内にはおびただしい「旧ソ連国民」がいるので、こうしたディールは簡単に成立するのだ。
 イスラエルは2016-12-28に偵察衛星の写真を公表。ロシアがシリア領内の基地に、イスカンデル(SS-26=9M723K1)の発射車輛を2両、持ち込んでいることがわかった。
 たぶん、ラッカに打ち込んで、「実戦デビュー」させておくつもりなのだ。
 1996デビューのイスカンデルは、射程が500~700km、弾頭重量が710kg=1500ポンド、全重4.6トン。固体燃料である。
 終末誘導を赤外線画像マッチング式としているので、10mしか目標から逸れないと言われているが、実戦でまだ立証されていない。
 発射車両は8×8で自重40トン。
 露軍への配備は2005から。
 2017-1-24に露軍は6機のトゥポレフ22M3=バックファイアC爆撃機を、4機のスホイ30SM戦闘機に護衛させて、コーカサスの空軍基地から飛ばし、シリア東部のIS拠点を空爆させた。
 ※長距離行動だが、バックファイアの空中給油はしていないと考えられる。それは米ソ条約により、取り付けられないはずなのだ。
 バックファイアによるシリア空爆は2016半ば以来、数十回におよぶ。2016には誘導爆弾を投下したこともあったが、この頃では無誘導爆弾に戻っている。誘導爆弾とスペアパーツが不如意なので、露軍はシリアから撤収したい。
 2017-1-11に空母『クズネツォフ』艦隊はリビア東沖に到着。艦載ヘリによって、トブルク市から、有力頭目カリファ・ヒフターとその側近らを空母に運び、儀杖隊が出迎えた。
 ヒフターは衛星回線を使ってロシアの国防大臣とビデオ会談した。ヒフターは、国連による対リビアの武器禁輸をロシアが無視して自分たちに武器を援助してくれと欲している。
 ロシアは援助する気満々である。※リビアの石油収入が武器と引き換えに手に入るので。
 リビアでは2つの「政府」が並び立って抗争しているが、ヒフターは東リビア域を支配する陸軍軍人である。
 ヒフターはモスクワには2016-6と2016-11の二度、訪問している。
 ヒフター軍閥はエジプト領内にまで勢力圏を及ぼしている。そこで密輸業もできる。
 ロシアはヒフター政府のために「新札」まで印刷して供給してやっている。
 米軍は、死んだIS兵士の携帯電話などから、IS兵士の妻たち、未亡人たち、その子供たちの動静をかなり把握している。その完全リストがデータベース化されつつある。
 この女たちがもし外国の国境を越えようとすれば、このデータベースと照合されて、拒絶される。
 ただし偽IDを使えば、それまでだが。
 実家に子供とともに帰れるようにしてやるともちかければ、これら未亡人たちはかなりの情報を話してくれるという。
 次。
 David Brunnstrom 記者による記事「Trump nominates businessman with Asia background as Navy secretary」。
   あたらしい海軍長官は、フィリップ・ビルデンになりそう。中共に詳しい、元情報将校。
 いま290隻ある米海軍艦艇を350隻にするとトランプは言っているところ。
 ちょっと前の新聞辞令では、次期海軍長官としてランディ・フォーブズの名が挙がっていた。下院軍事委員会のシーパワー小委員会議長だった、シナ批判の先鋒の元議員。
 ビルデンも連邦上院で承認される必要がある。ビルデンは過去に政府高官の経歴は無い。海大でサイバー安全保障を教えていたことあり。今はビジネスマン。
 前のNATO司令官のジェイムズ・スタヴリディス提督は、この人選に文句が無いそうだ。ビルデンは中共に詳しいが、決してシナ人とベタベタではない。南シナ海問題ではもっと米国は強硬になるべきだとビルデンはスタヴリディスに語っていたという。
 ビルデンは1986から1996まで陸軍予備隊の将校。退役後にハーバーヴェストという民間エクイティ会社を設立。その支店は香港にある。


本日発売の月刊『WiLL』の記事を裏付けるニュース↓が飛び出してくれたよ。これでみんな俺を信じる気になってくれたろ?

 Kyle Mizokami 記者による2017-1-24記事「China Announces Deployment of New Long Range Nuclear Missile   The target――at least of the announcement――is Trump」。
    『ニッカンペキスポ(Global Times)』によれば、中共は「東風41」を哈爾浜に実戦配備した。MIRV12個で、しかも、東西を通じて最も射程が長い、と吹かしまくっている。
 大慶市内を運行する運搬発射車の写真付き。
 その記事によると射程は「8699マイル」〔おそらくミゾカミは米国人読者のために陸マイルで換算したので、元の数値は1万4000kmと書いてあるのだろう。海里換算だと1万6110kmになってしまう〕で、南米のほとんどと南極大陸の一部にまで届くと豪語。
 ※そのシナ人記者は、南極大陸の方が南米よりも支那本土に近いという事実も知らんらしいな。南米の全部はカバーできぬはずである。
 トランプはABMの充実について語っていた。中共は、「そんなものは無価値だぞ」と警告したのだろう。
 ※中共は、「毛=ニクソン密約」をトランプが知らないふりをするなら、米支ICBM競争を始めるぞ、と脅しているわけである。ともかく、まるでわたしの新刊『日本の武器で滅びる中華人民共和国』の売り上げを加速するために中共軍が協力してくれているかのようなナイスな挑発ではないか。二回目の重版も近い? すまねえ。おかげで雪解け頃には新車(軽のハスラー4WD、回生充電付き)が買えそうだわ俺。こんどこそ一人旅で層雲峡まで行くぞ!
 米国のABMとは、すなわちGBMD(地上配備式ミッドコース迎撃)システムのGBIのことだ。
 今、アラスカのフォート・グリーリーに33基、加州のヴァンデンバーグ空軍基地に4基がある。
 これは北鮮対策だと公称されているが、満州から飛んでくる「東風41」もコースは同じである。
 ※なぜ、わざわざ満州に配備するか。モスクワから遠いのでロシアを刺激しない。インドから遠いのでインドの核でやられにくい。
 GBIの調子はよくない。そもそもミッドコース迎撃というのはMIRVがバスから分離してしまった後になる可能性が大。そのRV1個を撃破するのにペンタゴンでは最善でも50%の命中しか期待はできないとしており、現状では、RV1個に向けてGBIを5基も指向する必要があるのだ。まったく非実用レベルなんである。
 すなわち37基のGBIでは、現状、最大7発のRVしか阻止できない。最良の場合であっても。
 中共は54基のICBMで米本土を攻撃することができる。
 古い「東風5」だと単弾頭で5メガトン。広島の17キロトンとは比較にならない。
 「東風41」のバスが12個のRVを分離してしまうのは、発射から5分後である。
 12個のRVを阻止するにはGBIは60基必要ということになる。
 もし中共が「東風41」だけで54基を揃えたとしたら、米国がその迎撃に必要なGBIは3240基ということになる。これは非現実的な競争である。
 ただし中共は、核兵器級のプルトニウムとウラニウムを、RV250個分しかストックしていない。つまり「東風41」が全部12MIRVだとして、20基分をまかなえるにすぎない。
 だがそれで安心することはできない。
 中共は「東風41」のバスに、多数のデコイと1発の真弾頭を搭載することもできるのだ。GBIのレーダーでは、デコイと真弾頭の区別はつかない。デコイに対してもGBIを5基づつ発射しなければならないとすれば、米国は結局、迎撃不可能である。
 ※ミゾカミは囮弾頭の重さが真弾頭と同じだと思い込んでいるらしく、デコイの数は11個と書いている。宇宙空間ではチャフやバルーンの質量が軽くても空気抵抗は無いから十分にデコイたり得る。1基の重量級ICBMからは数十のデコイを放出できるはずだ。
 次。
 Scott Bledsoe and Mike Benitez 記者による2017-1-25記事「Re-Thinking the High-Low Mix, Part I: Origins Story」。
   マケイン議員が独自の白書でハイローミックスを何度も語っているが、ハイローミックスの本来の正しい意味がまったくわかってねえ。
 病院には、少数の医師と、多数の看護師がいる。この組み合わせで、高い効率が提供できる。
 つまり、ハイローミックスの意味は、高性能品の他に安物を多数揃えて使い捨てるという意味ではないのだ。比較的安価で多数ある要素が、比較的高価で少数ある要素と一体に結合することで、最大の効能を発揮するということ。ハイとローのどちらにも、異なった分野での高いパフォーマンスが期待されている。その綜体としてのゴールが、ハイローミックスの理論的な狙い。ハイだけローだけ分離して論ずるのは誤りである。
 そもそもハイローミックスというのは、空軍内の理論家集団が到達した結論。前史として、センチュリー・シリーズがある。
 朝鮮戦争中、戦闘爆撃機としてはF-100、F-100A、F-105があった。また迎撃戦闘機としては、F-101B、F-102、F-104があった。すべてハイエンド品。
 ところが1967に「ミグ25」がデビューすると米国は焦った。マッハ3、高度7万フィート、しかも世界最大のAAM。
 1957以降、米空軍の保有機数は漸減していた。1967年には17%減った。さらに1977には26%減った。こんな趨勢のなかで、この「ミグ25」にどう対抗するか。最終的に「F-15」がぶつけられるわけだが、そのとき、同時に「F-16」もつくることに決めたんである。
 F-15とF-16の組み合わせは、複雑と単純の組み合わせだった。前者はレーダー誘導ミサイル「スパロー」を主武器とするが、後者はそれを使わないことに決めた。
 この理論を考えた男の考え方。ハイローミックスのローとは「低信頼性」を意味しない。逆なのだ。シンプルであることにより、むしろ、ハイエンド・アイテムよりも「高信頼性」が期待できる。荒っぽく運用してもキッチリと期待に応えてマルチに活躍してくれる。故障しないということ。その無故障の大活躍によって、敵を圧倒してやろうと考えたのだ。
 決して「ロー」は、使い捨てできる三流品という意味ではないのである。


中共の工作部局は拙著を直接引用できないので苦悩中。なにしろ「放伐」のし方を書いてますからね。天安門!

 Michael Peck 記者による2017-1-21記事「This Tiny U.S. Navy Warship Sank the Most Submarines in History」。
   パールハーバーで戦死した海軍軍人の名にちなむ、米海軍の小型駆逐艦(DE)『イングランド』は1944-5だけで6隻の日本の潜水艦を沈めた。この記録はいつ破られるのだろうか。
 『バックリー』級DEは1400トンで186人乗り。一等駆逐艦『フレッチャー』級のざっと四分の三だった。主砲も5インチではなく3インチ。それでも発射管×3は残されていた。
 対潜装備が充実していた。爆雷を転がし落とす艦尾ラック×2、K字状爆雷投射腕×8(射程150ヤード)の他、最も威力のあったヘッジホッグを積んでいた。
 英国が開発した24連対潜臼砲ヘッジホッグは、ポテトマッシャー形の対潜弾を発射した。ただし信管は、敵潜水艦の堅い外殻にぶつからない限り、起爆しない。おかげで、駆逐艦のソナーが邪魔されないのだ。
 『イングランド』号の活躍は、米海大の『ネイバル・プロシーディングス』誌の1980-3月号に出ている。
 まずソロモン海で1944-5-19に初戦果を挙げた。
 『伊16』潜水艦を血祭りにあげたのだ。
 『イ16』潜は駆逐艦の航跡を慕うことで探知を逃れようとした。しかし運が尽きた。
 ヘッジホッグの4~6発が爆発した。
 1944-5に日本の大本営は「あ号」作戦を発令していた。
 アドミラルティ諸島およびニューギニアの北東海域に、漸減作戦の最前縁として7隻の潜水艦が派遣され哨線についた。
 ところが暗号が解読されていたので、日本の潜水艦の哨戒位置は丸わかりであった。
 5月22日、米艦『ジョージ』のレーダーが浮航中の『呂106』を探知。サーチライトを向けると、呂号は潜航した。
 だがその先には『イングランド』が待っていた。ヘッジホッグの3発が直撃した。
 5月23日、『イングランド』は『呂104』も撃沈した。24日には『呂116』を屠り、補給のためマヌス港へ向かう途中の28日には、『呂108』も片付ける。
 5隻目の『呂105』は、5月30日から30時間、複数の米艦に追いかけ回され21回爆雷攻撃されながら、粘り続けた。2隻の米艦の中間に一度浮上して空気を入れてまた潜ったりもした。しかし最後に『イングランド』がかけつけ、ヘッジホッグで仕留めた。
 哨戒線の残り2隻の潜水艦は、命令によってすでにその海域から引き払っていた。日本の潜水艦には、1艦につき40名から80名が乗り組んでいたと思われる。
 ※拙著をお読みになって麻薬密輸用潜航艇の写真を確かめたくなった人は「narco」「sub」をキーワードに画像検索すると、たぶん、出てきます。


ラリッくまを止めろ!

 ROBERT BECKHUSEN 記者の記事「So, Was Tom Clancy Right That the Soviets Could’ve Invaded Iceland? Yeah, probably」。
  2013年に死んだトム・クランシーは1986に『レッド・ストーム・ライジング』を書き、ソ連が通常戦争を決意し、1個連隊でアイスランドを占領すると予想した。
 小説では、ソ連軍は民間のバージ船〔ランプドア付きのフェリーのことか?〕にホバークラフトを隠して奇襲。アイスランド駐留の米海兵隊中隊は蹴散らされる。
 ケフラヴィク基地のF-15も離陸前にミサイルでやられる。
 なんか唐突で、主人公にのみ都合のよい筋立てだったが、ロシア軍の専門家であるフィリップ・ピーターセンが2014に書いているリポートによれば、そんな作戦もじっさいに可能らしい。
 ピーターセンは、いかにしてスカンジナビアを露軍から防衛できるかを論じているのだが……。
 アイスランドを占領もしくは無力化することで、ロシアはスカンジナビア諸国の海上連絡線を遮断し、NATOからの援けを得られなくしようとするはずだとピーターセンは指摘するわけ。
 トム・クランシー先生は荒唐無稽な思いつきを書いていたわけではなくて、何かインサイダー情報の根拠があったのかもしれない。
 現在、NATO軍はアイスランドには最小限の兵力しか置いていない。アイスランド国内にはNATOへの関わりを減らすべきだとする政治会派があって、政情を不安定にしかねないので。だから露軍が付け入る隙は在る。
 もしもNATOと露軍の間で先端がひらかれたら、NATOはアイスランドにまとまった兵力を送り込まなくてはならない。さすれば露軍はアイスランドの無力化は諦めよう。
 しかしそうなる前になんとかする方法が露軍にはあるのではないか?
 じつはWWII中にソ連軍は、小部隊をノルウェーに送り込んで、独軍の動静をスパイさせていたことがあった。コマンドー作戦については、素人じゃないのだ。
 それを証明したのが2014のスペツナヅによるクリミア切り取り作戦である。
 アイスランドはパラシュート降下にはまったく向いていない。横風が常に強く、岩石帯に荒く叩きつけられるのがオチなので。
 しかしピーターセンによれば、潜水艦で密かに島に接近して、5人~12人一組のスペツナズをフィヨルドから上陸させれば、アイスランドの要点は占拠できるという。
 たとえば、冷戦中からソ連の爆撃機を見張っていたレーダーサイトがあるホフン基地など。
 ※プーチンはこんどはリビアの特定グループを支援してリビアを「シリア化」したいらしい。ふざけんなよというわけで、オバマは最後にB-2を投入して脅しつけたわけである。すなわちモスクワとトランプに対する政治的メッセージ。兵器の実験がどうのとか、日本には阿呆解説者しかいねぇのか???
 次。
 Hope Hodge Seck 記者による2017-1-20記事「New Composite Fabric Could Make Plate Carriers 40 Percent Lighter」。
  ラスベガスで開催中のショットショーにハニウェル社が展示した「センチュリオン」という新素材防弾プレート。非常に軽量で、ボディーアーマーの挿入板の重量を数割は軽減できるという。
 「スペクトラ」というポリエチレン繊維は、同じ重さの鋼鉄の15倍強く、しかも比重が1よりも軽いので水に浮く。しかも裂け難い。
 ※米海軍は不燃性の作業着を今年の末までに艦隊勤務の水兵たちに支給するとしている。新素材が、貴重な少数の人的戦力を守ってくれるのだ。


スタコラスイッチ

 初版1万2000部で絶賛発売中。この部数だと地方書店の店頭にも間違いなく出るので、アマゾンを使っていない方々は今から書店へGO! 今回の『日本の武器で滅びる中華人民共和国』は、ずっと前に『日支宗教戦争』で展開した儒教圏の反近代性を掘り下げる内容ともなっています。前回(2年前)の+α新書では、増刷が何度かかかったおかげでわたくし、人生ではじめて「カード」というものを最寄の信金で作ることができ、晴れて昨年末からAmazonユーザーになることができましただよ。いや~、便利なものですね。こんなに便利とは知りませんでした。
 次。
 Matthew Cox and Hope Hodge Seck 記者による2017-1-19記事「Army Picks Sig Sauer’s P320 Handgun to Replace M9 Service Pistol」。
  米陸軍は、いまのM9を更新する次期モジュラー式ハンドガン(MHS)としてSigザウエル社製の「P320」を選定した。
 ライバルのグロック社、FNアメリカ社、ベレッタUSA社の試作品は、斥けられた。
 SIGの工場はニューハンプシャー州にある。サイレンサーが簡単に取り付けられること、エクステンデド容量マガジンもそのまま使えること、などの条件もクリアされている。
 グリップは、手の小さい女性兵でも握りやすいように、厚さを変えられるか、もしくは、別寸バージョンが製造される。
 この競争試作は「XM17」の名で2015-8から繰り広げられてきた。
 ところがひとつ、ハッキリしないところがある。使用する実包だ。陸軍は、これが9ミリだとは言っていない。ということは1985にM9を採用する以前の.45に戻すのか?
 9mmと、「.357SIG」実包と、「.40SGW」実包の3種類からどれでも選べるようになる可能性がある。「.45ACP」だけはあり得ない。それに変更できるようなグリップは無理だから。
 さる事情通によると、Sig社としては「.40」口径を推していた。しかし陸軍は、かれこれ考えた結果、結局9ミリとするつもりである、と。
 「グロック17」および「グロック19」でエントリーしたGlock社は、12月にSigとともにコンペ勝ち残りを宣告されていた。おそらくグロック社はこれからペンタゴン相手に訴訟を起こしてこの最終決定に不服を鳴らすだろう。
 ベレッタ社は、30年保持しつづけた米陸軍という買い手をこれで失った。
 ベレッタ社は2014-12に、レールなどをゴテゴテと増設した「M9A3」をまとめた。が陸軍から全く不評と知れたので、急遽ハンマーを廃してストライカー式に変えた「APX」を設計してコンペに突っ込んでいた。
 陸軍のMHSプロジェクトは2013前半からスタート。
 メーカーは50万梃を納品できると見込んでいる。
 最新の陸軍の購入計画では、とりあえず28万梃。
 次。
 ストラテジーペイジの2017-1-20記事。
  ロシア海軍は2016後半に、グラチャノク型の港湾警備艇を2隻、調達した。
 139トン。全長31m。これが、いまのロシアで国産できる軍艦である。
 特徴は、フロッグマンや水中ロボットを探知できるソナーをもっていること。
 最高速力41km/時。補給なしで連続5日間活動できる。8人乗りだが、さらに6人分の船室がある。
 固定火器としては14.5ミリ重機関銃×1。
 「DP-65A」という10連装のグレネードランチャー。これは径55mmのグレネードを500m飛ばし、水中のフロッグマンを殺す。
 RPG類似だが、フレアが燃えるので、どこにフロッグマンがいるのか、水兵全員が理解できる。
 着水すると、プリセットした深度で爆発。
 殺害半径16m。
 他に、肩射ち式SAMのSA-18を4基。
 それらとは別に、「DP-64」という手持ち上下2連の45ミリ・グレネードランチャーが何梃か備えられている。重さ10kgで、射程が400m。
 発射するグレネードは径45ミリ、重さ650グラム。
 これも深度40mまでプリセットでき、半径14mのダイバーを殺す。
 ※フロッグマンといえば、元シールズ隊員のリチャード・マコウィッツ氏の訃報が1-3に報じられていた。本人が癌だと知ったのは2015年秋で、進度4の脳腫瘍だったという。その事実は2016-2に本人により公表されていた。彼は2002年には『内なる戦士を解き放て』という本を書いているそうだ。これが生涯唯一の著作だったようだ。そして2012年を以て、テレビには出なくなった。以下は私の想像だが、もっと早くから病気の自覚をしていた本人が2012を以て、ステロイド剤の使用を止めたんだろう。ステロイドは免疫を抑制するので、正常細胞の癌化も止められなくなるからだ。それでたちまち、テレビでは見せたくない体つきになったのだろう。本人の自覚は「フューチャーウェポン」の撮影中からもうあったのではないか。なんだか心配事があって悩んでいるように見える回が、数回ある。彼は家族のために寿命を縮める究極の選択をしていたのかもしれない。それにしても感心するのは、彼が生まれた年は判明するのに、月日はどこにも公表されていない。さすが。特殊部隊員はこうでなくては。
 次。
 Dave Majumdar 記者による2017-1-19記事「XB-70 Valkyrie: Why Didn’t America Build This Mach 3 Monster Bomber?」。
  ※この記事は2015-11に初出だが、LSBについて考えるよすがとして再掲された。
 なぜ「XB-70」ヴァルキリーは量産されなかったか。単価が高すぎるのに加えて、低空侵入爆撃や低烈度ミッション用には重宝しそうになかったからである。
 エンジン6基でマッハ3を出すことができた。
 試作機1機だけが残っており、オハイオ州デイトンの博物館に展示されている。
 XB-70の開発は、1950年代にまだ防空兵器としてSAM(SA-2)が実用域に無く、高射砲が届かず、局地戦闘機も振り切れるような高空&高速ならば迎撃は受けまいと信じられたところから始まった。
 ところがじつはソ連のSAMがかなり完成しているという情報はペンタゴンには早くから入っていた。にもかかわらず空軍一派はそうした敵の新防空兵器の性能をいっかな正当に認識しようとはしなかった。ゲイリー・パワーズのU-2が1960-5-1にSA-2で撃墜されても、それはソ連のSAMなどではなくて時限爆弾工作もしくはパワーズの裏切りだったと、自分たちで自分たちに言い聞かせた。こうして、最初から開発するのが無駄である役立たずな高額機体が、ずるずると、試作まで持っていかれたのである。
 JFK政権が1961-3-28にXB-70計画をキャンセルするまでに、ペンタゴンはSAM脅威を正当に評価して、侵攻爆撃は低空に限るという指針を固めていた。低空侵攻ならば地形がレーダーを届かなくしてくれるので、敵防空軍側のリスポンスタイムは極端に短くされ、敵には対処のいとまがないだろうと計算された。
 そしてもうひとつ。この時点では米国もICBMを揃えられるようになっていた。何も高額な有人爆撃機に頼らずとも核報復はいくらでも可能となったのだ。
 しかし、ヴァルキリーの試作だけは、淡々と継続された。1964-9-21、加州のパルマデール基地からエドワーズ空軍基地への初飛行。
 試作1号機は、この飛行機はマッハ2.5以上になると、方向安定性がなくなることを教えてくれた。そのため、けっきょく、たった一度だけ、マッハ3を出しただけである。
 試作2号機は1965-7-17に飛んだ。主翼には上反角5度を付し、超音速飛行時の安定性を高めようとした機体だった。
 1966-6-8に、試作2号機は、随伴飛行していたF-104Nと空中接触して、クラッシュ。2名死亡、1名重傷。
 1号機ではなく、改善された2号機が失われたことは、メーカーのノースアメリカンにとって大打撃だった。
 試作1号機の試験はそれでも1969-2-4まで続けられた。83回、のべ160時間飛行。ちなみに2号機は92時間て終わった。
 ※ソ連にミグ25の開発を強いたのがせめてもの功徳か。