『いせ』の皆さん、ありがとうございました。

 ASHLEY PARKER and MAGGIE HABERMAN記者による2016-7-12記事「James Stavridis, Retired Admiral, Is Being Vetted as Hillary Clinton’s Running Mate
  今はタフト大学のフレッチャースクールの校長をしている、ジェームズ・G・スタヴリディス退役海軍大将(四ツ星)が、ヒラリーの副大統領候補になるんじゃないかという下馬評が出てきた。
 スタヴリディス提督はNATO司令官を4年もやった。中東各地での作戦経験も長い。アフリカ沖海賊対策にも粉骨した。
 2012にスタヴリディスは、妻とともにフランスのワイン醸造所の内輪のパーティに出席するために軍用機を私的に動かしてブルゴーニュまで飛んだ、と疑われ、捜査の対象になっている。
 この他にも、実の娘や母親を軍用機に一緒に乗せて「タダ旅行」させたのではないか、等の件で調べられたが、いずれも、不正は無かったとされている。かなり時間がかかったが。
 調べたのはペンタゴンの「インスペクター・ジェネラル」。
 結論として、幕僚に対する指導が不行き届きであり、いくつかの簿記上の瑕疵があったとされた。それだけ。
 他方、トランプ候補が副大統領候補として目をつけているマイケル・フリン元陸軍中将は、いままでずっと民主党員であって、しかも「中絶権」には賛成の立場である。これは米国の共和党支持層からは嫌われる立場である。
 トランプは副大統領候補として誰が人気か、全国行脚しながら見定めて行く方針。火曜日の夜にはインディアナ州知事のマイク・ペンスと語り合った。
 ※室蘭港にておそらく本日一般公開される航空戦艦……もとい、護衛艦『いせ』。特別なご高配をいただきまして、昨日、艦内を拝見してきました。とにかく絵になる軍艦です。後日(『白書2016』のゲラの著者校正が来週に終わってからになります)、写真もご紹介できようかと思います。しかしその前にテキストで盛り上がりましょう。
 わたしは若いときに横須賀で一般公開された米空母の外舷エレベーターは体験したことがありましたが、歳をとりましてすっかり出不精になってから国産空母は現物を見たこともなく、ちょっと残念だと思っておりました。今回、航空機用昇降機に乗せていただいた上、航空発着管制所等でいくつかの愚問にもお答えをいただき、有り難いことだと感謝しております。
 まず拙著の訂正からです。すでに海自のヘリコプターはJP-5を給油されているのだということを承知しました。すいません。だからミッドウェー海戦の二の舞は、起こらないわけです。米海兵隊のオスプレイにも、そのままJP-5を給油すればいい。
 ちなみに本艦でオスプレイが着艦できる箇所は、最後尾の、普通のヘリ着艦点よりも左舷寄りに、1箇所だけ、特別設定されていました。ずらさなければならなかった理由ですが、飛行甲板裏の燃料パイプに、ティルトローターエンジン排気の高熱がもろに伝導せぬように、との配慮のようでした。甲板そのものの耐熱性は、オスプレイだと特に問題はないが(跳箱の踏切板のような反射遮熱鈑をあてがう必要なし)、ハリヤーだとアカンということでした。
 本艦はSH-60クラスの対潜ヘリならば4機を同時に発着させられますけれども、仮にこのフネに陸自のCH-47チヌークや掃海用の重いヘリが着艦しようという場合は、いちばん前といちばん後ろの2箇所だけがそれに対応可能であるようでした。
 理由は、1層下のダダ広い格納甲板に「柱」がなくて、しかも飛行甲板の構造的な強度は〔おそらく復元性や巡航燃費等を重視して〕ギリギリしかないためのようでした。
 この艦には、暗夜且つ濃霧といった無視界の情況でもSHを着艦させられる誘導システムが備わっています。その説明を聞いているうちにわたしは確信しました。戦前の艦上戦闘機に近似した重量のUAV複数を、複数の火薬式カタパルトで舷側から一斉に打ち出して、半自動着艦でまた次々に収容するという運用法が、このクラスのDDHならば簡単にできるはずです。もうすこし軽量なUAVならば、港に碇泊していて、行き脚の無い状態であっても、スウォーム攻撃力の運用が即座にできる。その場合、カタパルトではなくて、VLSのセルを4つ分か3つ分、使って、垂直に打ち出すことも考えていい。そのVLSチューブには、下層甲板において次のUAVを「再装填」するのです。これこそが、妄想的な「対艦弾道弾」とは違う、真に実用になる長距離対艦兵器でしょう。普通の空母よりも数倍頼もしいと思いませんか? 対テロ時代には、間違いなく向いていると思います。
 本艦はあきらかに実験艦だと、わたしはお見受けをしました。航空機用エレベーターは、前と後ろとで寸法が違っています。使い勝手を比較する意味があるのでしょう。
 『おおすみ』のような泛水デッキがないのは、今日の強襲揚陸艦としては、内部容積をヘリコプター作戦のためにフルに使えるので、ベターなチョイスです。シナ兵が地対艦ミサイルを持ち込んで占拠している海岸に40km以内まで近づいてAAV7を発進……なんて時代錯誤に疑いを抱かぬ作戦参謀は、わが日本海軍には一人だって居らぬと信じたい。
 ウェルデッキのある軍艦は、海上での対「グレーゾーン侵略」用の「水上無人艇スウォーム運用母艦」だとか、機雷敷設ができるロボット潜航艇多数を、外からは見えないように発進させたり揚収ができる、特殊作戦向きの特別な軍艦(または巡視船)として設計するべきでしょう。
 その他の所見は、また後ほど……。わたしが小学生のとき最初に作った軍艦のプラモデルは『伊勢』の航空戦艦改装後バージョンです。ウォーターラインじゃありませんよ。ちゃんと艦底まである、ちょっと大きなものでした。あの当時の夢が蘇った。皆様の武運長久をお祈りします。


名古屋コーチンをどうもありがとうございました。

 Lily Kuo記者による2016-7-11記事「South Sudan is on the verge of another civil war」。
    南スーダンが独立して5年目だが、はやくも泥沼の内戦か?
 国連部隊基地の近くにある大統領宮殿の近くには少なくも100体の死人が転がっている。
 都市市民は教会(南スーダンはキリスト教圏)に逃げ込んでいる。
 ケニアの国営航空会社はジュバ空港へのフライトを止められている。
 内戦は、キール大統領派と、マシャール(もと副大統領)派の間で起きつつあり。
 南スーダンの人口は1100万人。うち200万人は住宅を捨てて放浪を余儀なくされつつある。
 ※この記事は肝心なことを何も解説してくれてないから補うと、アラブ系イスラムの支配する元のスーダンから、黒人クリスチャンが多い南部を、仏英米の後押しで切り離したのが南スーダン。そこには石油資源があったから、英米仏が関心を持ってくれて、数十年かけて独立できた。しかしこんどはその石油利権をめぐって内部抗争になっている。じつはアフリカ諸国はひとつの例外もなく、マルチ部族国家。「一部族一国家」になっているところがひとつもない。一国の大統領は、その出身部族(とうぜん、最有力部族だ)の福利だけを徹底的に図る。石油だってもちろん独占。他の多数の部族には国家の税収を1文も分けてやらないばかりか、逆に徹底的に搾取し弾圧する。おそらく南スーダンの「元副大統領」とやらは、二番目に有力な部族の代表者だったのだろう。そいつすら、不公平にブチ切れた。被支配部族は国家からの庇護がまるで得られないから、最初からみんな小銃で武装している。三番目以下の部族は、人らしく生きるためには、隣国ゲリラと結託して「逆転」を狙うことも考える。このようにして、部族と部族の修羅地獄が無間に続く。アフリカではこの構造は絶対になくなることはない。だから第七師団の人々よ。命を惜しんでくれ。そこは命を懸けるに値しない場所だ! かつての宗主の欧州人そこがそこで責任を取らなくてはいけないのだ。 近年は近隣国の正規軍がアフリカ難民キャンプの警備を担任することがあるが、これもけっこう危ない。今年2月にはルワンダ正規軍が、国連平和維持部隊のキャンプ近くに蝟集してくる南スーダン難民たちを襲撃に来た武装勢力(難民とは部族が違う)を撃退してくれたのはいいのだが、そのあとで死体を数えてみたら、難民の死人の方が多かった。ルワンダ兵にすら、難民と武装ゲリラの外見上の識別ができず、ゲリラだと思って、走り回る難民たちを射撃していたのだ。
 次。
 Brian Fung記者による2016-7-11記事「The robot that killed the Dallas shooter」。
    先日のダラス市では、「銃乱射犯人」の足元へ、ダラス警察が自走ロボットによって爆弾を運搬し、犯人を爆殺した。米国内で、ロボットがこのように使われた初のケースである。
 ロボットは「リモテック・モデル F-5」という商品名で、運搬したのは1ポンドのC-4プラスチック爆薬で、導爆線により起爆させた――というのが7月9日の第一報。これは部外の専門家の推定だった。
 しかし7月11にダラス市警本部長が、「リモテック・アンドロス・マークV-A1」ですよ、と公表した。
 メーカーは、ノースロップ・グラマン社だった。
 自重790ポンド。履帯式で、時速3.5マイルで動ける。
 26倍光学ズームカメラと、12倍デジタルズームカメラ搭載。
 マジックハンドで50ポンドの物を持ち上げられる。
 『ワシントンポスト』に言わせれば、このロボットの同定などどうでもいい。問題は爆薬やその使用法についての公式説明責任が果たされていないこと。そこがいちばんパブリックな論議の対象となるところなのに。
 ある爆薬会社の経営者に取材したところ、1ポンドのC-4は、ビルの1フロアやトラック1台を吹っ飛ばす威力があるが、使いようによっては犯人を殺さずに倒すこともできるでしょうな、と。
 警察は、犯人をガレージの中で爆殺したと発表している。だがそれは嘘だ(まだビルのオーナーである地元大学は現場にも立ち入らせてもらえないでいる)。が、どうやら「セカンド・フロア」で犯人は爆殺されたらしいと大学の人は言っている。
 大学の人いわく。警察はエレベーターシャフトから2階へ近づき、このロボットを投げ入れたのではないか。


インドネシアがナトゥナ諸島に滑走路と港湾を造成したがっている。

 Bryan Bender and Shane Goldmacher記者による2016-7-8記事「Trump’s favorite general」。
  マイケル・フリン退役中将は、33年間、陸軍に奉職した。
 統合参謀本部の情報部長、中東作戦担当のセントラルコマンド司令官、アフガニスタンにおけるNATO軍司令官、米軍特殊作戦コマンド司令官を歴任。そして2012から2014までDIA(軍の情報局)長官だった。
 だが、オバマ政権の中東政策を批判し、軍を逐われた。その後フリン氏はかなり早くドナルド・トランプ候補への支持を表明した。
 いま、フリン氏は57歳。ひょっとしてトランプの副大統領候補になるのではないかと言われ出している。
 フリン氏はすでにトランプ候補に対し、ISやイランや軍事についてのアドバイスをしている。
 トランプタワーの中での「ご説明」は、もう昨年の秋からだという。
 フリン中将の息子(同名)は、トランプ選挙事務所の高級アドバイザーの一人である。
 フリン氏は民主党員である(登録しているという)。これがトランプの運動に吉と出るか凶と出るかはまだわからない。本人は中道主義者だと強調している。
 これまで、トランプの副大統領候補としては、NJ州知事のクリス・クリスティ、インディアナ州知事のマイク・ペンス、元下院議員のニュート・ギングリッチなどの名が挙がっている。
 ジョニ・アーネストとボブ・コーカーの2人の上院議員の名前もあったが両名は今週その可能性をはっきりと否定した。
 フリンは、ヒラリーは辞任すべきだと発言している。私物メール事件がもし自分だったら、辞職だけでは済まず刑務所行きである、と。
 フリン将軍は、イランとの核合意は破棄すべきだし、イスラム過激派には国内でも国外でももっと攻勢に出るべきだと信じており、これらはトランプに影響を与えている。
 他方でフリン中将はプーチンが好きである。最近もモスクワでディナーを一緒にしているほど。
 フリンは、ビンラディン殺害作戦のあと、ラディン式テロリズムはまだ生きていると警鐘を鳴らし、1万7000名規模のDIAの機構改革を試みたが、それはオバマ政権に阻止された。
 フリンはまた、ペンタゴン内で働いている文官の半数以上を解雇するべきであるという意見も保持している。なぜならそやつらは米国のシステムを腐敗させており、その酷さは汚職天国の後進国も裸足で逃げ出すレベルだからであると。
 フリンは現役中は政治向きの運動は一切控えていた。シビリアンとなった今、彼の個性が開花している。
 有名な退役中将なのに彼は巨大軍需企業にも、ブーズアレンハミルトン社の重役にも再就職しようとはしなかった。個人でいることは素晴らしいと彼は言っている。そういう埋没的な再就職をする将軍たちこそが、マッカーサーの言った「フェイドアウェイした老兵」に他ならないのだ、とフリンは示唆する。
 彼の強烈な個人主義的キャラクターは、フリン家のルーツがニューイングランド地方のアイリッシュ(もちろんカトリック)であることから、ある程度納得されるだろう。趣味は、サーフィン、ランニング、小説だ。
 フリンと近しい、元CIA長官のジム・ウールジーが評する。フリンは、ある政策が失敗すると判断したときは、ボスに向かって「それはうまくいかないように見えます。理由は三つです。まず……」と直言するタイプだ。キャリア遊泳が上手な部下なら、上司が聞きたい話をどう創作するかを考える。フリンはそれを考えない。
 だからフリンは、トランプの主張である「イスラム教徒のテロ容疑者には水責め拷問をどんどんやれ」「ISの家族を爆殺するようにすればISはテロをやめるだろう」には反対だと公言している。
 フリンはトランプに対し、外交問題では「正確な言葉による表現」が死活的に大事ですよ、と助言しているそうだ。
 フリンは少将であった2011に『スモールウォーズジャーナル』誌に寄稿し、米国はネイション・ビルディングができなくてはならない。戦闘と交渉を同時に進めながらね――と訴えている。これも、トランプの「脱・世界の警察」主義とは、相容れない。
 フリンは7月12日に著作をリリースする。副題は「いかにしてわれわれはラディカルイスラムとその党与どもに対するグローバル戦争に勝利するか」。
 この新刊の内容および評判しだいで、フリンがトランプの副大統領候補になるかならないか、見えてくるだろう。
 この本の共著者のマイケル・ルディーン(G.W.ブッシュ政権の安全保障政策に影響を与えていた学者)いわく。フリンは、質問に答えることでいくら周囲が気まずくなろうとも、それには構わずに質問に答える。そういうタイプだ。そのフリンが来週のクリーヴランドの共和党大会で何を語るか、要注目だ。
 副大統領候補にはならぬとしても、トランプ政権ができた暁には、フリンはCIA長官あたりにされるのではないかと、フリン将軍の周辺者は期待している。


カナダはスーパーホーネットの1社指名(非競争入札)に傾いている。

 Kathleen Hicks and Michael O’Hanlon記者による2016-7-8記事「Donald Trump is wrong about NATO: Column」。
  米国はGDPの3%を国防費に支出している。そして他のNATO諸国は2%を支出することで合意していた。なのにいまだに平均1.4%だ。
 だから米兵がアフガンに10万人も駐留させていたとき、他のNATO諸国は3万5000人しか出兵させられなかった。
 米国と西側諸国の軍事支出は、世界の3分の2である。または、6割強である。
 韓国はGDPの2.5%も支出しているのでNATOよりは優等生である。
 豪州すら2%出しているのだ。
 われわれのシンクタンクの見積もりでは、米軍を海外の複数の主要な工業国家に展開させているコストは、年に100億ドル弱である。
 それは、米国の国防支出総額のたった2%未満でしかない。
 しかも、その100億ドル弱の半分以上は、ホスト国が負担をしているのだ。
 米本土に戦力を置いていてそこから海外に出撃するよりも、最初から前線近くに戦力を配していた方が効率的である。日本に置いている空母がその典型だ。実質、そうした海外駐留が、米国の国防費を、100億ドル以上、節約してくれている。
 西側同盟諸国はまた、GDPの0.5%ほど、米国よりも多めに負担しているものがある。それは低開発国援助だ。
 米国は、軍事費こそ高負担だが、低開発国援助は、低負担なのである。そこは同盟諸国がカバーしてくれているのだ。
 国連平和維持活動への寄与でも、非米NATOは米国よりも多くの兵員を拠出している。過去10年を平均すれば1万人。
 なるほどアフガンへは戦闘部隊を少ししか送ってないかもしれないが、国連平和維持活動では非米NATO諸国は過去15年の長きにわたり1000人もの死者を甘受しているのだ。
 ウクライナ侵略以後、米国が呼びかけた、対露経済制裁。これで西欧諸国はどれほど経済的に「損」をしたか。米国と違って西欧はロシアと多額の商売をしていたのだ。
 平時の米-露貿易の勘定は、欧-露貿易の勘定の、10分の1にもなっていない。
 同様に欧州は、米国が主唱した対イラン制裁にもつきあってくれているのだ。
 トランプの言うように、米国の同盟国たちは勝手に戦争を始めてそれに米国を巻き込むのだろうか?
 違う。
 WWII後、侵略戦争をしかけたのは、北鮮であり、アラブ諸国であり、サダムフセインであり、中共であり、ロシアである。これらはその当時、米国の同盟国ではなかった。
 パキスタンがインドに戦争を仕掛けたとき、パキスタンは米国主導のセントーの加盟国であったが、パキスタン政府は米軍に加勢に来てもらいたいとは少しも思っておらず、じっさい米国は扶けなかった。同様のことは、英仏がいくつかの殖民地でやらかした軍事行動についても同様であった。
 NATOなどの多数の同盟国のおかげで、戦後の世界には、米国を巻き込む大戦争が起きずに済んでいるのだ。この抑止体制を、米国はたったのGDPの3%の負担で実現しつつある。しかし米国を巻き込む大戦争が起きれば、米国の負担額や損害額はGDPの3%ぽっちではとうてい済まない。
 トランプは、Trexit(西欧からも中東からもアジアからも米軍を引き揚げろ)を追求しているが、それはアメリカの壊滅をもたらすだろう。トランプの口癖を使おう。われわれの国際安全保障体制は、とても良い投資案件ですよ。
 ※90’sにトランプ氏は、コニーアイランドを東海岸のラスベガスにするとした事業などが大不振に陥り、おそらく人生でいちばん苦悩していた。そんなとき、日本の土地買収攻勢が、マスコミ的にとても目立った。トランプ氏は昔からマスコミに注目されない人生には耐えられない。彼の日本嫌いは、1990年代に染み着いたと想像できる。いずれにせよ、日本政府は来年、「THAADを買わされて国産兵器開発予算枠を全部奪われるか、防衛費をGDPの2%にするか」を迫られるだろう。
 次。
 David Willman記者による2016-7-6記事「A test of America’s homeland missile defense system found a problem. Why did the Pentagon call it a success?」。
  「ダイヴァート・スラスター」という部品がある。
 噴射管が4つあり、衝突コースを修正する。GMD用のスラスターだが、この改善型のテストが2016-1-28に実施された。
 インターセプターは加州ヴァンデンバーグから打ち上げて、標的をかすめたとされた。
 当日の発表は、「成功」だった。しかし、それは大嘘だったのである。
 この新スラスターのメーカーは、アエロジェット・ロケットダイン社。
 インターセプターを組み立てている会社はレイセオン。
 ロサンゼルスタイムズの取材によればテストは失敗した。4つの管のうちひとつに故障があり、迎撃飛翔体は、必要なコースに遥かに届かなかった。
 GMD=「グラウンド・ベイスト・ミッドコース迎撃」は、ちっともうまくいっていないのだ。
 GMDは、2004に作戦可能状態になったと発表された。それいらい国民の税金400億ドル以上が突っ込まれている。
 過去、必ず当てるようにお膳立てされた実験でも、半数は、標的を外している。
 今回の失敗の原因はソレノイド・ヴァルブの不具合が疑われるという。
 GMDはクリントン政権が対北鮮BM用に拙速に展開させたもので、ヴァンデンバーグ(加州サンタバーバラ郡の海岸)、フォート・グリーリー(アラスカ)の2箇所に迎撃ミサイルの発射基地がある。
 ヴァンデンバーグには4基、フォートグリリーには26基展開している。オバマ政権は、さらに14基を2017年末までに Ft. Greely に追加することで連邦議会から協賛を得ている。
 ※同様、THAADはいちども中距離弾道弾を迎撃してみせてないだろ、とGAOがするどく指摘している。そんなものをグァムに1個大隊展開してどういうつもりなのか、と。じつに米国では会計検査院もマスコミも、ちゃんとした仕事をしているので、うらやましい限りだ。日本ではオレみたいな個人商店がそれをやるしかないんだから……。THAAD韓国展開の意味は、米国がシナ大陸奥地から北米に向けて発射するICBMをできるだけ早くトラック開始したいというのが1つの目的。つまりミサイルよりもXバンド・レーダーを置きたい。もうひとつの目的は、韓国人の「核武装論」を黙らせることで、サウジが対イランの核武装をしようとするのを防ぎたい。
 次。
 Isaac Stone Fish記者による2016-7-7記事「Beijing Establishes a D.C. Think Tank, and No One Notices」。
  なんと中共はDCにシンクタンクをひっそりと開設していた。ICAS(Institute for China-American Studies)というのだが、まったく宣伝していないので、グーグル検索しても3ページ目にならないと出てこない。
 そしてこの「シンクタンク」は、国際仲裁裁判所の風向きに影響を与える米国世論づくりのミッションには、まったく失敗したのである。
 ※日本ではまだまだこれからも、個人商店(フリーライター)だけが国家の大戦略を考えて提言できるという時代が続くだろう。


みんなそろそろ「機雷主義」に目醒めてくれたかな?

 Kelsey D. Atherton記者による2016-7-6記事「The Jet Fighter Of The 2040s Will Be A Stealthy Drone Herder」。
  ドイツ政府はトーネイド戦闘攻撃機の後継機として、エアバス社に「複座・双発・双垂直尾翼」形状のステルス万能機を設計させるつもりだ。
 後席パイロットは、UAV〔のウスォーム〕に指令を出す役目に専任する。
 この機種の完成には20年以上かかるはずだが、その時点でも、戦闘機は完全には無人化されない――と業界では踏んでいる。
 この機種によって旧式のトーネイドはリプレイスされるが、ユーロファイターは残る。この機種で、ユーロファイターを補完するのだ。
 ※衛星に依存しない空中ネットワークを構成できれば、無人化した「ホンダジェット」のスウォーム、P-1改造アーセナルプレーン(空中巡洋艦)、P-1改造国産AWACS……等のミックスでも防空戦闘は可能なはずだ。2040年代にはね。
 次。
 Jeffrey Frank記者による2016-7-6記事「Henry Kissinger’s Tactical-Nuclear Shadow」。
  2012年にキッシンジャーは、クリス・クリスティーに大統領選挙出馬を促した。
 キッシンジャーは33歳のときに、〈戦術核兵器は、主に空輸に依存する高機動性の独立部隊に扱わせる。戦場でも、彼らは空中機動する〉と提言し、それから一躍、中央政界に国家安全保障問題を進言する大御所になった。
 サウジと日本に核武装させればいいじゃないかとかブチあげているドナルド・トランプは最近キッシンジャーに会った。
 直後のトランプの自己宣伝によればキッシンジャーはこう語った。――世界中の国々がわたしに電話してきて、皆「どうしたらいいでしょう」「どうしたらトランプ氏の機嫌をよくすることができますか」と一様に尋ねるんですよ。だからあんたのタカ派の流儀は悪くはないようだ――と。
 トランプが大統領になれば、戦術核兵器の対テロ作戦での使用が現実的になるのかもしれない。
 2007年の民主党内の大統領予備選挙で上院議員のオバマ候補は、パキスタンやアフガニスタンのテロと戦うために米国の核を使うことはないと明言してしまった。これに対して当時の対抗馬ヒラリーは、冷戦以降の大統領は核を使うとも使わないとも予め断言してはいけないのだと論難した。
 これは正しい。ヒラリーが大統領になっても、戦術核がイスラム・テロ組織の頭上で炸裂する可能性は、なくなるわけじゃない。
 次。
 ストラテジーペイジの2016-7-7記事。
  シナ政府は、北斗衛星信号の受信機を軍のトラックすべてに装置させたいと考えるようになった。
 これらの軍用トラックが私的商売のために転用されているのを、位置信号を追跡することで見張る。それにより、軍の腐敗を防止する。
 他方、2013以降、贅沢な私有乗用車に軍の高級将校の家族が軍用ナンバープレートを勝手にとりつけないようにする試みが次々打ち出されている。
 正規のプレートをデータベースに登録して、それ以外のものをとりつけて走っている不法車両を市中監視カメラで自動摘発しようという試みは、しかし、うまくいってない。
 偽軍用プレートをつけて走れば、税金も高速料金も払わなくて可い。したがって政府が得べかりし税収を得られないわけ。
 ※『白書2016』の刊行がさらに8月下旬にずれ込みそうで参ってます。今すぐ世間に解説したい事象がたくさんあるのに……。5月に脱稿した話の要修正箇所は、2ヵ月間経過すると、もうリカバリーし切れないレベルに増えるおそれもあります。まあ著者にはどうしようもないことですので、他社向けの別企画に当面没頭します。そろそろ新型戦闘機のコンセプトの話をしたいね。


いつも火のついた煙草片手に登場する三代目体制が国民には禁煙を命ずるらしい。

 Keith B. Payne記者による2016-7-6「Once Again: Why a “No-First-Use” Policy is a Bad, Very Bad Idea」。
  またしてもオバマ政権は核の「ノー・ファースト・ユース」=NFUポリシーを宣言したがっているらしい。
 NFUはしかし、2010のオバマ政権すら否定し去ったもので、それには合理性があるのである。
 米国のあいまい存置政策こそが大戦争の抑止になってきたのである
 米国が核抑止を確立していらい、世界の戦争死者は劇的に減った。この事実を人々は見ようとしない。
 しかし米国が今NFUを採用すれば、世界じゅうの反西側勢力は、ハイテクテロ兵器、化学兵器、生物兵器を使いまくりとなることは必定。だって核さえ持ち出さなければ核で報復されないんだから。
 ロシアは2008以降、武力でWWII画定国境を変更し続けている。しかも露骨に核の先制使用を揚言して周囲を脅している。
 2015-6-26の英紙『The Telegraph』の報道によれば、露軍は3万3000人を動員して、ノルウェー、フィンランド、スウェーデン、デンマークに侵攻するというシナリオの演習を実施している。
 ロシアや中共が、核以外のなんでも、すなわち、生物兵器と化学兵器を無制限に使用して侵略戦争を始めると、周辺国に8000万人から1億人の死者が出るだろうと見積もられている。米国がNFU政策を採用すれば、これは未然には抑止できないのだ。
 もし米国がNFUを宣言すれば、同盟国に対する「核の傘」も消滅するので、同盟国は独自に核武装を模索する。すなわち核は世界に拡散する。
 特に韓国と日本は核武装するだろう。
 次。
 ストラテジーペイジの2016-7-6記事。
  6月末に中共は、軌道上で衛星に燃料注入できることを示した。
 米国がかつてペースシャトルを開発したのも、高額なスパイ衛星の寿命をできるだけ延長するためであった。高度を維持したり軌道を微修正するための補助ロケットの燃料が尽きると、低軌道の衛星はすぐに空気との摩擦で周回高度が低下して墜落する。
 しかしシャトル全廃のあと、米国は、衛星燃料の宇宙での補給については2020年まで何もしないつもりである。
 無人シャトルのX-37Bは2機ある。2016年半ばの時点で、米空軍によるX-37Bの4度目の軌道上ミッションはまだ続いている。自重5トン、ペイロードは300kg弱だ。
 しかし2年間以上も軌道上にとどまることが可能。ペイロード24トンの旧シャトルが有人であるがゆえに数週間しか宇宙にとどまれなかったのとは大違いだ。
 X-37Bにはロボットアームがついており、将来はこれで軌道上のスパイ衛星に燃料補給もできると考えられている。ただしこれまでに実施したことはない。
 X-37Bじしんがスパイ衛星の機能を果たすと信じられている。軌道を急に変更するので、敵は何かを隠すいとまがない。
 スパイ衛星への燃料再補給を日常的に実施できる、ペイロード1トン以上の「X-37C」も企画提案されている。X-37Bをスケールアップしたようなものとなる。そして中共も今、このX-37Cと同じサイズの無人シャトルを開発中なのだ。
 次。
 最新記事「Russia gathers troops at Baltic military bases ahead of Cold War-style stand-off with Nato」。
   冷戦時と同じパターンで、NATOに対抗してロシアが大演習をバルト海で開始する。いまはカリニングラードに大兵力を集結中。
 NATOのワルシャワ会議は7-8に始まる。
 ロシアはカリニングラードをSAM要塞化することでNATO軍機がバルト三国やポーランドに近寄れないようにしたい。それで新しいレーダー基地も増やしている。
 2016-6後半の報道。ロシアは2019までにカリニングラードに「イスカンデル」短距離BM部隊を常駐させる。それには核弾頭がつけられる。


すべての宗教は戦略兵器である。

 Mustafa Salim and Loveday Morris記者による2016-7-4記事「After Baghdad blast, use of fake bomb detectors draws anger」。
  爆弾テロが頻発中のバグダッドでは、かつて英国の詐欺商人が売りつけたインチキ爆弾探知機がいまだに検問所で広く用いられている。プラスチック製のピストルグリップに〈地下の埋没物検知に有効と一部で信じられている、ぶらぶらするロッドアンテナ〉1本がつけられただけの形状だ。
 何の機能もないこの装置でボディチェックを受けるために、人々は炎天下の検問所に何時間も並んで待つのである。
 この贋探知装置は商品名「ADE 651」という。これを作って売り込んだ詐欺師のジム・マコーミックは2010年に逮捕され、2014年に英国の裁判所で懲役10年の判決を受けている。
 マコーミックはこの片手持ちサイズの偽装置をイラクなど数ヵ国に売って8000万ドルも儲けた。
 売り文句は、「麻薬や爆発物を1km先からでも探知できます」。こんなのを信ずる政府がたくさんあるのだ。というか、最初に購入を決めた高官たちは、嘘を承知でこれを言い値で買い取ることにし、商人からのキックバックで国家予算を着服したわけである。
 マニュアルには、「正しい物質探知カードを挿入すれば、野生の象や、100ドル札紙幣も、嗅ぎ出すことができる」等とある。※むかしの少年雑誌の「表4」に載っていた怪しいアイディア商品満載カタログのコピーの数々が蘇る……。
 FBIによると、1990年代のなかば、ロストしたゴルフボールを草叢から見つけ出せるという売り文句で「ゴーファー」という商品名の、もちろんまがいものの発見器が69ドルで市販されたことがあって、「ADE-651」も、その別バージョンなのだという。ただしマコーミックは1個に数千ドルの値段を付けて外国政府に売り込んだところがすごい。
 ピストルグリップに取り付けられたロッドは、わずかな加速度や傾きでも左右にスウィングするように振れる。これが「何かを検知した」とユーザーを錯覚させるわけ。
 マリキ首相は2014年に、なんでこんなものをまだ兵隊に使わせているんだと記者会見場で問い詰められ、「ニセモノも少しはあるが、それ以外は本物だ」と答えている。彼は腐敗の構造を承知していたのだろう。
 同年にアルアバディがイラクの新首相になってからもこのいんちき装置は使われ続けている。
 次。
 David Cenciotti記者による2016-7-5記事「The most up-to-date F-22 Raptor jets are currently fighting Daesh」。
  UAEのアルダフラ空軍基地に送り込まれているF-22Aのスコードロンは、装備するラプターにいちばん先端的な改修をほどこしている。
 ソフトもハードも最新式。
 アラスカのエレメンドルフが原隊で、4月からISを空襲している。
 この部隊のラプターが、同機種として初めて、サイドワインダーのAIM-9Xを搭載している。ヘルメットマウンテドディスプレイと連動するものではない。が、発射したあとからデータリンクによって敵機にロックオンさせることができ、したがって、真後ろの敵機を攻撃できる。
 中東でのラプターの主任務は、そのAESAレーダーによって、ISが布陣している地上の電子地図をつくり、それを、次にやってくるストライクイーグルのミッションコンピュータに共有させてやることだ。「先駆けする空中移動センサー」なのである。
 次。
 2016-7-5記事「Is China’s Mysterious New Satellite Really a Junk Collector? or a Weapon?」
  6-25に海南島から「長征7」ロケットでうちあげられた衛星「うろつき龍」。これがマジックハンドを有していて、目的が謎。
 中共は、宇宙の大型ゴミを掴んで軌道から突き落とし、大気摩擦で燃え尽きるようにしてやるものだと公式に説明しているが……。


先任中尉が「自衛戦闘」の開始決断を迫られる時。

 Tara Copp記者による2016-6-30記事「’I didn’t want to start a war’
Navy: Poor leadership, training led to capture of 10 sailors by Iran」。
  やっと全容の発表がなされた。イラン革命防衛隊にイランの領海内で米海軍のリバーボート×2隻が拿捕されたという2016-1の恥ずべき椿事の顛末だ。
 1隻のエンジンは、出港前から故障していた。乗員たちは、直近の航法実務試験に皆落第していた。無線機はことごとく機能しなかった。2隻の乗員のうち10人は、外洋でのこれほどの距離の航海が初めてであった。
 しかし彼らは送り出され、そして乗員たちは、戦闘を堪える精神力をもっていないことを証明してしまったのであった。
 2隻は、クウェートの港からバーレインに行くはずだった。が、なぜかイランのファルシ島の沖1.5浬で停船。8人の男の乗員と1人の女の乗員が逮捕されて1晩を訊問所で過ごし、いろいろな秘密をイランに与えた。間抜け過ぎる。
 すでにこの事件に責任ありとして、モーゼス大佐(コモドアー=艦隊司令官)とラッシュ中佐(艇長)は、ポストを外されている。
 クウェート軍港のもうひとりの将校(姓名等未公表)も、ポストを外された。
 他に6人の海軍軍人も、処分を待っている。そのうちひとりは、先任兵曹長だ。彼は艇長に抗命した。
 1月12日から13日まで続いたこの事件、米国とイランが核開発問題で外交協議を詰めているさなかであった。
 艇の将校たちはイランのテレビカメラに向かって「お詫び」を語った。
 詳細な数百ページの報告書は6月30日に海軍から公表された。
 それによると……。
 リバーラインコマンドボート802号艇と805号艇は、計画より4時間送れてクウェートを出航した。無線機の調子が悪くてそれを直せなかったからだ。
 その前夜、802号艇は、エンジン故障も起こしており、やはり直っていなかった。
 そこで1月11日夜から12日朝まで徹夜でエンジンを整備し、それから250浬のミッションに出発した。
 ふつうはこの距離の航海をする前には数時間の休憩が求められるが、2人の艇長は一睡もできなかった。
 両艇長とも、海軍が課す「航海科」の最近の試験には落ちていた。そして乗員の誰も、搭載されているナビゲーションシステムについて、2時間を超える教習は受けていなかった。
 805号艇は、航程ログ記入〔コンピュータへの航程入力か?〕をしなかった。どちらの艇長も、紙の海図を事前に確認していない。
 乗員たちは、この準備状態ではダメだと言い合っていた。誰もこれだけの距離を航海した者はなく、しかも、途中で1回必要な夜間の洋上給油も、これまで誰も体験していなかった。
 まして無線が無反応なので、洋上給油を受けられるか、甚だ心配された。
 先任艇は802号である。802号艇長は、日没後の給油ではなく、日没前の給油を受けたいと考え、給油艦の『USCGC モノミー』との邂逅点に、本来の航路ではなくて、ショートカットして行こうと考えた。その決心は上司の許可を受けておらず、しかも、乗員にも知らせなかった。
 この結果、かれらは一直線にイランの革命防衛隊の根拠地、ファルシ島に向けて突き進んだのである。阿呆過ぎる……。
 拘禁される1時間前、島がハッキリと見えて来たのに、彼らはそこがイランの領海だとはまるで思わなかった。
 その瞬間、ナビシステムは、そこはイランのファルシ島で、イランの領海内だと表示していた。
 しかし総勢10人の乗員のうち誰もその情報に注目はしなかった。ディスプレイ上で島をズームさせれば詳細情報が出てくるのだが。
 だれひとり、海図室の予備海図を確認しようとはせず、まただれひとり、米海軍の海洋オペレーションセンターに無線で問い合わせようともしなかった。
 ひとりの乗員は、私物のスマホを見てみた。アプリケーションが、長いアラビア語の名詞(島の名)を表示した。情報はそれだけだった。
 そのとき802艇のエンジンの油圧が危険レベルに低下し、行き脚が落ちた。805艇は、艇長が減速させて、橫に並んだ。
 ナビシステムの記録によれば、802艇は4時12分に行き足がなくなり、805艇は4時13分に行き足がなくなっている。
 802艇はエンストしたわけではない。微速で航行を続けながら修理することはできた。しかし、そこにとどまって修理することが選択された。
 そしてその時点でも彼らは、目の前の島について何も確かめようとしていない。
 両艇長とも、ガナーに対して、エンジン修理中に接近してくる敵を警戒せよとも命じていない。
 かれらは修理は20分で終わると思っていたところ、停止後数分にして、2隻の小型艇がこちらに近づいてきた。
 その小型艇が1000ヤードまで来たところで、802号艇長は、相手船が武装していることを視認した。しかるに艇長は部下に、防衛のための準備をせよとは、なんら指示していない。艇長は、その武装艇はサウジのものだと思い込んでいた。
 武装艇2隻が100ヤードまで迫ったときに、ようやく米海軍の2艇は、ガナーたちに戦闘配備を命じた。
 彼らは、イラン革命防衛隊の青旗を認めたからだ。
 乗員たちは、レンチを高くかかげ、今エンジン故障で修理中であることを、イラン人たちに分からせようと、いろいろ叫んだ。
 そこへ、さらにイラン艇が2隻、やってくる。
 802艇長の若い中尉は、急いで海面から離れようとして全速前進を命じた。が、先任兵曹が抗命した。先任兵曹のみるところ、こちらの針路をイラン艇はブロックできる位置関係であり、かつまた、イラン艇乗員のAK-47の銃口が皆、至近距離からこちらのガナーたちに指向されていたからである。
 802号艇長は、射たれてもいいからすぐに前進しろと先任兵曹に命じた。しかし先任兵曹はエンジンを動かさなかった。動かせばこちらのガナーが射殺されるのは必至だというのが先任兵曹長の抗命の理由である。
 しかたなく、その場の最先任者である802号艇の若い中尉が、イラン人と交渉を始めた。
 中尉は、ここでイランと戦争を始めたくないと判断する。
 乗員たちは両手を上げ、膝まずいた。
 イラン人たちが乗り込んできた。
 そして米国旗を引き毟り、イラン国旗を掲げた。
 このあと、ガナーの一人であった女性乗員が、縛られた状態であったが、遭難信号(緊急ビーコン)のスイッチを入れることに成功した。しかしイラン人がすぐそれを見つけ、ビーコンを没収した。※オレンジ色の投下ブイのことか?
 乗員がもっていた武器、コンピューター、携帯電話は、すべて没収された。
 翌日、昼食後に彼らは解放された。このへんのことはすでに報道が詳しくされている。
 米国防総省のコードオブコンダクト集には、非戦争時下における将校の「降伏」の判断については、明確な規定がない。
 802艇長は、イラン人たちに、部下乗員を動画撮影しないでくれと要求した。しかし彼自身がイラン製作のフィルムの中で謝罪した行為は、コードオブコンダクトに明瞭に反している。
 イラン人は、艇長が動画で謝罪することだけが乗員の解放につながる道だと艇長を説いた。この場合でも、艇長の行為は、米軍のコードオブコンダクトに反するのである。
 ※海軍はこの事件の第一報をケリーよりも早くスーザン・ライスに報告した。そのことから、ライス特命の特殊任務だったのかと、わたしはいままで疑っていたが、そうではなかった。オバマ政権の「世評」維持係であるライスは、このぶざまな事件の詳細を半年間、議員やマスコミに対して隠し抜くことで、なんとかみずからの任務を完遂したようである。ぱちぱちぱち……。


「読書余論」 2016年7月25日配信号 の 内容予告

▼防研史料 『爆弾信管関係』
 海軍の爆弾にとりつけた信管の秒時が網羅的に記されている。
▼防研史料 『爆弾第三十三回実験』S15-3-29
▼防研史料 『爆撃参考綴』〔マル6/兵器/136〕
 ※この史料は本格的なものである。
▼防研史料 S13-5-28~S18-8-1『爆弾関係資料綴』by航本
▼防研史料 『爆弾本体一覧表』(英文)
 海軍の爆弾についてである。
▼後藤 乾一[けんいち]『近代日本とインドネシア』1989-4
▼根本惣三郎ed.『回顧 乃木将軍』S11
▼渡辺 求『乃木将軍と孝道』S15
▼横山達三(黒頭巾)『乃木大将』大1-11pub.
 伊藤博文より乃木の漢詩の方が平仄が正しいという。
▼陸軍歩兵大尉高橋静虎『恩師乃木将軍 第一』大3-10
 ヒエは何年貯蔵しても虫がつかない。腹にももたれない。城内糧食である。よって、武士が用いる。
▼大島輝久『乃木大将言行録』S2
 植木では死傷者は人夫をして後方に運搬させた。弾薬糧食の推進、後退も、人夫にさせたのである。
▼東 岩美『乃木大将 第一巻 錬磨育成篇』S16-10
▼四元学堂『忠勇義烈 軍神乃木大将』大8初版、大9repr.
▼『日本海軍航空史(3)制度・技術篇』S44 時事通信社
▼高幣[たかへい]常市『山本五十六元帥』S18-10
▼『浦賀船渠六十年史』S32 同(株)ed.,pub.
 エリコン20ミリ機銃とその弾薬包を生産することになる大日本兵器(株)を知るための基礎資料。
▼宮野澄[とおる]『不遇の提督 堀 悌吉』1990、光人社
 ◆  ◆  ◆
 「読書余論」は、主に軍事系の古本を、兵頭が注目した一斑の摘記や読書メモによって紹介し、他では読めないコメントも附しているものです。
 あまりに多すぎる過去の情報量の中から「兵頭はここは珍しいと思いました」というポイントだけ要約しました。
 大きな図書館に毎日通えない人も、最低費用で、過去の軍事知識のマニアックな勘所に触れることが可能です。
 また、ミリタリーしか読んで来なかった人には、他分野の情報が、何ほどか有益かもしれません。
 「読書余論」は、毎月25日に「武道通信」から最新号が配信されます。1号分の購読料は500円です。
 バックナンバーも1号分が500円で、1号分のみでも講読ができます。
 過去のコンテンツは、配信元の「武道通信」のウェブサイト
http://www.budotusin.net/yoron.html
 で、タイトルが確認できます。
 電子書籍ソフト対応の「一括集成版」もできました。詳細は「武道通信」で。
 ウェブサイトでわからない詳細なお問い合わせは、(有)杉山穎男事務所
sugiyama@budotusin.net
 へどうぞ。


司令官が穏健を行動原則とすれば、敵をして歩み寄らすことはできず、味方が士気を阻喪する。/バナスター・タールトン中佐

 Mike Benitez 記者による2016-6-29記事「How Afghanistan Distorted Close Air Support and Why it Matters」。
   昨年、A-10はCAS機として必要であるのでその維持費を都合するためにF-35整備が遅れてもよい……かどうかの論争があり、空軍参謀総長のウェルシュ大将は、「空軍はアフガンで毎年平均2万ソーティのCASを実施している」と数値を出した。
 だがこの数字を真に受けてはいけない。爆弾を投下せずに帰投しても、やはり「CAS任務をしてきた」ということにカウントされているだろうし、そもそもCASでない攻撃を上層部はCASに数えていることが疑われるのだ。CASパイロットなら、皆、知っていることだ。
 地上部隊からの要請をうけて、その要請されたターゲットにすぐに爆弾を落としてやる。これがCASミッションだと思われているが、違う。
 CAS任務は定義されている。固定翼機だけでなく回転翼機による近接対地支援もCASである。ただし敵地上部隊が味方地上部隊から近いところに位置していないならば、それをいくら精密に空爆してもCASではない。そしてもうひとつ。地上の味方部隊の火力発揮や前進(または後退)と、その爆撃が、細部まで緊密に融合連繋していなければならない。
 この定義は1948年まで遡る。そこでは、敵は地上軍だけでなく海軍艦艇の場合もあるとしていた。もちろん味方部隊(または艦艇)からごく近いところに敵が位置していなければならない。その敵を、味方部隊(または艦艇)の火力発揮や運動と緊密一体に連繋するように航空攻撃を加えることが、CASなのである、と。
 今日の論議では「緊密一体の連携」というコンセプトが忘れ去られている。
 アフガン戦争は15年。アメリカ最長の戦争となった。
 アフガンへの大増強が実行された2010年、同地には400箇所の味方軍基地と、10万人の米兵がいた。
 2009年までにJTAC(joint terminal air controller)の人数は、2001年のときより2倍に増えていた。しかしアフガン作戦は、さらにその2倍のJTAC要員を必要としたのだ。
 JTACの人手不足は、アフガンでどんな現象を引き起こしたか。ほんらい、地上の一線部隊に同行してその部隊長のすぐ橫に居るべきJTAC員は、皆、後方の作戦〔航空?〕基地にとどめおかれて、自分自身の目や耳によって敵情を観測することができなくなってしまった。
 衛星リンクでビデオ映像を見ていれば、JTACが最前線に出る必要はないというわけだ。しからば、「緊密な空地一体の連繋」は、それで可能か?
 地上部隊の側も、楽をしたがる。敵ゲリラと間近に対峙する前に、はやめに航空爆撃を要請して、敵ゲリラ(の疑いがある目標)をできるだけ遠くの位置でやっつけてもらおうと考える。「ゲリラに対する予防的な爆撃」が要請されるようになっているのだ。これも、泥沼のアフガン戦争でいつしか定着してしまった米軍の癖である。
 さいげんなしに空爆要請が増えて、空軍のCAS資産は枯渇した。
 記者(F-15Eパイロットの現役少佐である)の2009~2011のアフガンでの体験によれば、CASに飛び立つ固定翼機は、ほとんどアフガンじゅうを飛びまわって3~4箇所にCAS爆撃を加えねばならず、そのため、1箇所の上空にとどまれるのは1~2時間にすぎなかった。
 爆撃要請が多すぎるために、CAS資産が薄く分散されすぎていた。
 2009年から2010年のアフガン大増強期間のCASはひどいものだった。飛行士たちが出撃する前のブリーフィングで、彼らは数箇所の空爆点を割り振られて指定された。ところが、それが実施されることは決してなかった。ブリーフィングのさいちゅうに、任務空爆点の変更が何度もあるのだ。のみならず、待機所から航空機に乗り込もうと歩いている間、座席に座ってこれから離陸しようとしている間、離陸して任務空爆点へ飛行しているさなかにも、任務空爆点の再三の変更が追加で伝達されてきた。そんな有様であった。
 急にCASに呼ばれて現場上空に到着すると、たいてい、眼下には、味方のヘリが飛び交っている。
 そのヘリは、偶然に現場を通り過ぎているだけのこともあれば、我がCAS機と同じ目標を攻撃するヘリである場合もある。ところが周波数が違うので、その味方のヘリとは交信ができない。JATCも、ヘリと固定翼機では別な周波数で統制しているのである。
 空軍と陸軍は、互いに連絡将校を協同部隊に送り込むべきである。
 アフガン北西部のCASは、バグラム基地が担当。南東部のCASは、カンダハール基地と海軍機で分担している。
 米軍は、2002年から2010年のあいだに、無人機の数を40倍にした。主に陸軍が小型無人機を多数使うので。
 いま、陸軍は7000機の無人機を使っている。空軍は300機である。
 次。
 David Cenciotti記者による2016-6-27記事「F-15E Strike Eagles unable to shoot down the F-35s in 8 dogfights during simulated deployment」。
 米国内で、F-35とF-15Eで空戦させてみて、8対0でF-35が勝ったらしいという。
 このF-15Eは、レーダーはAN/APG-82、つまりAESAで、ターゲティングポッドはSniperだったはず。
 しかし「模擬戦」の詳細はまったく不明である。
 次。
 Ed Friedrich記者による2016-6-29記事「At Washington shipyard, subs for recycling stacking up」。
    太平洋岸のワシントン州にあるPSNS(ピュージェットサウンド海軍工廠)。
 ロサンゼルス級SSNの解隊は、米国でも、ここ一箇所でしかできない。
 まず燃料棒を抜き、除籍し、それから解隊となる。
 1971から1996まで62隻のロサンゼルス級SSNが建造された。いまも現役なのは39隻である。完全にスクラップ化が終わったのは9隻だ。
 ロサンゼルス級は、ヴァジニア級での更新が進んでいる。年に1隻のペースで。ヴァジニア級は48隻建造が計画されていて、すでに20隻完成した。
 使用済み燃料は、鉄道によって、アイダホナショナル研究所へ輸送される。そこで特殊コンテナに封入して保管される。
 燃料を抜かれたリアクターの部品は、ハートフォード核貯蔵地へ輸送される。
 この解体工場には、除籍された『Narwhal』という実験的原潜も置かれている。この艦は1969に就役し、数々の秘密ミッションをこなした。当時最も静かな原潜だった。同型艦は無い。
 記念艦にしようという動きがあるので、解体できないでいる。しかし資金は集まらないようだ。
 『NR-1』もここに置かれている。乗員わずか13人の原潜。しかし原潜としては深度記録を持っている。海底に着いたあと、車輪で動きまわることができた。やはり同型艦はつくられていない。
 この艦も1969年に進水し、いらい、さまざまな極秘ミッションを遂行してきた。公式には「就役」したことはなく、したがって海軍の公式艦名もついてはいない。
 2008年に燃料を抜かれ、このPSNSにやってきた。
 ※「けっして引用してはいけない」とAPの支局長が部下に注意喚起したことのある「聯合通信」の与太記事によれば、北鮮艇が12.7ミリ×3バレルのGE製ガトリング銃を装備しはじめたのだと。