イランの核武装が確定したので、これからサウジも核開発を推進します。

 誰がペルシャ湾に機雷を撒くことで得をするのか?
 日本のマスコミでこの説明をちゃんとしているところは一つもないだろう。というか、そもそも日本人は誰も理解してないだろう。
 イランがアラビア半島に攻め込むとき、海(ペルシャ湾)を渡る必要がある。また、海岸に上陸後、そこからリヤド、さらにはメッカとメディナまで占領してしまう間、スンニ派諸国や米国からは介入されたくない。そのため、ホルムズ海峡に機雷を撒いて、インド洋の米艦隊がペルシャ湾内に入れなくするように時間稼ぎをすることには、意味があるのである。
 開戦前からすでにペルシャ湾内に居座っている米艦隊に対しては、ペルシャ湾内各所へのコンスタントな機雷撒きによって、やはりイランはその動きを封じてやることができる。
 イランはスーダンにも工作員を送り込んでいて、サウジの陸軍をできるだけアラビア半島の南部に吸引しようとしている。いうまでもなくスーダンからだと紅海を渡ればすぐにメッカを急襲できるのだ。
 イエメンのシーア派ゲリラも、メッカを近くからおびやかし、かつ、紅海入口に機雷を撒けるという点で、重宝なイランの手先なのである。
 ペルシャ湾側の守備が手薄になれば、イラン軍は、渡洋攻撃を仕掛けやすい。
 次の問題。そうした事態(シーアvs.スンニの全面戦争)は、わが日本国にとって存立(プリザヴェイション)の危機か?
 ぜんぜん、そんなことはない。放っておいても日本の国体は亡びない。石油もどこからか入ってくる。
 外務省内でいまだに「資源外交」とか語っている連中は、1945年に地下壕に引き籠り、そこで70年過ごしていたに違いない。ゲオポリティカルに、1945以前と以後とでは、「海」が同じではないことが理解できないのだから。先の大戦以前の海は、列強がそれぞれ自前の海軍力で航路を維持し、陸兵も出して海外油田を物理的に支配しておかなくてはならなかった。しかし先の大戦以後の海は、米国が単独で世界の海を支配している。石油は世界市場に自由に流れ込む国際商品となった。買い手は採掘者が誰であるかに無関係に、ハードカレンシーをもっていさえすれば、それを市場から自由に買える。米国と敵対もしくは戦争する者はその海を使えないので不自由するだろうが、米国と敵対しない者はその不自由から無条件で解放されているのである。
 つまり、戦後は、海外油田を消費国のカネで開発する必要も、産油国に媚を売る必要も、どちらもまるでゼロなのだ。それがわかっていなかったのが、「戦前頭」の田中角栄であり、山下太郎であり、「アラビア石油」であり、アザデガン油田なのだ。これらはいずれも皆、「愚者・愚行列伝」のネタでしかない。
 Robert A. Manning記者による2015-7-13記事「How the ‘Japan Model’ Could Strengthen the Iran Nuclear Deal」によると、イランがこのたび合意した条件には、たとえば、ウラン濃縮用の遠心分離機の数を19000基から6100基に減らすこと、低濃縮ウランの総量を10トンから300kgに減らすこと、ナタンツ以外の場所ではこんご15年間、濃縮を試みないこと、フォードウにあるとバレた秘密核開発施設は、平和的研究機関へ用途変更すること、等だという。
 だが広いイランのそこかしこで、核開発と核武装の試みは継続されるであろう。
 2017年に大統領になるかもしれないジェブ・ブッシュには、その辺はよくわかっている。
 パキスタンには時に大都市が軒並み停電するという事故が起きる。イランには広域停電など起きない。社会システムの「優秀さ」が段違いなのだ。そんなきわめつき後進国のパキスタンにすらできてしまった核武装が、北鮮よりも早く自力で衛星まで打ち上げているイラン人に、できないと考える方が不自然なのだ。
 国連の経済制裁はまるで無効であった。ロシア、インド、トルコは、堂々とイランを経済的に支えた。それぞれの思惑については、『兵頭二十八の防衛白書2015』に書いておいた。
 ISはシーア派の物理的絶滅を心に決めている。ISの背後には全スンニ勢力がある。だからもうイラン=シーアとスンニ世界の「手打ち」はあり得ない。戦争か準戦争しかないのだ。
 イラクとシリアでは、イランの力添えなくして、シーア派住民が大虐殺から免れる道はない。
 アメリカが、または西欧が、中東での「大虐殺」を傍観できるというのなら、放置すればいい。しかし彼らにはそれはできない。
 となると米国政権の選択幅はごく狭い。シーア派住民虐殺の阻止のために頼れるのは、有能なイラン陸軍だけなので。
 遂に、アメリカは、長年の敵のイランと結託して中東を経営する道を選んだのだ。
 アメリカは、イランの10年以内の核武装を許認する。そして、核武装するイランにコミットしていくことでイランを味方として利用するという政策を選んだ。
 ひょっとして15年後にはイスラエルは消滅しているかもしれない。
 イスラエルとサウジはいまや、「崖っぷち同盟国」である。この2ヵ国にはもう時間がない。イランは今でもヒズボラとハマスに大型ロケット弾数万発を供給し続けている。イランが核武装すれば、狭いイスラエルからはたちまち頭脳が逃げ出す。そう、昔、シリアからスティーヴ・ジョブズの親父が逃げ出したように。そして、今のシリアには才能ある者など一人も残っていないように。イスラエルは、この意味で「シリア化」する。自業自得のブーメランだ。
 サウジはもっと深刻だ。これから数年以内にイランを打倒できないと、先に自国が崩壊する危険がある。サウジ政府には「自国民を有能にする」ことだけはできないのだ。それをやるとサウド家の独裁が維持できなくなるためだ。だから「有能な陸軍司令官」というものもサウジには絶対に育たない。育てばすぐにクーデターだから。
 というわけで、簡単に数十万人も動員できる有能なイラン陸軍が渡洋攻撃してきた暁には、サウジ陸軍には万に一つの勝ち目もない。だから、空軍だけでイランを痛めつけ得る今のうちに、イランを挑発して戦争に持ち込みたいはずだ。ペルシャ湾での戦争は、サウジが起こす。
 ISが打倒されても、似たような組織運動はスンニ圏内で必ず立ち上がる。だからイランは、生き残るためには、じぶんたちでメッカを占領してしまうしかない。
 イスラムの正統はシーアであると、メッカの宰領者になることで、イスラム圏内に誇示するしかないのだ。そして、イランにとってその軍事作戦は、案外に簡単にできそうだ。
 サウジは長期抗争の構想も持っている。自力核武装だ。
 ストラテジーペイジの2016-7-14記事「Procurement: The Price Of Freedom」によれば、7月にフランスにサウジの代表がやってきて $12 billion 以上の取引で合意した。サウジはフランスから原発×2基のほか、ヘリコプター数十機、軍用機数機、沿岸警備艇数隻、そしてエアバスを50機を買う。
 兵頭いわく。このディールのキモは、サウジの核開発決断にある。エアバスはサウジには必要のないものだが、それを大人買いしてやることで、フランスから「核開発支援」を引き出すつもりなのだろう。ちなみに軍用ヘリや警備艇は、イラン軍地上部隊が小型舟艇のスウォームでアラビア半島に一夜機動して上陸するのを阻止するために必要なものである。サウジにとって防衛海岸正面があまり広く、且つ、小舟艇は機雷にかかりにくいので、ランディングクラフトのスウォームに対しては、低空&低速航空機から小型ミサイルを発射することで阻止するしか手はない。ただし夜間なので、複座ぐらいの小型機では相当の難事となってしまうが(単座ではまず無理)。
 石油は、値下がりするだろう。サウジはこれまでにもまして、「生か死か」の意気込みで、原油を増産し続け、イランの国庫が潤わないように仕向けるだろうからだ。


飛行型ドローン規制法案に足りぬもの

 高圧送電線付近での無許可飛行を禁ずること。
 ※アルミフィルムやワイヤーを曳航して短絡させれば原発も簡単に停止させることができるので。
 電車線路付近での無許可飛行を禁止すること。
 ※同じく、架線を短絡させることにより、電車の運行をいとも簡単に長時間妨害することができるので。
 現に人車の交通に利用されているトンネル内での飛行禁止。
 人からの距離だけでなく、家畜や特定の群棲動物からの距離、さらには特定の野生動物の巣からのじゅうぶんな距離を取るべき注意義務も定めること。
 ※害獣や、危険化した動物は除く。
 ドローンの操縦電波のハッキングや電波ジャック等の行為について罰則を設けること。
 ※これをやっとかないと必ず後悔するぜ。
 飛行型ドローンにエアーソフトガン類似の発射機構を付加して私有地外で飛ばすことの禁止。ただし公的機関が用うる場合はその限りでない。また許可を受けて指定された空間で使用するのも自由である。
 ※発火物を取り付けて飛行させることは当然に禁止されるのだろう。
 飛行型ドローンによる「覗き行為」を今から定義しておき、それを軽犯罪法の関連条項とリンクさせること。
 警察機関が必要と認めた場合は、飛行型ドローンを、「GPS等の航法用電波の局地的な攪乱」「局地的な妨害電波の発射」「レーザー等エネルギー指向装置による照射」等によって、操縦者の制御や通信を不可能にし、そのドローンを逸走させ、あるいは停滞させ、あるいは墜落させ、あるいは破壊してもかまわないと定めること。(電波法も手直しをする必要がある。)
 自衛隊の艦艇、陸上施設、および米軍基地に事前の許可なく300m以内に接近する飛行型ドローンは、その場で適宜の手段によって無力化または撃墜して可いことにすること。また自衛隊がこれらのドローンの搭載する撮像装置に対してレーザーもしくは投光機等により300m以遠から警告することも可能にすること。
 ※このために自衛隊は、旧式のポータブルな有線誘導式の対戦車ミサイルを高速グライダーに改造して、高度300mまでのドローンに空中で体当たりをして叩き落す方法を研究すべし。ミサイル弾体はとうぜん無炸填とし、パラシュートとブイによって回収/揚収し、何度でも再利用できるようにすることだ。


中東メモ

 いくつかの英文メディア記事からペルシャ湾情勢を摘録すると……。
 イラクのISはモスル市およびアンバル県において守勢である(2015-7-10時点)。
 ラマディ市放棄の責任をとらされてイラク政府軍の何名かの高級将校がクビにされた。
 クルド部隊は米軍機からのCASを受け続けている。※報道では、米国人特殊部隊のJTAC(かつてFACと呼ばれていたもの)が地上に派遣されているのか、それともクルド人のJTAC班が育成されて、SOCOM支給のハイラックスに乗って任に当たっているのか、そこがわからない。しかしたぶんは後者。
 クルド部隊は北部の本拠地に対するISの攻撃を撃退しているばかりか、モスルに少しづつにじり寄っている。
 ペシュメルガとは決死隊の意味である。
 クルド人は、ソシャルメディアを使って、個人が国家の政策を左右できることを最初に立証した。スマホが、JTACの無線機になったのだ。
 イラク人が軍事的に無能なのは人種のせいではない。イラク人はセム族、つまりユダヤ人と同じだ。またシーア派政府軍が無能なのは宗派のせいではない。最も有能なイラン軍もシーア派だから。
 アンバル県の2大都市はラマディとファルージャ。
 今の焦点はファルージャだが、ISはそこを完全占領できずにいる。
 市域の半分は、2014-1以降、ISが支配しているのだが。
 ファルージャはバグダッドから60km西である。そこより西は沙漠。そこより東は、チグリスとユーフラテスの肥沃地である。その境目に位置するため、3000年前から重要都市であった。
 ファルージャにはシーア派住民も多い。しかしラマディは完全なスンニの町である。だからラマディを奪還しようとしてその町に近付くシーア派部隊は、反ISのスンニ派民兵とうまくいかない。
 精油都市のベイジ(Baiji)はまだイラク政府の手にある。バグダッドの北200kmのチグリス河畔にあり、バグダッドから見てモスルの手前。
 ISは2014年からここを攻撃しているが、いまだに占拠できない。たてつづけに自動車爆弾特攻がくりかえされているのだが。
 ※『マッドマックス2』の世界。
 イランは、シリアやイエメンやレバノンのヒズボラを只で軍事支援しているのだが、イラク政府に対する軍事支援に関しては、代価を貰っている。イラク政府はこっそりとイランに $10 billion 以上を支払っている。これは違法である。
 7月6日、イラク政府軍のスホイ25(これはA-10スキーである)が間違って爆弾を落としてしまい、バグダッド市内の家3軒が吹き飛び、住民20人死亡。機は基地に帰還するところで、着陸態勢に入っていた。
 パイロットは経験の長い男で、過去に問題もない。装備に欠陥があったらしい。
 イラク人操縦士の乗るスホイ25による対IS作戦は2014-12からスタートしている。機体は、2014-6にロシアから5機、届けられた。
 サダム時代にイラク空軍は66機のスホイ25を保有していた。パイロットも整備兵もスンニ派だけで占められていた。
 イラクの現シーア政府は、半年かけて、苦労してシーア派の整備兵とパイロットを見つけ出し、ようやく作戦させられるようにしている。
 イラクは今、総計で10機くらいの Su-25 を運用している。イランはその整備や訓練について支援をしている。イランも2014年に7機のスホイ25をイラク政府のためにめぐんでやっている。これらは湾岸戦争のときにイランに逃亡してきた、もともとイラク軍の装備だったもので、カニバリズム整備によってその一部だけを飛べる状態に戻し、ロシア製の巨大輸送機でイラクまで届けた。
 大きく観ると、中東には、3つの真の強国がある。イスラエル、トルコ、イランだ。
 金満大国が2つある。サウジアラビアとUAEだ。どちらも人口が少ないので、強国にはなれない。
 サウジは、空軍と砲兵隊には最新装備を与え、空軍には王族を配する。しかし国民は「総ナマポ」状態なので誰も陸軍に志願しない。だから歩兵はきわめて弱い。強い歩兵はサウド家に忠誠な特定部族からなる近衛部隊。これはリヤドから離すことはできない。
 人口大国が一つある。パキスタンだ。国庫歳入が少ないので、強国にはなれない。サウジのカネで原爆を作らせてもらったが、カシミールで国境が画定していないシナの言うなりである。また、インドと戦争になったとき、イランに好意的中立をしてもらいたいので、イランを怒らせることができない。だからサウジにカネで誘われても、対イエメンの歩兵部隊派遣要請は断った。
 ヨルダンは、指導層の質が高いが、小国であり、かつ、シリア難民の受け入れの負担がのしかかっている。
 サウジがISをおそれるのは、ISがとなえているカリフ制が、イスラム教圏では人気があり、このままではサウジの宗教正当性がおびやかされるから。メッカまたはメディアを支配した者が聖であり、アラブ世界を支配できる。よってイランもその支配を狙う。
 19世紀、英国は、ペルシャ湾西岸の都市国家を束ねて、トルコやイランへの防波堤とし、かつ、海賊退治の根拠地にしようとした。これがカタールやUEAの起源である。いずれも1都市1国家の交易立国であった。
 UAEがつくられたときは、サウジと国境線画定で揉めた。とうぜん、砂で揉めたのではなく、油田で揉めたのである。
 イエメンもクウェートもオマーンも、サウジをアラブの盟主として支持してはいない。
 大づかみに見ると、UAEが盟主か、サウジが盟主かという争いがある。アラブの小国はUAEを立てている。GCC創立はUAEが音頭を取った。
 世界一、ひとりあたりGDPが巨額なのは、カタールだ。なんと8万ドル以上。
 カタールの王は、40年以内にカタールに知識産業を樹立して、石油ガス枯渇後に備えようと考えている。
 米軍はカタールに2014までにアル・ウデイド空軍基地を造った。地下バンカーには、ペルシャ湾で戦争になったときの司令部も設置できるように、通信設備が充実している。
 米空軍が頼りにしているISR機はF-15Eに偵察ポッドをつけたもので、やはりカタールから飛ばしている。充実したセンサーポッドで事前に脅威と価値を急速収集できる。それから空爆という流れ。 ※シリアにS-300があるのが気になって、オバマ政権側近は対シリア空爆をためらっていたのかもしれない。
 米軍にあって英仏等欧州列強にないもの。航空ISR、特にゲリラの無線発進点と交信内容を把握する装備。それとタンカー。それとJDAM/PAVEWAY。90年代のバルカン介入、2011のリビア介入、最近のシリア介入、仏特殊部隊のマリ作戦、すべて米軍がISR機とタンカーを提供してやって、はじめて可能になっている。2013に欧州のイニシアチブでシリアに介入できなかったのも、米軍が兵站の面倒をみてやらなければどうにもならなかったから。
 バーレーンは、島国だ。
 イランから守ってもらえるので、昔から親西欧だった。
 いまでは第五艦隊の基地もあり。
 バーレーンは、かつてのベイルートから、中東の銀行の地位を奪った。それは1975から1990までレバノンで内戦が続いたからである。
 バーレーンでは、堂々と酒も飲める。だから金持ちのサウジ人も、ここへやってきて、初めてくつろげるのである。
 バーレーンには米兵3000名が詰めている。
 バーレーンのシェイク・イサ飛行場(Shaikh Isa)には米軍機100機を容れる余地がある。英空軍もタンカー機をバーレーン内に置いている。
 2014-9時点でオマーンには、ムスナナー空軍基地(Musnanah)が建設された。他にもオマーンには七箇所くらいも空軍基地があって、英米で使っている。
 2014-9時点英国は、ISに参加した英国民からはパスポートをとりあげるといっている。つまり二度と英国には帰れないし、そこから他国へも旅行はできない。
 これに対して米国の情報収集屋は違う意見。こいつらが帰って来たとき、徹底訊問すれば、すごい情報を集められるだろうと。
 世界のインテリジェンスコミュニティも同意見。帰国したいやつは全員帰国させ、インタビューし、それから処断せよ。闇に潜られるよりはいいから。
 古諺にいわく。君がレモンしか得られなかったのならば、そこからレモネードをつくるべし。
 イスラエルは2007にシリアの核施設を破壊した。そのあと、ロシアがシリアに新しいSAM(S-300系)を提供した。
 イスラエル人いわく。最重要情報は「キーパーソン」の特定。誰が良い爆弾を造るテクニシャン/エンジニーアなのか。そいつを拉致または暗殺すれば、あとは、低性能な爆弾テロしか起きなくなる。その成果が挙がっていることは、たとえばガザ地区で爆発事故が増えることでモニターされる。素人技師が爆弾製造に失敗した兆候なのだ。
 自爆テロはひとりではできない。12人くらいで支援しないと成功しない。現場の偵察。そして、イスラエル軍警の関門をどうすりぬけるか。
 データベースのデータがすぐにリトリーヴできるようになっていなかったら、意味はない。これが情報戦のインフラの要諦。
 『USA TODAY』の2015-7-11記事「Roadside bombs remain insurgents’ top gun」。
 かつてJIEDDOと言っていた対IEDの専門組織は、7-13からJIDAと改名され、ペンタゴン内での地位は霞む。ほぼ、用済みとなった次第だ。しかし組織として存在価値を主張したいので、いろいろ言っている。
 振り返ると、IED被害のピークは2007のイラクで、米兵死傷者の七割にも達した。
 イラクからアフガンに兵力シフトしたのが2009で、その結果こんどはアフガンでのIEDが最盛期に。
 これを制圧した過程は省略する。
 いま、IEDの脅威はないのか? ある。
 ISは塩素ガスも武器として使用している。
 ISはドローンを先行させて自爆自動車のドライバーを正しい目標点へ誘導するようになった。
 アフガンでもIEDは進化している。アスファルト道路にも、踏み板式で、仕掛けられる。炸裂するとMRAPはくちゃくちゃになり、5×3フィートのクレーターが残る。
 以上、もっと詳しい解説は『兵頭二十八の防衛白書 2015』をご覧ください。


オスプレイは失速事故が容易に搭乗者の死につながる。US-2は大波浪に叩かれても乗員は死なないと証明された

 APの2015-8-12記事「China: Uighurs deported from Thailand wanted to join jihad」。
 タイ政府は、中共の要求に屈し、同国内に1年以上いる109人のイスラム教徒を中共に送還した。彼らは自分たちはトルコ人だと主張している。北京は、そやつらがウイグル人だと主張している。
 タイ政府の措置を、国連の難民局は非難している。
 またトルコ人たちも怒って、イスタンブールにあるタイ領事館へ乱入する騒ぎになった。
 次。ストラテジーペイジの2015-7-12記事「Korea: Losing Hope In the North」。
 さいきんの北鮮内には「合法自由いちば」があるのだが、ここが戦後日本の闇市よりも凄いことになっている。
 警察官たちが出店商人にいいがかりをつけて、商品を何でもまきあげようとする。それに対して商店側は若い者が暴力で徹底抗戦する。
 頭を抱えた平壌政府は、「60歳以上の者でなくば合法出店は許さない」としたが、今度はそこへ商品を搬入するだとか女の店員を守るとかの名目で、若い者が眼を光らせるようになり、殺伐とした雰囲気が漲っている。
 韓国内の軍事分析員たちの結論。もはや北鮮には南進の能力など無く、「あと何年体制を存続させ得るか」、それだけが課題となっているという。
 また韓国の分析によれば、北鮮はもう1990年代のうちに、こっそりと、「南侵」を政策としては諦めていた。
 やはり韓国の分析によれば、北鮮は、武器として使える原爆は、1発も製造できていない。
 北鮮軍隊の高級幹部は、軍事的な有能さと無関係に、とにかく三代目に対して忠誠で、しかも若い者によって、ほぼ全員、交替させられた。
 6月の北鮮の降雨はまあまあであった。おかげで最悪の旱魃はまぬがれた模様だが、河川の下流の汽水域の遡上が大問題になっている。つまり今までは河口の川水だけに塩分があったものが、長期間、流量が足りなかったために、沖積平野の河川の中流まで塩混じりの水となってしまったのだ。塩気ある川水は、水田灌漑の役にも立たないし、飲み水にもならない。


違法採掘リグの小爆破は漁網切断と同じである。

 わが国のEEZに準ずる中間線内で不法に資源を盗掘している外国人のリグを「小破」させる方法はいろいろある。
 理想的には、海保が「マザーシップ」型巡視船を保有し、その船尾内の泛水ドックから無人の「爆破作業艇」を発進せしめ、特殊な鋼管破断用火工品(モンロー効果を利用する)をリモコン操作にてリグ部材に吸着せしめ、盗掘の持続を物理的に不可能ならしめるのが善い。これは違法操業の漁船の網を現場で切断するのと同じである。
 もしこのようなあつらえむきのハードウェアがないとしても、人間の頭は無限に工夫ができるから、他の小破方法はいくらでもあるのである。
 敵が公船や軍艦を繰り出してこの違法リグをガードする構えを見せた場合、解決の道は、「戦争」しかない。
 これは「グレーゾーン・アグレッション」の「例示」の筆頭に挙げられなければおかしい、現在進行形のケースなのだが、強く出る者に対してはひたすら無策で「内弁慶」揃いな外務省が「解決方法は戦争しかない」という結論が公的な発言として引き出されるのを、なまはげ祭りの小児かなんぞのように恐れているために、ケースそのものが国民に対して隠されようとしているのである。
 盗っ人が大砲やミサイルを持っていたら、警察官は何もしなくていいのか? 今、問われているのはそこだろう。わが外務省は、この場合、警察官は現場に近づくことすら宜しくない、と、うろたえ回って「指導」するばかりなのだ。
 そうやって制止しておいて、「単独経済制裁の発動」で中共を締め上げるとでもいうのなら、外務省は内外の畏敬を集めることであろう。しかし残念ながらわが外務省には、そんなご立派な性根など一筋も通ってはいないのだ。彼らは日本の国権が中共の武力を背景にした恫喝によってサラミソーセージのように漸進的に蚕食されても、それを座視し続けなさいと説教している。
 国家の安全保障政策に君臨する省として無能&無責任であることに彼らは開き直っている。このような省があることが、むしろ「ペルシャ湾の機雷」や「北朝鮮のミサイル」以上に、わたしたち日本人の生命を常続的に危機に曝してくれているのではなかろうか? わが国の安全のために除去すべきは、まずこの外務省と名乗る有害不遜の官衙ではないのだろうか?
 「国家存立」の安危にかかわる事態は、未来の仮定の話ではなく、いま現に起きている。国会は緊急に自衛隊の出動を政府に求める決議をなせ。


IS、こんどはとても人道的な大量斬首法を発明す。

 Hamza Hendawi, Qassim Abdul-Zahra and Bassem Mroue記者による2015-7-8記事「A secret to Islamic State’s success: Shock troops who fight to the death」。
 どうもこの世界には、死にたくて仕方のない青年があり余っているらしい。彼らは続々とシリアやイラクに吸引され、そこでISによって、有り難く、死に処を賜っているようなのだ。
 この必死隊はISの中でも青いバンダナを巻いているので識別される。「勝利か殉教か」と叫び、退却しないことを揚言し、じっさい、陣地防禦の際には、自爆ベルトを巻いて布陣する。
 最近のISは、砂嵐に乗じた攻撃をしかけてくるし、椰子の樹上にみずからを縛着しての狙撃もやらかす。
 先月、コバニ市のクルド族自衛隊は苦戦した。ISの集中的自爆車両攻撃は、最初から死に処を与えられることだけを欲しているIS志願者があとからあとから供給されていることを示している。過去の別の記事によると、こうした車両特攻自爆は、爆薬の量が多く、炸裂が派手であり、多くの人を巻き込むので、何の戦闘スキルもない自殺志願者としては、歩行自爆を命ぜられるよりも満足度が高いらしい。
 ISの下級指揮官にはかなりの作戦裁量権が与えられている。
 脱走と、歩哨の居眠りは、その場で処刑されている。
 首切りビデオも大衆に飽きられたので、こんどは、複数人の捕虜の頸に一本の導爆線をぐるぐる巻いて、一度にはぜさせるという新趣向を公開した。
 ※導火線と違って導爆線は超音速で燃える。つまり爆発する細紐である。ただし起爆は雷管を使わねばならない。
 イラクからシリアにかけてのIS戦士は、総勢で、4万5千人(プラマイ1万5千人)じゃないかと見積もられている。それっぱかりの敵を、イラクの政府軍は鎮定できないのである。
 ISは、高性能な無線機も使っている。それが傍聴されているとわかると、それを利用してわざと偽情報を流すまでになった。
 次。ストラテジーペイジの2015-7-8記事より。
 オランダの海兵隊が、「7.62㎜×35」実包を採用した。世界のまともな軍隊としては初である。
 この弾薬は、NATO弾である5.56ミリ実包を使用する小銃の、ただ銃身と薬室を交換するだけで、すぐ使用できる。
 弾倉すら、変更の必要はない。なぜなら、実包の全長や薬莢の太さを、5.56ミリNATO弾と同じにしてあるからだ。
 ちなみにAK-47の実包は「7.62×39」であった。「7.62×35」がいかにコンパクトか、わかるであろう。
 1990年代初めに開発された「7.62×35」実包の初速は、なんと、亜音速。したがってショックウェイヴを発生しないので、サイレンサーをとりつけると、射程100mまで有効な、理想的な無音狙撃銃になる。
 無駄な貫通力がないので、警察用としても最適である。
 以下、私見。
 中共の崩壊が目前に迫っている。
 中共軍は、なんとか外国軍から先に発砲させることで戦争をおっ始め、軍事予算が削られてシナ人民の社会保障費に充当される事態を回避しようと欲している。この目的のために、得意のサイバーを使った過激な挑発がこれからエスカレートするはずだ。
 このサイバー・ゲリラ攻撃に、オバマ政権が、先に北鮮に対して実行したような「サイバー膺懲」を加えたときが、ひとつの危機のヤマである。その膺懲に便乗して、シナ政府がムチャクチャな責任転嫁発表をするだろう。そこから先の展開は、過去の拙著を見て欲しい。
 今から日本が至急に準備しなければならないモノ。洋上を日本にむかってやってくるおびただしい大陸&半島人の「流民」を、洋上で掬い取って直接、大陸まで還送してしまえる船舶。これが大量に必要である。あるいは、「ロボット曳船」。漂流ボートに結びつけてやれば、そのまま自走してシナ大陸に向かってくれる。それでも押し寄せてくる流民対策として、「福島県に“長期収容所”を造る」とアナウンスすることも有効かもしれない。


 まず 仇[カタキ]をとれよ。

 さいしょからこうなるとわかっていながら小芝居を続けて行く理由は、いったいどんなヤバイ「密約」のせいなのか?
 2002年9月17日に金二代目が小泉純一郎に「横田めぐみは死亡している」と通告した時点から、日本国政府の課題は、「救出」以上に「いかにして拉致犯罪に報復し、死亡した人も含め被害者とその係累の怨念を晴らし、国家としてキッチリとオトシマエをつけさせるか」であるのに、この課題は無いかのように誘導する政府(自民も民主も)。それにマンマと乗せられている馬鹿保守メディアの数々……。トホホ、です。
 かねがねわたしは日本政府の外交力はヤクザに劣るのではないかと疑ってきた。ヤクザならそのようなとき、「会談」の前に、ひとつ、することがあるでしょ? 
 北鮮は、正真の死骸を提示していない。さりとて、生存目撃情報も皆無なわけである。しかも拉致したこと自体は北鮮が公式に自白しているのである。何やってるの、日本の政府は? 日本の国会は?
 「横田めぐみ法」をつくって、北鮮のまごうかたなき手先機関たる総連と関係した人物の入国(再入国も)を認めない。そうして総連を撲滅してしまう。最低線、そのくらいの、誰の目にも見える「復仇」をやってからでないと、なにより被害者たちが浮かばれないでしょ。外交チャンネルの「会談」とか「交渉」とかは、そのあとの話でしょ?
 反社会勢力をヨイショするわけじゃないが、彼らは報復の「エスカレーション」を開始するときに、その数段階先の手立てまで瞬時に脳内で構想して、肚を括って出ます。この「拡大エスカレーション予測」の訓練が、日本の政治家と外交官には、できてないのよね。それで、さいしょのアクションすらためらってしまい、ケジメをつけずにうやむやに終わってくれることを願う。筋はちっとも通らない。ますます反近代志向の特亜三国は日本を侮る。日本人民は将来も危険に晒される。ホント、頼りにできませんわ。
 儒教圏人を屈服させるためには真実の宣伝によって相手の面子を真正面から潰していくことです。容赦なく第一手から最終手まで、近代自由主義世界の正論によって面子を潰し続ける。これが大原則。むろん、敵は対抗する。それにもどんどんエスカレートで応酬する。総合的な立場は最初からこっちが圧倒的なので、敵は手遅れにならぬうちに屈服します。北鮮が屈服しないのは、日本外務省にはヤクザが自得している程度の知恵すらも欠けているからです。


ISはイスラエルには興味は無い。

 イランはヒズボラやハマスをイスラエル周辺から抽出してシリアに送り込み、ISと戦闘させている。イランはアラブ人(セム族)を、宗派の違いなく支配操縦することに長けている。その逆は無い。だからアラブ人はイランを恐れる。ヒズボラとハマスは、どこかの政府軍などと違い、かなり真面目にISと戦闘していて、数千人が死んでいる。
 これはISには脅威だ。だからヒズボラでもハマスでもない「反イスラエル・ゲリラ」に口先秋波を送って、ヒズボラとハマスのこれ以上の増派を止めさせたいのだ。ISはイスラエルには関心は無い。イラン人とその手先の全シーア派の絶滅だけが、ISの関心事である。だからISは対欧米テロも仕掛けない。ISの主たる利害はイスラエルと一致するので、じつはISはイスラエルとは擬似同盟者なのである。
 「コスト・パー・キル」問題。
 中共の保有する軍艦および準軍艦の隻数は、「自衛隊の保有する対艦ミサイルの総数」よりも多い。このような事態をいまのいままで放置しておいて、これから対艦ミサイルを使って戦争しようなどと考えているのだとしたら、海自はキチガイである(旧陸軍ですら、ソ連と戦争するときの弾薬所要量はいちおう計算して、かろうじて足りる分をストックしていたものだ)。
 唯一の解答は機雷である。機雷は敵海軍の動き全体を止めてしまう。港湾への出入り、補給の授受、沿岸での移動も止めてしまう。そして、中共という悪の政体そのものも亡ぼせるのである。
 中共ぐらい機雷に弱い経済システムはない。海は東側にしかない。しかも、すべて浅瀬である。はるか沖まで延々と水深26m以内の浅瀬が続くということは、機雷は複雑な繋維式でなく、最も安価な沈底式で足りるということ。そして中共の掃海技術では、沈底機雷は発見することすら不可能なのだ。(フィリピンや日本は全周が海なのでそもそも機雷ではブロケードされ得ない。また主要港はすぐに26m以上ある深い海につながっているので機雷の種類も繋維式を使うしかない。それは日本の技術では発見も掃海も確実にできる。)
 フィリピン本土の陸上からてきとうに投射すれば、南シナ海を自走してシナの大陸棚に向かい、深さ26m以内の浅瀬に、ランダムに数発の沈底機雷を敷設できるロボット。
 これは日本の技術を使えば簡単にできる。それを「武器のODA」としてフィリピンに大量供与する。さすれば、フィリピンが全ASEANに代わって中共にトドメを刺してくれる。
 参考になるのは、「ウェイヴグライダー・Wave Glider」や「シーグライダー・SeaGlider」や「シーエクスプローラー・SeaExplorer」だ。
 形態は、魚雷に翼をつけたようなもの。
 原理は、暖かい海洋表面水と、冷たい深海水の「温度差」を利用する。熱で膨張しやすい物質をピストンに導入。そのピストンで空気室を圧縮すれば全体の比重が重くなり、沈む。
 沈むとき、翼があるので、真下へは沈まず、斜め下方へ前進する。
 水中で感熱物質は放熱して収縮する。ピストンは後退し、空気室の容積は広がり、比重が軽くなるので、マシンは浮上を開始する。
 浮くときも、翼があるので、真上へは行かず、斜め上方へ前進する。
 ひたすらこれを繰返す永久機関だ。浮上した時にはGPS機能付き無線電話で自己位置を確認する等ができる。進路はINSで維持する。
 スクリューが要らないので電源も電池も最小で済む。
 シーグライダーは700m、シーエクスプローラーは1000mも潜るようになっているけれども、南シナ海や東シナ海で使う場合は50mも潜らせる必要はないであろう。したがって1機は10万ドルしないで造れる。こんな安い武器援助があるか? それで中共の脅威が消えてくれるんだぞ。
 シーエクスプローラー等は、潜水艦の魚雷発射管から運用することを考えているのでサイズが窮屈である。しかし日本がこれから造って援助するシステムは、もっと自由に寸法を取って可い。


次の海兵隊の制服親玉は、ネラー。

 『こんなに弱い中国人民解放軍』が小生の単著としてはかつてない刷り部数になっておりまして、つくづく、日本の大衆は「シナ軍は強い。おそろしい」という嘘話にはもう厭き飽きしているのだなぁと感じています。ところでこうした啓蒙図書が売れるということはとてもいいことなのですが、日頃貧乏な著者の場合、出版社に対する立場は却って弱くなっちまいまして、いくつかの「要修正事項」を、気安く「直してくれ」とも言えなくなるのであります。そこでこのさいこの場を借りて修正しておこうと思います。
 13頁1行目。連隊とあるのは大隊です。これは原稿には大隊と書いておいたのに、活字になったのを見たら連隊に変わっているわけです。校正さんが「上富良野にあるのは連隊ですよ」と余計な入れ知恵をしたのを担当編集者さんが真に受けたんでしょうね。で、わたしに相談なく変えてしまった。これでもう著者としては察するわけです。ああこの編集者さんには直しの要求を出すとかはまるで無駄であると。ならばもうすべておまかせしてとにかく売ってもらえばいいじゃないと。
 これは『孫子』にいう「勢」であります。すっかりいいようにおまかせをすることによって「勢」をつくってもらえば、結果オーライになるだろうとわたしも判断しました。編集者さんも複数の企画を同時に進行させているので、超ご多忙でしょうからね。
 まあわたしの履歴とかはどうでもいいんですが、だんだんどうでもよくなくなってくるのが103ページ1行目。「迎撃用のICBM」って何ですか? これは「反撃用のICBM」と書いたのを、やはり勝手に直されちゃって、わけがわからなくなっているわけです。部数三千部くらいで終わるならこんなものしょうがないか、すきにしてくれ、で忘れるつもりでしたけれども、1万部を超えて部数が伸びるにつれ、さすがにここはひとこと指摘をしておかないわけにもいかなくなりました。
 この本はわたしとしては『大統領戦記』の合間にかなり急いで書き上げた、あまり練ってもいない本でして、他のメチャクチャ力を入れたタイトルとくらべまして、内容を誇ろうという気には著者としてはちっともならないのですが、それがいちばん売れてしまっているというのは、じつに考えさせられるものがあります。『極東日本の~』とか『北京が太平洋の~』とか『日本人が知らない~』の方がずっと力を入れたものでしたのに……。手抜きをした方が売文商売としては成功するのか? 悩んでおります。
 以下、おもしろニュースのご紹介。
 星条旗新聞のTravis J. Tritten記者による2015-7-1記事「Blog: F-16 beat F-35 Lightning II in air combat test」。
 「戦争は退屈だ」というブログ(medium.com/war-is-boring)によると、F-35はF-16に空戦テストで勝てなかった。これは1月に加州エドワーズ空軍基地で実施されたテストに参加したF-35乗りの直接の証言である。
 しかしこれには開発担当部局からの反論あり。いわく。このときのF-35には最新センサーがとりつけられておらず、またステルスコーティングもしてなかったのである。また、ヘルメット内のセンサーがパイロットの視線を検知して、視野内の特定の敵機に、彼我の位置関係や自機の姿勢と無関係にAAMを指向せしめ得るソフトウェアも搭載していなかった――と。
 ※この論争には興味が無いが、思いつきしことあり。これからは空戦中に、敵機の光学センサーを眩惑してやれる、自動追尾性の防禦レーザーが開発され、装備されるであろう。垂直尾翼の端、主翼の端から、それは四周の随意方向に対して1点指向的に照射される。ドッグファイトの対手たるF-35式のパイロットのヘルメット・バイザー内には、もはやレーザーの点滅しか画像が映らなくなるのだ。これなら視線によるロックオンどころではないはず。同じ「光指向兵器」は、原発や飛行場を防空するための「フラックタワー」にも装備されるべきだろう。有事にはGPS類はECMにより全部狂わされるので、敵の発射する長射程巡航ミサイルは、最終ガイダンスを光学センサーに頼るしかない。その光学センサーを、フラックタワーからの自動追尾レーザー+マルチスペクトラムの指向性ECMで眩惑させれば、強力な煙幕と同じで、INS頼みの長射程ミサイルは、大きく外れるしかないだろう。指向性エネルギー兵器は、何も対象物を燃やしたり破壊するだけが能ではない。センサーを眩惑させるだけでも、価値があるのだ。
 次。ストラテジーページの2015-7-1記事「The Hidden Flaw Of The Su-30」。
 スホイ27系を使っている大きな軍隊は、ロシア、シナ、インドだが、そのうちインドだけがスホイ30のトラブルにみまわれ続けてい理由は何か。
 たしかにインドの気候は蒸し暑く、また、国営企業の品質管理の悪さはある。だがそれだけではない。
 じつは、インド空軍は、「実戦のように訓練せよ」という西側軍のモットーに忠実なのだ。そのため、そのモットーを有しないロシア空軍や中共空軍よりも、平時に多数の墜落機が出てしまっているのである。
 裏を返すとと、ロシアとシナのパイロットは、実戦的な訓練をほとんどしていない。空中での移動距離も、スピードも、機動の激しさも、実戦とはほど遠いレベルで済ませているのだ。それではいけないということは理解しているのだが、改革せずに今日まで来ている。
 平時の訓練をいいかげんなものにして自己満足するのは東洋の特徴的な流儀なのか? 違う。日本軍は対米戦の前から西側基準で鍛えていたので、開戦1年目は米英軍機をパイロットのスキルで凌いでいた。
 西側戦闘機の稼働率は70%だがインドのスホイ30MKIは55%である。
 喪失機はほとんどがエンジンが原因である。ロシア人は、それはエンジンに使われているボールベアリングのせいだと主張している。
 インド空軍は、訓練がまじめなので事故率が高いのである。
 ※これは何を意味するか。いざ実戦になったとき、インドの平時の事故率よりも中共軍機の事故率はもっと高くなり、中共軍機の稼働率はこっちが何もしなくとも急速に0割に近付くということなのだ。それともうひとつ。実戦的な発射訓練をロクにやらせていない中共の長射程巡航ミサイルは、有事には、不発射、途中墜落、逸走、不発が続出するであろう。
 さらに余談。
 国会の「違憲」vs.「合憲」論争に興味のある人は、拙著の『「日本国憲法」廃棄論』の文庫版の巻末附録を読むと、いちばん わかり易いよ。
 違憲なのは、九条二項の後半部分の方なのである。憲法条文が違憲なのである。こういう直感が働かない老人や青年は、さいしょから憲法学には向いてないのである。江藤淳は「法律と格闘する人はカンがよくないとだめだ」と言っていた。
 内閣法制局は、吉田茂から密命を受けていた。「爾後アメリカの命令で、李承晩や蒋介石ごときのために日本兵を半島や大陸へ出すことが二度とありえなくなるように、憲法解釈で今から縛っておけ」と。だから古手の法制局の役人が「派兵=違憲」論の立場に立つのは、「裏吉田ドクトリン」の当然なのである。
 古い法制局 vs. 外務省北米局・条約局 のバトルが展開しているのが、今の国会である。
 安倍内閣がこれをブレークスルーしようと思ったら、「政体として民主的な正当性を有する韓国政府から、日本政府に公式文書をもってする公開的な事前の嘆願がなされた後、さらに国会でそれを審議し懸念の無いことを確認できた後でない限り、わが自衛隊部隊を朝鮮半島内陸部において韓国軍と協同作戦させることは絶対に控えなければならない」と閣議決定することだ。これで「裏吉田ドクトリン」の遺命は保たれるから、古い法制局も黙るであろう。


「読書余論」 2015年7月25日配信号 の 内容予告

▼防研史料 『砲兵学 講本 第二版 巻ノ二』
▼防研史料 歩兵学校ed.『三一式山砲取扱上ノ参考』
 この大砲は反動で後退しっぱなしではなく、バネの力で車輪が逆転して元の位置に自動復帰するロボット設計であったこと。
▼防研史料 『試製90式野砲概説』陸軍技術本部 S5-9
▼防研史料 『野戦砲兵射撃教範 改正草案理由書』教育総監部 M39-11-20
▼西浦進・談『昭和陸軍秘録――軍務局軍事課長の幻の証言』2014-8
 1967~68に木戸日記研究会が服部卓四郎大佐の同期の西浦進に聴き取りし、近代史資料研究会から1968末に刊行した『西浦進氏談話速記録』上下巻・非売品を、改題したもの。いくつかの「聞き間違え」的な字がそのままである。1970-11の西浦氏の死後、この資料が2014までわかりやすいタイトルで市販されなかったことは遺憾だ。この資料を先に読んでおいたならば誤解しなくて済んだはずのことどもが、すこぶる多い。これから旧軍のエリート軍人について研究したい若い人は、まっさきにこの1冊に目を通す価値がある。
 西浦にいわせると、池田純久などは10月事件の黒幕でもなんでもない、雑魚である。あくまで巨頭は鈴木貞一なのだ。
 企画院は、機密保持ができないところ。出向者ばかりで、それぞれ親元があるから。
 西浦いわく。青年将校はきれいではなかった。隊務をろくにやってない。普段から仲間としても尊敬されていなかったのが集まって、そこで志士気取り。そんなのが過半数だった。
 陸大へ行く人間は、隊務においても優秀。
 米人のグリッフィース准将は、戦後、西浦のところにまでインタビューに来た。『米国極東政策史』を書いている。ベトナムについても上院で証言している。ロンドン大学で孫子の研究をして本を書いたのと同一人物。
 ※前の新書版を若干改訂の上、あたらしくPHP文庫に入った兵頭編『新訳 孫子』は、本日書店搬入です!
 中共の暗号はロシア仕込みで、解けなかった。
 フランコは、反政府軍であるゆえ、みずから「革命軍」と名乗っていた。戦力の中軸は、外人部隊とモール人〔ムーア人〕。このモール兵の下士官は指に10個の指輪をはめている。もちろん略奪品。キリストの像以外は、なんでも持っていく。
 盧溝橋事件が「事変」に昇格したのは、杉山陸相が、政友会の白髪農相・島田俊雄から焚きつけられて、その熱弁に共感してしまったのである。
 田中新一は、当時、軍事課の入口のところで地図を前にして立ち、「点と線だけを持っておればいいのだ」と言っていた。しかし戦後になり、「日本軍は点と線しか持っておらんから支那事変は解決しなかったのだ」と言うようになった。
 対ソ戦に動員する予定の半数でしかない15個師団の動員でいきなり小銃が不足してしまった理由。シナ戦線では前線が錯綜し、後方兵站部隊や傷病兵までが小銃で自衛しないと危なかったため。対ソ戦では、砲兵など小銃は持たぬつもりでいた。その流儀が対支戦では通用しない。
 日独防共協定は、岩畔高級課員がひとりで進めて実現した。
 ナチスは情報統制ができる体制だった。ドイツ・スクールの日本の武官たちは、国防軍から情報をとらず、ナチス党からの情報だけに依存しており、そのため、現実離れした報告だけが東京へ送られた。欧州の他国駐在武官からの報告も、ベルリンの大使館でとりまとめてスクリーニングして握りつぶされていたので、その時点で終わっていた。※西浦と服部はフランス語スクール。田中新一はロシア語スクール。
 戦前は、本省費と軍事費が別である。軍事課だと、2~3人以外は、本省費が足りない。それでしかたがないから、技術本部付兼軍務局課員とか、兵器本廠付兼軍務局課員ということにして、軍事費から俸給を出すようにしていた。本人は、じっさいは技術本部になんか挨拶にも行かないし、覗くことすらなし(p.249)。
 三国同盟は、スターマーと松岡と大島(前大使で無職時代)が膳をつくり、陸軍大臣と陸軍省は、その据え膳を食わされた。武藤局長も食わされた。
 加藤軍神。あれは、隊長も部下も最優秀な奴を揃えて、かろうじて、脚の短い一式戦で、上陸直前までの掩護ができたという話。南部仏印の、そのまた沖のフコク島に飛行場をつくらねばエアカバーは届かなかった。
 飛行場は、夏から昼夜兼行で数ヶ月かけて建設した。飛行場設定隊長たちは、飛行場の中で露営をしてやりとげた。
 この一式戦は量産させようとしてもなかなか増えなかった。
 プロ軍人は、青年将校時代から、ものごとを計画的にやれと鞭撻され、先制主導が習い性になる。戦略でも戦術でも。だから、「そのうちどうかなる」という態度は問題外だったのだ。石油を取るために南方へ行かないとか、南部仏印に入らないという選択は、米国の経済制裁を受けている中では、もう省部幕僚の誰も考え得なかった。※しかしハイオク・ガソリン以外の油脂は輸入できていたはずで、インタビュアーがなぜそこを突っ込まないのか、もどかしい。
 西浦はなぜ関特演には反対したか。対ソ戦をやれば、対ソ戦のための油がガッツリ消耗するから。
 当時、陸軍は、半年分の油しか確保していなかった。
 ソ連と戦争して半年でカタがつくか? 絶対無理である。だからヒトラーに呼応してまずシベリアを叩くなどという選択はなかったのだ(p.335)。
 田中隆吉は空襲恐怖症で神経衰弱になったのである。S17の中頃。彼が防空の主担任局長だった。木村次官もこいつは神経衰弱だ感づいたが、「よし辞めろ」とはなかなかいえなかったところ、何かのときに向こうから「私は辞めさせてもらいます」と来たものだから、すぐに事務処理をして辞めさせて、入院させた(p.370)。
 広島の一報が来たとき、軍事課の部下で、いまは山一證券の支店長をやっている若い参謀が「あ、これは原爆だ」とすぐ言った。そのくらいには、わかっていた。終戦の頃には、常識化していた(p.382)。
 陸軍省は、参本に向かって「この作戦をやめろ」とはいえない。統帥権がないので。そこで「船はやれない」の一点張りで、ガ島作戦を中止にもちこもうと図った。
 戦陣訓にいちばん熱心だったのは阿南。阿南と岩畔でつくって、東條にラジオで放送させた。
▼土肥一夫、他ed.『海軍 第八巻 航空母艦 巡洋艦 水上機母艦』S59-9
 ※今回は空母と水上機母艦の章を摘録。巡洋艦は来月に。
 米空母は、格納庫の側面をできるだけすっとおしにした。これは爆弾の爆圧を逃がしてやり、飛行甲板が膨らまぬようにするためだった。と同時に、火災時に、格納庫内の燃えそうな物はどんどん舷側へ投棄できる。設計の最初から、そこまで考えてたのである。
 水上機母艦はなぜ廃れたか。波浪が高いときに、多数の水上機を短時間に揚収する方法がない。これでは艦隊決戦向きではない。
 水上機母艦の『神威』には、ドイツで考案された「ハイン・マット」=ハイン幕が一時期とりつけられていた。水上機を8ノットで航行中にデリックとスプールで揚収する。
▼経済雑誌社pub.『国史大系第十六巻 今昔物語』M34
 ※巻第16から。
 わらしべ長者は原話だと別に富豪にはなっていない。中流の上くらいで、そこそこ楽に暮らしたというだけ。
 ◆  ◆  ◆
 「読書余論」は、主に軍事系の古本を、兵頭が注目した一斑の摘記や読書メモによって紹介し、他では読めないコメントも附しているものです。(配信されるファイルはPDFスタイルです。)
 あまりに多すぎる過去の情報量の中から「兵頭はここは珍しいと思いました」というポイントだけ要約しました。
 大きな図書館に毎日通えない人も、最低費用で、過去の軍事知識のマニアックな勘所に触れることが可能です。
 また、ミリタリーしか読んで来なかった人には、他分野の情報が、何ほどか有益かもしれません。
 「読書余論」は、毎月25日に「武道通信」から最新号が配信されます。1号分の購読料は500円です。
 バックナンバーも1号分が500円で、1号分のみでも講読ができます。
 過去のコンテンツは、配信元の「武道通信」のウェブサイト
http://www.budotusin.net/yoron.html
 で、タイトルが確認できます。
 PDF形式ではない、電子書籍ソフト対応の「一括集成版」もできました。詳細は「武道通信」で。
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