韓国軍艦『Kim Ki-jong』号は何時進水するのか?

 今年はきょくたんに雪が少ないとよろこんでいたら、約定をたがえず、また3月10日のドカ雪が1日遅れで来た。
 ところでみなさんは「すがもり」という言葉を耳にしたことはおありだろうか。
 「すが」は青森県で「氷」を意味する方言らしい。そして北海道の建築業界で「すが漏り」といえば、軒庇下や屋根裏が、融雪水の浸透→氷結→融雪→……の反復によって長期的に木質部や不燃ボードの破壊が進行してしまうことを言う。(屋根の張り出した部分の下面に張る板は火災の延焼防止を考えて木材の使用が禁じられている。昔は石膏板だったが今はシリカ系とかの新素材。いずれにしても強度はほとんど無い。)
 滋賀県の「しが」がもともとの語源だろうと私は勝手に思っている。
 比良山地は京都にあれほど近いのにあれほど積雪が多い。だから氷の国といった意味で「しが」と称されたのではないか。
 長野五輪の会場のひとつでもあった「志賀高原」。語源は同じだろう。
 ただし「しが」が氷を意味するという人々の認識は、近畿でも信濃でも、とっくになくなった。それほど古いということだ。
 それが東北地方北部では発音が「スガ」に転じた。しかしそこでは、もともとの意味がちゃんと残っているのだ。
 以上は余談だが、しからば「スガ漏り」という建築業界用語は全国区で通ずるか? たぶん東北地方の南部以南では聞かれないのではあるまいか。私は長野市育ちだが、函館に転居するまで聞いた覚えがない。
 ここに、北海道の住宅の難しさがある。内地の気候しか知らぬ者がデザインしても、すがもり対策や落雪対策がよく考えられておらず、屋根の辺縁部や落雪・落氷を受け止める箇所の傷みが早くて、オーナーにはメンテナンス費用(修理費用)がコンスタントにかかり続けることとなり、はなはだしくは隣の家や通行人にも毎年のように危険を及ぼしてしまう。
 さりとて北海道は市場としては弱いから、そこを基盤に、メンテナンスコストの低い、完成度の高い耐寒住宅の設計技法が急速に進歩して行くだろうとは、あまり期待はし得ないのだ。
 老後にまでもかかってしまう住宅メンテコストをいかに軽減できるか、真剣に考えたこともない人間が、最近流行の、サイコロ形の、ほとんどデコラティヴな装飾がない戸建住宅を見れば、「つまらない」という感想を抱くかもしれない。しかしあのキューブ形状は、許容可能な新築予算の木造構造として、屋根の辺縁部を最小にし、落下物の破壊範囲を最小にするという点で、現時点での最善に近い解答なのだろう。
 ……と、築・数十年の借家に住みながら思ったのであった。
 この前、大家さん経由で風呂場の屋根の庇下の、剥落しかかっていた不燃板(もちろん原因はスガ漏りと「つらら」の引っ張り力)を交換してもらったときに、工事の親方に話を聞いた。この板を、たとえば「有孔セラミック板」にしたらどうなるか。たしかにメンテフリーにはなろうが、初期コストが数百万円は増えるということがわかった(1平方センチで数千円というフザけたオーダー)。
 これも、北国の住宅市場の規模が小さいせいで、セラミックメーカーが、建築に使える燃えない丈夫な薄板を、開発してくれてないんだろうね。残念です。
 しかし間違いなく広域火災予防には貢献するんだから、政府も補助金くらいつけたれよ。毎年台風の強風で剥がれる西日本の屋根だって同じですよ。チタン合金の屋根材を普及させたれよ。補助金で。そうすりゃ北朝鮮のミサイルなんて怖くなくなりますよ。
 すが漏りの予防のひとつの方法としては、屋根裏のいちばん高いところの横の壁に通風孔をもっと開けて、庇下の有孔不燃ボードから入った空気が、屋根裏のスペース内を、もっとよく通り抜けるようにしておくのがよい、という話であった。それだと冬季の「断熱」性はじゃっかん悪くなるのかもしれないが、屋根裏が破壊されてしまうリスクよりは、マシなのだろう。


「雑草は5cm残せ」――イスラエルの対ゲリラ国策をひとことで言えば。

 中東人は雑草で困ったりしないからこんな格言は無い。これは ひきちガーデンサービス著『雑草と楽しむ庭づくり』(2011刊)の142頁に書いてあったことから兵頭がヒントを得たのである。刈り高5センチにしておくと、地表は日蔭になるので新たな雑草の発芽はなくなる。また、地際で刈られた草株は全力で再生しようとするけれども、地上に5センチだけ残っていれば、そのパワーは出てこないという。
 よって、除草剤を用いないで庭の雑草を最小に抑制して行くには、常に長さ5cmで刈り続けるのがよい。抜くのは徒労であり、地力にも悪影響がある。
 ISILはイスラエルが育てた。それはシリア国家を弱めるために都合がよかったからだ。またスンニ派と敵対するシーア派ヒズボラがロケット弾を発射するための秘密拠点についての情報なども、見返りに受け取ることができた。
 アサド政権は原爆を造ろうとしていた。それを不可能にする最善の手が、ISILその他の反政府ゲリラを後援して、シリア政体をガタガタにしてやることだった。
 シリアに秩序が戻れば、スンニ派であれシーア派であれ、また原爆を造ろうとするだろう。だから、ISIL戡定後も、イスラエルはどこかのゲリラを後援するつもりだろう。ぜったいにシリアにもイラクにも安定した政権はつくらせない。イスラム過激派集団は、イスラエルにとっては小さな害のある雑草だ。ヒズボラやハマスがそうであるように、常に長さ5センチ程度に抑制しておいてやれる相手なのである。
 ゲリラは、しょせん正規の安定した政府ではないので、さすがに核兵器までは造ることはない。核兵器は、連続性のある国家が安定した開発環境を用意しないならば、決して作られない。
 イランやアラブの核兵器は、イスラエルにとって国家の死を意味する(おそらく国民は逃散する)。だからアラブ国家が核兵器製造をしようとするのを邪魔する、それら国内でのゲリラ跳梁や内戦の永続という小害は、イスラエルにとっては圧倒的な大益となるのである。
 イスラエルは、サダム・フセインが原爆開発をするだろうと予想して、アメリカをそそのかしてイラク国体を2003年にぶっ潰させた。アメリカは、有害雑草を根こそぎしたつもりだったが、その地際からISILが再生した。
 もしサダム政体が5センチだけ生かされ続けていたなら、どうだっただろう。それは1992年から2002年までの事態に近いかもしれない。しかし米国人は、米英軍機にときおり地対空ミサイルを発射してくるイラク軍は、我慢ができなかった。5センチどころか15センチくらいはびこっているじゃないかと見えた。イスラエルにとっても、1992年から2002年までのイラクに「内戦」の混乱がないのが不満であった。それは「5センチ」に抑制された事態とは違うのだ。サダム政権は安定して地下で原爆を製造しているのではないかという疑心暗鬼がつのった。
 このとき、イラク内に反政府ゲリラを育てて暴れさせるというプランは、模索はし難かった。なぜならそれはシーア・セクトを応援することに他ならず、アメリカがその天敵イランと共闘することを意味したからだ。
 しかし今、イラクでは何が起こっているかといえば、アメリカとイランの事実上の共闘なのである。
 余談。
 明治初めの斗南藩は、どうして下北半島を東西にブチ抜く小運河を掘らなかったのだろう? 今の六ヶ所の近くなら、もともと低湿地が東西に伸びており、それは簡単だったはずだ。
 あの農業にまったく向いてなかった風土では、とりあえず沖に出なくてもいい「内陸運河漁業」で楽に確実に糊口をしのぎ、かつ、通航料収入で政府を維持するというマスター・プランが、現実性と将来性を兼備していたはずだ。
 とにかく公務員(幕末世襲武士)には、智恵がなかった。亡びるべくして自滅した。
 この運河案は、今日でも有効だ。
 日本海の港から津軽海峡を抜けて関東の港に向かうとき(あるいはその逆コースのとき)、青森港は引っ込みすぎていて、気軽に立ち寄ることなどできない。
 しかし「下北半島横断運河」があれば、立ち寄るのがむしろ普通になり、かつまた、海象が穏やかで安全である。
 また環境面でも何の問題もない。むしろ陸奥湾内の水質が浄化されよう。
 日支戦争は空爆では決着がつかない。それは立ち技である。
 決着は機雷戦で着く。それは寝業である。高専柔道である。
 中共は機雷で亡びる。機雷がチョークスリーパーホールドになる。
 その結果、戦後の津軽海峡の通航量は激増する。恒久的にだ。いつも地球儀を見ている人間ならば、推測ができるだろう。
 米小艦隊も津軽海峡に常駐するだろう。
 日本海から太平洋へ抜ける艦船は、かならず下北運河を通らねばならぬというようにしてもいい。大間原発を韓国駆逐艦の奇襲攻撃から守るために。


ウィッテル氏の新刊『無人暗殺機ドローンの誕生』を一読して

 原題は“PREDATOR:THE SECRET ORIGINS OF THE DRONE REVOLUTION”で、2014年刊。著者の Richard Whittle 氏には、『ドリーム・マシン――悪名高きV-22オスプレイの知られざる歴史』という話題作があったのだが、そっちは邦訳されていない。
 今回の最新作は、文藝春社が2015-2-25に訳刊した。体力のある同社でなければ出し得ない分量だと思う。
 原著者はこの本の取材に5年をかけたという。つまり2009から始めたわけだ。2009といえば、あのP.シンガー氏が『WIRED FOR WAR』を出した年だ。わたしはシンガー氏の出したての原書など当時最新のソースから取材して、『もはやSFではない無人機とロボット兵器』(2009)や『「自衛隊」無人化計画』(その42ページ前後を見てください)や『「グリーン・ミリテク」が日本を生き返らせる!』(その185頁前後を見てください)をまとめたものだ(レディオプレーンとマリリンモンローの関係は当時のネットで検索して承知できたが、重要ではないと考えてわたしは三部作の中には書かなかった)。
 しかしこのたびのウィットル氏のおかげで、シンガー氏も英文ウィキペディアも判っていなかったプレデターの草創期について、すっかり旧知見を改めることができた。
 おそらく、日本でこれから無人機の開発や調達やオペレートや関連法制にかかわる人には、本書は必読である。初期の失敗や、初期の法制上・運用手順上の論争が細かくフォローされているからだ。それらはいずれも、二周回以上も遅れてアメリカを追いかけることになるであろう日本人関係者にとっては、千金に値する智恵である。
 おそらくシナ人は、本書を読まぬうちに「プレデターもどき」と「ヘルファイアもどき」をつくって組み合わせ、ナイジェリア政府などに売ったのだろうから、それらはロクに機能などせぬことは、もう最初から保証付きだとも想像できた。やはりというか、そんなイージーな技術じゃないのだ。だから、プレデターもどきが近々尖閣に飛来しても、あまり焦ることもあるまい。しかし来年になったらば、もうわからない。日本人の想像力や危機意識はシナ人より乏しく、いっぺん痛い目をみてから、はじめてディシジョン・プロセスが動き始めるのだから。指導層に智恵と勇気が足りないとき、時間は日本の味方じゃないのである。
 以下、「ほー」と感心したところ など。
 イスラエルのIAIも、軍人の失業救済機関の趣きがあるんだということこと。真の発明家は、そこでは浮いてしまう。※米国の多士済々はさいぜんから承知するところだったが、イスラエルにも発明家がいたというところがニュース。
 逆V字尾翼でプッシャー・プロペラを保護しようというレイアウトは、大もとのイスラエル人の設計家の当初からの考えだった。※そのため大迎え角で着陸することはできず、機首に重いセンサーが積まれたときには、首脚が三点着地の衝撃で折れる事故が試作中に起こった。この尾翼はけっきょくリーパーで変更された。
 GPSはKAL機撃墜事件を契機に民間向けに開放されたこと。
 80年代に米陸軍が開発しようとしていた「アクィラ」無人機のどうしようもなさ。※たしかカッパーヘッドと組み合せるという案だった。われわれは、アバディーンの印象から、システマチックに新兵器を開発することが米国人は常に得意なのだろうと思ってしまうが、そんなことはないのだ。機能不全を自己修正できないダメ組織はどんな国の中にも発生し得るのだ。たとえば80年代に徹底的な比較テストの末に採用されたはずの米陸軍制式拳銃のベレッタM9も、今では悪評ばかり。海兵隊の特殊部隊もとうとう公式にグロックに変更する気だ。M9は、スライド操作のときにうっかりとセフティがかかってしまったり、埃が入りやすい切り欠きスライド形状(いまごろ気付くのかよそこに、って話)に加えて、サイレンサーが取り付けられないのが特殊部隊として困るという。陸自はDAO(double-action only)の .45オートをサイレンサー標準装備で採用して特殊部隊に持たすべきだと思う。
 RPVがUAVに変わったのは、無人機の自律性が向上したから。※ぎゃくに提案するが、RPVという70年代の呼び名はむしろものごとをずっと正確に表現していたね。われわれはむしろこの呼び名「リモート・パイロッテド・ヴィークル」を復活させてはどうか?
 イスラエルの「パイオニア」の前に「マスティフ」と「アンバー」というのがあったこと。
 ボスニアへ送り込んだ最初のCIAの無人機は「ナット750」というものだったこと。ジェネラルアトミクス製だがプレデターの前駆。
 ジェネラルアトミクスがどのようにして無人機メーカーになったか。それは行き詰まったベンチャーを投資好きの男が買収した結果だったこと。
 米本土からアフガン上空のプレデターを操縦する場合、無線だけに頼ると衛星を二度中継しなければならない。それではディレイが長くなりすぎて危険であるので、まず大西洋横断の光ファイバーでドイツの基地までつなぎ、そこから衛星経由でアフガン上空を飛ばした。
 プレデターを空軍の所管にしようという動きは1996-4。このときラングレー基地の会議室でスライドを映写したら、戦闘機や爆撃機やU-2の少佐パイロット2名らが一斉に軽蔑の念を露わにした。馬鹿にしたような笑い声を出し、ヤジを飛ばし、鼻を鳴らし、敵意に満ちた質問をし、ボスニアでプレデターを運用していた陸軍の大佐の説明を嘘よばわりした(p.135)。※この本でいちばん感心した箇所です。そうだったのか……。U-2の関係者が無人機に敵意をもっているという話は前々から漏れていたのだが、現場はリアルにこんな感じだったとは……。
 ライトパターソン基地の「ビッグサファリ」のドアに銘盤あり。「不可能だと言う者は、実行する者の邪魔をしてはならない」。この第645航空システム群が、空軍内でのプレデター推進集団になった。他のモットー。〈既製品を活用せよ〉〈改造せよ。開発するべからず〉。
 プレデターにヘルファイアをとりつけさせたのは、CIAではなくて、空軍のジョン・P・ジャンパー大将だったこと。
 2000年頃には、軽量小型のレーザー誘導爆弾がなかったので、陸軍のヘルファイアが選択されたということ。
 プレデターを自爆特攻機にすると、それはINF条約にひっかかってしまうこと。地上発進型の巡航ミサイルだと看做される。
 291頁に「船艦」という誤記がある。これは「戦艦」のつもりだろうが、それでも大間違いである。『コール』は駆逐艦だ。『もはやSFではない無人機とロボット兵器』92ページにもちゃんと書いてあるだろう。
 2001にブッシュ大統領が、CIAに、プレデターでビンラディンを爆殺する許可を与えていた。9-11時点ですでにヘルファイア発射の実験中であった。CIAはモスク誤爆を特に恐れていた。※イスラミックテロリストたちは今後、「どこでもモスク」という隠れ蓑を開発して米軍の航空攻撃を逃れようとするだろう。それに対する方途は、シナ製の安っぺー巨大仏像に自爆装置を仕込んで空から投下してやることだ。巨大偶像を彼らは放置できない。破壊せんとすれば、轟爆する。地蔵BOMBが地獄へ案内する。
 プレデターからヘルファイアを発射すると、必ず、目標付近に飼われている犬が命中の数秒前にそれに気付き、一目散に逃げ出す(p.341)。※支那事変中、漢口爆撃にSB-2が高度5000mでやってきて投弾し奇襲になったが、犬だけが着弾より前に吠えたという。擦過音の急接近に気付くのだろう。
 2002-11-3のイエメンでの成功例が、5年前の段階では、初期例としてよく知られていた。しかし実際にはその前に2001-10-7にすでにヘルファイア発射がアフガン上空のプレデターからなされていたこと。その詳細。
 「無人機技術はすでに人間の死に方を変えた」(p.385)。※マルチコプターの宅配便に爆弾が仕込まれていたら、たいへんです。あと、良導体のワイヤーもしくはファイバーを、吊るすか放出できるUAVのスウォームで、高圧送電線を狙われたら、もう防禦なんてしようがない。ギャロッピング現象の短絡で広域同時停電して長野新幹線も止まったのと同じになっちまう。ワイヤーをひっぱる小型ロケットも考えられる。爆発弾頭がついていないから、ヘタレの極左もこしらえやすい。
 プレデターの革新要素は長時間の滞空性であったこと。※だからスピードを追求した「アヴェンジャー」はリーパーの後継になってねえ。
 本書はセンサーその他にはあまり頁を割かない方針のようで、だからゴルゴンステアがなぜ必要かとかスルーしてしまっているが、その方が賢明だ。機体と通信システムに集中したので、名著になっている。
 余談。自衛隊の文官統制が正式に廃止になった。事情を想像すると、こうだろう。ヴィトーの権利は、外務官僚(米国務省の伝声管)と、自衛隊制服に握られている。中間の防衛省背広は、外務からの注文を安請け合いしては制服に拒否られ、制服からの注文を外務に諮っては拒否られという、さんざんな情けない目に遭ってきたのだろう。だから参事官制度の廃止に部内からは誰も反対しなかったのだろう。


「読書余論」 2015年3月25日配信号 の 内容予告

▼『海軍 第14巻 海軍軍制 教育 技術 会計経理 人事』S56
  大部でしかも濃すぎるので 数回に分けて摘録するであろう。
▼防研史料 横須賀海軍航空隊『射弾プロペラ衝撃ノ原因 竝ニ 防止法』S13-7
 同調装置があってもプロペラにタマが当たる事故は防げない。その理由。
▼防研史料 空技廠『研究実験成績報告 射撃兵器第20回実験』S17-5-20 
 試製100個入弾倉(甲、乙)で99式20ミリ1号MGを射つ。
▼防研史料 空技廠『射撃兵器第17回実験』S18-2-2
 九九艦爆などが装備する、92式7.7ミリ旋回機銃改2のテスト。
▼防研史料 『四エチル鉛の発動機各部に及ぼす影響等実験』S10-3-28
 あっと驚かされる。
▼防研史料 空技廠『射撃兵器第12回実験』S14-9-15脱稿
 恵式20ミリの5タイプを比較した。対エンジン貫通力まで調べてある。
▼防研史料 陸軍歩兵学校『機関銃戦例集』大6-7
▼防研史料 軍艦筑摩『機銃射撃指揮法参考書』S18-9
▼防研史料 多賀城海軍工廠『九九式二十粍一號固定機銃二型改一操法草案』
▼防研史料 横須賀海軍航空隊『空中射撃術(旋回銃)参考書』S17-4
▼防研史料 横須賀空『零式艦上戦闘機射撃兵器故障防止ノ要訣 二十粍一号二号機銃 100/60発入弾倉使用ノモノ』S18-8
▼防研史料 『航空機攻撃兵器操式』S6-4-27
 雷撃機を雷装で発艦させるときの地上員の手順。
▼防研史料 横空『高等科航空兵器術練習生用兵器学教科書(射撃兵器)』S10-10
 海軍の7.7ミリ弾は英国式を踏襲して前半分がアルミだった?
▼防研史料 『日本海軍陸上攻撃機の試作生産の経過』
 「泰山」というあまり知られていない大型陸攻の計画があった。
▼防研史料 中島飛行機(株)太田製作所『九七式一号艦攻取扱説明書(草案)』S13-4
 雷装時には燃料満タンでは発艦ができなかったことなどが分かる。
 着艦拘束のときにかかる最大Gよりも、引き起こしで生じ得るGの方が大きかった。
▼防研史料 航本『九七式二号艦上攻撃機取扱説明書』S15-4
 固定脚のレアな九七艦攻である。
▼防研史料 『昭和八年 官房雑綴 四』
 「満州国国歌」のスコアと歌詞がシナ語で確認できる。
▼樋口正徳『アメリカの戦闘力――今次大戦の性格』S16-3
 英国のロスチャイルド家は、ワーテルローで英軍がナポレオンに負けたとロンドンの相場人たちに錯覚させて、みずから株を安値で買い集め、大捷の報で市場が反騰したときに売り逃げて、たった2日間に巨億を成した。
 コンソリのX PB2-Y-1飛行艇は、米海軍が「空の戦艦」だと言っている。
▼本郷弘作『近代兵學』S13-6
 強烈にマル経が臭う一冊。
▼井上昌巳『一式陸攻雷撃記』1998、原S62
▼『水交社記事 vol.8』M24-2
▼『水交社記事 vol.9』M24-3
▼『水交社記事 号外』M24-3
▼大おまけ 『刑事コロンボ』全69エピソードの所見
 ※わたしは新シリーズを未見でした。それでこのさいと思い、米国の中古のノーカット版DVDセット『Columbo – The Complete Series (2011 Repackage) 』を人に頼んで入手してもらい、吹き替え音声も日本語字幕も付いていませんので英文字幕だけを頼りに、旧シリーズからあらためて順番に視聴しました(「別れのワイン」などが含まれた「シーズン3」だけは、なぜか英文字幕も出てくれませんので焦りましたが、何とか理解できました)。やはりこのトシで視るといろいろな発見をします。犯人のクルマはかならずメルセデス、もしくはメーカーIDを抹消したアメ車だ、とかね。そして徹頭徹尾、イタリア系米国人(東部エスタブリッシュメントから見ればヤクザと紙一重のエスニックグループ)の一般印象を良くしてやるのだというピーター・フォークの鉄の意志が貫かれていたのだなあということ。黒人の重要脇役は、ただの一回も起用されなかったこと。また作中設定ではコロンボは朝鮮戦争にAVN=陸軍航空隊付きのKP(厨房班員)として出征していたこと。硝煙反応の取扱や、紙にも付くはずの指紋について、この長期シリーズのどのへんから旧来のリアルでないところが正されて行くか……。正直、わたしはトータルではいささかうんざりしました。それで、ネットから切り離されたクローズドな媒体の中で批判を書き留めておくことに致します。
 ◆  ◆  ◆
 「読書余論」は、主に軍事系の古本を、兵頭が注目した一斑の摘記や読書メモによって紹介し、他では読めないコメントも附しているものです。(配信されるファイルはPDFスタイルです。)
 あまりに多すぎる過去の情報量の中から「兵頭はここは珍しいと思いました」というポイントだけ要約しました。
 大きな図書館に毎日通えない人も、最低費用で、過去の軍事知識のマニアックな勘所に触れることが可能です。
 また、ミリタリーしか読んで来なかった人には、他分野の情報が、何ほどか有益かもしれません。
 「読書余論」は、毎月25日に「武道通信」から最新号が配信されます。1号分の購読料は500円です。
 バックナンバーも1号分が500円で、1号分のみでも講読ができます。
 過去のコンテンツは、配信元の「武道通信」のウェブサイト
http://www.budotusin.net/yoron.html
 で、タイトルが確認できます。
 PDF形式ではない、電子書籍ソフト対応の「一括集成版」もできました。詳細は「武道通信」で。
 ウェブサイトでわからない詳細なお問い合わせは、(有)杉山穎男事務所
sugiyama@budotusin.net
 へどうぞ。


エボラ対処の米軍が西アフリカから引き揚げた後へ自衛隊派遣? ディシジョンプロセスがノロマすぎるんじゃね?

 エボラ出血熱は潜伏期間が21日とかそのくらい。マリでは2015-1-18時点で発症報告が42日間連続で無かったため、マリ政府がエボラ流行は終わったと公式に宣言している。そのあたりへエイドに派遣されていた米陸軍部隊も、当地を引き揚げている。
 オバマ大統領が2-6に連邦議会に提出した国家戦略報告(毎年せにゃならんと1986の法律で決まっているのに、オバマ政権ではこれが二度目。前回は2010だった)で初めて「西アフリカではエボラが大問題だ」と明記した。いまや地域衛生問題は米国の「national security strategy」に関わっているんだ、と米国政府が認識した次第だ。それで米国務省の伝声管たる日本外務省が、また「赤紙」(米国からの命令をしたためた部外秘ペーパー)をクーリエしてきましたと考えると、このタイミングも理解し得る。
 もちろん政府のカネで自衛隊が海外経験を積むことは好いことで御座る。ソマリア海賊はもう鎮圧され、次なる海賊海域はギニア湾ですからね。いよいよ大西洋だぜ。
 おまけ。
 WP紙のDan Lamothe記者による2015-2-18 記事「Fact-checking ‘American Sniper’ as the Oscars near」。
 いくつかアカデミー賞を獲りそうな『アメリカン・スナイパー』。ここに描かれたカイルと、実人生のカイルとの違いを、WPが指摘する。
 かつて五輪で優勝を競ったムスタファという敵のスナイパーが映画には戦場の好敵手として出てくるが、これはカイルの回想録中でたった1パラグラフ言及されているそれっぽい話を脚本家(ジェイソン・ホール)が膨らませておもしろおかしく設定しなおしたもので、ほぼ事実無根である。
 現役中のカイルがシールズ隊員として新記録の2100ヤード狙撃をイラクで成功させたのは事実。しかしカイルの回想録によれば、そのターゲットはRPG射手だった。敵のスナイパーとの決闘ではない。
 同僚シール隊員のライアン・ジョブは、たしかに2006年に前線で顔面に敵弾を喰らっている。しかし死亡したのは2009年で、死因はその戦傷とはあまり関係なさそうだ。
 映画では無名の復員兵(カイル殺人犯)がカイルを自動車に乗せて射場に向かう。事実では、カイルがその海兵隊復員兵ルースを自動車に乗せて射場に連れて行った。ルースがカイルを射場で射ち殺したことにつき、いま進行中の裁判で、ルース側は争ってはいない。ルースは精神病だったというのが弁護士の主張ポイントである。
 ところでこのクリス・カイル銃殺事件裁判は陪審法廷で進められているが、その陪審員になる者は、事前にカイルの著書を読んでいたり、それにもとづいた映画『アメリカン・スナイパー』を観ていたりしてもいけない。そのような者は自動的に、陪審員にはなれぬ――と裁判官が命じているそうである(Molly Hennessy-Fiske記者による2015-2-5記事「Judge: Seeing ‘American Sniper’ may not disqualify potential jurors」)。
 傍聴人は、セルフォンも、バッグも持ち込み不可。金属探知機と、犬の鼻検査を通り抜けなくてはならない。
 裁判所を爆破するという脅迫まであった。
 『アメリカン・スナイパー』は、クリントイーストウッドが映画化し、主人公はブラドリー・クーパーが演じている。いまだに映画館でかかっており、テキサス州では特に人気がある。
 地区判事は陪審員の候補者たちに面接審問する。そのさい、すでに被告が有罪か無罪か決めていると答えた者は、ハネられる。
 一般報道では、カイルはヒーロー扱いされている。
 被告弁護人の戦術は予測容易だ。イラクとハイチで正気でなくなり、さらに復員後のVA(退役軍人庁)の仕打ちが輪をかけたというのだ。そんな言い訳、聴く耳は持たんと、たいがいの庶民は、皆思っている。
 なお陪審候補者とされた人の中からは、病気、仕事、子供の世話、そして字が読めぬことを理由に、辞退する者が、続出。
 被告の量刑は最大で、保釈不能な終身刑となる可能性がある。郡検事は死刑は求めない方針。
 さらに補足しよう。Liz Sly記者による2015-2-3 記事「’American Sniper’ film is a misfire in Baghdad」。この映画をアメリカはバグダッド市内の映画館でも公開させたところ、それを観たイラク市民が大ブーイングだったという。
 既に終わっているイラクとアメリカの戦いをトータルすると、アメリカ人は4千人死んだ。イラク人は10万人死んだ。
 海賊ダウンロードがイラクでは可能なのだが、ある青年は言う。
 ――すべてのイラク人がテロリストのように描かれ、主人公がイラク人は野獣だと言及する、そんな映画、誰がカネを払って観たいと思うかよ。
 いたるところ、デタラメである。たとえばサドルシティではシーア派ゲリラが米軍と戦ったのだ。しかるにこの映画ではその敵がアルカイダだと描かれている。アルカイダはスンニだよ馬鹿者が。
 ※米国の脚本は話を庶民にわかりやすくするために、それは正確でないと認識していながら、わざと、庶民の知っている用語に変えてしまうことはよくあるのだと感ずる。たとえば刑事コロンボシリーズの中で、あきらかに英国のウェブリー&スコット拳銃が出てきたとき、それが米人視聴者には分からないという配慮からか「ブリティッシュ・ウェザビー」と言い換えていた。ピーターフォークのとりまきにはガンマニアも多かったので、こういうのは無知ゆえの誤記ではない。意図的にそう言わせていたのだ。クリントイーストウッドも分かっていて敢えてやってるのだろう。
 また、子供を含むイラク住民が、主人公を連れ出そうとするシーン。ありえない。米軍のスナイパーの近くは危険すぎるということを皆よく知っていた。イラク人ならみんなそいつの廻りからは充分に距離をとって逃げ隠れたはずだ。
 特に、イラクの子供がRPGを取り上げるシーンでは、バグダッドの映画館の観衆は激昂し呪いの言葉を叫んだ。「嘘をつくな!」と。


LCSが日本に寄港するってよ!

 あぁ、誰か見学に招待してくれんかな?
 浅海面用高速フリゲート艦の『フォートワース(USS Fort Worth)』が来月から半島沖でフォールイーグル演習に参加する。その前後には日本に寄港するそうだ(Rosalind Mathieson記者の2015-2-17記事「Littoral combat ship to debut at South Korea military drills」)。
 ちなみに米海軍はLCSを「フリゲート」と括ることを正式に決めた模様だ(ストラテジーペイジの2015-2-11記事)。
 『フォートワース』はその演習後はシンガポールもしくは南シナ海近辺の軍港に半年とどまるはずである。
 この軍艦のコンセプトは現在ではすでに色褪せている。LCSは失敗作だと確定している。水上軍艦はけっして「自動化・ロボット化」できないのだと実証をした実験であり実例なのだ。
 しかし、それを最初に発想してともかくも試してみたところが、アメリカさんの若々しい好ましさじゃないか? また、浅吃水の追求じたいは、テーマとして永遠であり正しい。地元の「函館どっく」のウリも、同じ重さの貨物を、低開発国のずっと浅い港へ届けられるという船型の省エネ貨物船だ。「浅吃水+低速」とすれば、違う価値が出るんだ。
 それにひきかえて日本の武器メーカーのザマはなんだ。後発後進工業国のメリットは、先頭ランナーの失敗を見て、それと同じ失敗を無償で避けられるところにこそあるはずだろう。ところが日本の兵器産業は、いやしくもアメリカで失敗しつつある最新流行にとびついて同じ失敗を追試・再現するチャンスがあれば、それを決して逃がさないと来た。税金をドブに捨てることについて、おそれ気がない。
 そして、檣のステルス化のような、もっと早く導入してもバチは当たらない優れた着眼は、いちばん遅くにしぶしぶと追随……。もうね、阿呆かと。タラズかと。
 もうひとつのわが国のどうしようもない部門、無人機。
 米政府は、プレデター級の攻撃型無人機の輸出規制を緩める方針だ(MATTHEW LEE and LOLITA C. BALDOR記者による2015-2-17 記事「US to allow export of armed military drones」)。
 飛行レンジ186マイル以上、そしてペイロード1100ポンド以上の無人機に厳しい輸出規制が課せられることは違いはないのだが、買い手が政府である場合には、違法使用しないという誓約をさせて、米国がそのコンプライアンスを売却後も監視しつづけることとして、商売そのものは緩和する。
 この不思議な記事は何故か中共には一言も触れていないのだが、兵頭の見るところ、これは中共がアフリカ諸国に「プレデターもどき+ヘルファイアもどき」を売り始めたことと関係しているんじゃないか? ボコハラムが中共版プレデターを1機撃墜したという未確認情報がある。
 ボヤボヤしていると世界市場をぜんぶ攫われちまうので、米国内のUAVメーカーが政府にロビーイングした結果だろう。
 補足情報を挿入する。なぜラッカ上空に無人偵察機を出せなかったか。どうもISILは、無人機に敏感になっており、頭上にそれを見かけたらばすぐに人質の河岸を変えてしまうという智恵をつけているらしい。だから米軍は、特殊作戦検討用の空撮写真は、空爆や陸戦の騒ぎにまぎれてそのついでに夜間に撮影するしかなかった。それで9月のシリア空襲開始前には、低空からの空撮写真は得られなかった。それと、写真と同時に、携帯電話の電波発信点と交話内容を解析して同じマップに重ねることが、事前に必要らしい。そのエリント&シギントは大型のUAVか低速有人機頼みなので、こんどは往復の途中でシリア政府軍のSAM(ロシア製)によって落とされるおそれがあったんではないか。
 さて中共のドローンは中共内でもすごいことになっている。不動産屋が土地調査のために全長2mのUAVを飛ばすことなど、ごく普通になってしまっているのだ。北京政府は、あわてて、北京市内のUAV飛行禁止ゾーンを設定しはじめた(ストラテジーペイジ2015-1-6記事)。
 また、玩具の業界人なら知っているだろうけど、いま、世界の4軸無人ヘリの市場を席捲しているのはシナのメーカーがつくった空撮オモチャだ。スマホにアプリを入れれば、スマホで簡単に操縦できて、そのスマホで空撮ビデオをモニターし録画もできる。これが先日、ホワイトハウス上空の飛行禁止区域に侵入して、大騒ぎになったものだ。
 空撮用無人ヘリは、ハリウッド映画や米国のTVロケの「絵柄」「視点」、コンティニュイティーまでをもガラリと変えつつある。数十年前の「ステディカム」やクロマキーの普及に続く、映像革命じゃないのかな?
 この分野で日本のオモチャメーカーやNHK技研が何の活躍もしていないように見えるのは情けない。じつは昨年のクリスマスに子供用に犬のロボットを買ったんだが、ホント、くだらねえ出来だ。子供も半日で飽きたみたいだぜ。
 唯一、昔から健闘しているのが、農薬散布用の1軸ローターの無人ヘリだ。この普及率は今でも日本が世界一みたいだ。個人の所有する耕地の区画が「不整」で飛び飛びに点在して、しかも山間にあったりするというのが、ぎゃくに、この無人ヘリの普及を促したんだろう。平地のダダ広い国なら、有人固定翼機(それも超STOLの特殊改造機)が出動するので、オモチャモドキは要らんわけだ。
 余談だが、ISILとボコハラムは、「戦闘ヘリ」はいまや何の役にも立たないという証明をしてくれている。にもかかわらずパキスタン軍は戦闘ヘリの新型が欲しくてたまらない。米国がAH-1W~Zを売らないので、ロシアから買うことになるそうだ。


モスル市戦線の膠着があと数ヶ月も続く見通し。その理由。

 ソースとして「ストラテジーペイジ」の2015-2-12記事「Iraq: Another Defeat For Islamic Terrorism」等を参照する。
 モスル市はクルド部隊が三方から包囲している。
 しかしクルド部隊は、敢えて、市内に突入する気はない。ひとつには、市街戦になればヤケクソな防禦の側に有利だからである。
 モスル郊外には大油井がある。クルド人は、それはそもそも自分たちのものだと思っている。しかしアラブ人とトルコ人とイラン人は、そうは思ってない。
 WWIのあと、連合国がトルコの郡県であったモスルをひきはがした。そしてシーアの町のバスラなどとくっつけ、イラクという新国家をてきとうに創出した。
 アラブ人は、このたびクルド人がISILを撃退した褒美として、キルクーク(そこにも油井がある)をクルドにくれてやることについては賛成している。もともとキルクークはクルドが多数をしめた、小さい町だから。
 しかしモスルはでかいので、イラクのアラブ人たちはそれをクルドにくれてやる気はないのだ。
 クルドは2014-6からキルクークを占領している。それはISILがモスルを占領した後だった。そしてISILによるキルクーク攻撃はぜんぶ撃退し続けている。
 キルクークはいまのクルドの首都エルビルから83km離れている。バグダッドからは300kmある。
 サダム政権は十年以上にわたり、クルド人をキルクークから追い出してはスンニ住民を移植させ続けた。だがサダム後も、住民投票にかければクルドが勝つに決まっている。ゆえにバクダッド政権はそれをしないだろう。
 追放されたクルドは英米がイラクを占領した2003以降にキルクークに戻り、こんどはスンニを追い出した。
 イラク北部の住民で非クルドの者たちも、腐敗したアラブ人の行政よりはクルドの方がましだと思っている。
 シーアの新イラク政権は、ISIL対策で手一杯で、クルドに軍事支援どころではない。だから欧米はダイレクトにクルドに対して武器弾薬やCASを提供することに踏み切った。
 また欧米は、クルドが独自に原油を掘って売ることも許認しているわけである。
 欧米は、シーア派イラク政権の腐敗と無力に怒っており、法的にはそれは違法だが、それを後押ししているのだ。
 2014-6からは、欧米軍によるド腐れイラク政府軍の再訓練もはじまった。モスル奪回のためである。
 モスルの町に突入するのは、どうしてもイラクの政府軍でなくてはならないのだ。クルドが占領しても、また戦後の揉め事になるだけだ。
 そのために欧米軍はしょうもないイラク軍をもういちど、一から訓練する。それには数ヶ月かかるから、モスルの奪回もそのくらい先の話になる。しかしモスルさえ奪回されれば、ISILの退潮はどこから見ても歴然としよう。宣伝戦上の彼らの敗北が決定する。
 クルドの包囲と空からの監視によって、ISILはモスルの原油を転売しようもなくなっている。被包囲陣中では食糧がどんどん減る。だから現状でも、米軍としては構わない。
 クルドが南下すると、スンニ住民に対する報復は必至である。スンニ住民はISILに協力しなければ殺されると脅されてクルド住民の虐殺に加担した。しかしその住民にやられたクルドにとってはそんな言い訳は情状酌量の説得力を持たない。
 というわけで米軍もクルドを制止している。クルドは米軍のCAS頼みだから、米軍の指図には従う。
 クルドがモスルを圧迫しているのに対してISILは、キルクークなどのクルド支配域をしきりに攻撃している。それは路上チェックポイントに対する自動車自爆特攻しかないのだが、クルド兵が遠間から射撃してたいてい失敗。過早炸裂で住民が巻き添えになり、ISILがますます住民から浮くだけだ。
 スンニの地域ボスながら、ISILに愛想がつきたという者も、ISILの自爆テロの的とされている。
 各地のアラブ人は、現時点では、「アルカイダもISもじつは西側の創作物で、イスラムを非難させるためのプロットだ」と信じたがっている。連中はいつもこの調子である。とにかく現実は見ないという民族が、アジアにもいるだろう。日本の近くにも。
 腐敗と、現実を無視したがる癖。悪いのはすべて外部文化や外国の陰謀だと言う癖。そこからは、永久無限に似たようなテロ運動が繰返し生まれるしかないのだ。
 いま、米軍の空爆は、シリアのコバニに集中されている。そこではクルドが善戦している。これが、イラク国民には不愉快である。
 クルドはプロ軍人ではないのに、イラク正規軍よりもはるかに有能である。だから米軍は期待をかけている。特に、地上から航空機に要請をして、精密誘導爆弾を適正な目標へ投下させる連絡が、ミスがなくて、上手い。
 イラク将校は、この能力が劣る。イラク将校の指示通りに米機が誘導爆弾を投下すると、それは味方軍部隊の上に落ちたり、一般住宅地に落ちたりするのだ。これでは米軍の評判が悪くなる。だから再訓練を仕上げるまで、米機はイラク軍地上部隊にはCASを提供しないことにした。
 クルド兵は将校のいうことをよく聞くし、戦闘が激しくなったらすぐ逃げ出すイラク人とは大違いで、粘りも見せる。
 2014にモスルがISの手におちたのも、イラク軍の将校が腐り果てているからであった。クルドにはその欠点はない。
 イラク政府軍は、将校が腐っているから、米軍のCASを受けられないのだ。だがイラク兵はその現実を認めようとせず、しきりに米国に対する文句ばかり言う。アラブ人は常にこの調子である。
 モスルには1500年以上前のキリスト教文化遺産があるけれども、すべてISILの手で破却されつつある。
 イラク北部のYazidi人。かれらは、うしなわれたゾロアスター教徒の末裔である。イランに発したゾロアスターは、いまでは、インドと、このヤジディにしか残っていない。〔いや京都の「うずまさ」は「アフラマヅダ」だろ?〕
 イスラエル人からみると、拝火教は悪魔崇拝教と変わらないのだが、政治が優先し、コバートで昔からイスラエルはこのヤジディと共闘してきた。共通の敵は、地球上で最も不寛容な暴力主義宗教である。
 クルド人の宗教は、スンニ派イスラム教が多い。
 UAVの大手柄。サダム時代に毒ガス製造していた男が、いまISに加わっているのだが、モスル近くで無人機のヘルファイアで仕留められた。米軍はISが毒ガスに手をださないかどうか気にしていた。
 次。
 ALI AKBAR DAREINI記者による2015-2-13 記事「Despite drug executions and police raids, Iranians are still breaking bad」。
 イラン国内で覚醒剤中毒蔓延中で、死刑すらも売買の抑止になってねえ。
 もともとイランは、地域最大の麻薬産出地アフガンの隣国で、その密輸ゲートを提供してきた。
 覚醒剤濫用は主に2つの理由から起こる。どうしても大学に合格したい高校生たち。そして、生活のために夜間に1~2の副業を兼務しなければならない労働者たち。
 イランの人口は8000万人である。そして各種のヤク中は220万人いる。うち130万人は解脱の治療を受けようとしている。
 麻薬密売は死刑である。じっさい、執行される死刑10件のうち9件は、それである。
 だが、密造所をひとつ摘発しても、他に2箇所増えるという按配。製造してもバレないような地域で、小規模に合成している。※ケミカル工程で強烈な悪臭が出るといわれる。
 2014-3までの1年間で警察は416箇所の密造所を潰した。これはその前の1年より350箇所も多い。激増傾向が分かる。※ということは石油価格の暴落はかんけいなく、その前からのトレンドだ。
 もともとイランでは ヘロイン中毒が主流であった。理由は、阿片の世界生産量の四分の三が、隣のアフガニスタンだからである。
 ある専門家の予想。いま、覚醒剤に入門した中毒者は、やがてヘロインにも手を出す。
 アフガンの芥子畑は南部に集中している。作付け面積は2014で22万4千ヘクタール。2013年より2014年の方が13%も拡がった。そこから6400トンのアヘンが生産される。※ボコハラムやISILと違って国内に奪取できる油田もないタリバンは、麻薬輸出に賭けるか、イランの油田を窺うしかないわけだ。
 イランには、覚醒剤は中毒にはならぬという迷信が抜き難くある。
 ある男の例。労務時間を増やして収入を稼ごうと、列車に深夜から朝まで乗務するシフトを選び、そのために覚醒剤を6年間使い続けた。しかしあるとき、深夜乗務中に気絶してしまった。それで仕事もクビになった、と。
 次。
 ストラテジーペイジ2015-2-13記事「Algeria: The Great Islamic Terrorist Roundup Continues」。
 アルジェリアは、原油と天然ガスの生産量を、4.4%ふやした。ところが、原油価格が暴落したので、収入は8%減となってしまった。
 政府は、これから10年かけて、原油ガス生産量を5割、増強したい。
 2015の1~2月、アルジェリアにイスラムテロは無い。
 アルジェリア出身のテロリストはたくさんいる。かれらは国内では仕事はヤバイと察し、国外に出稼ぎに行っている。
 アルジェリアで麻薬といえばハシシ。そして違法商品の筆頭は、欧州にもぐりこみたい不法移民。
 ※英仏は殖民地帝国時代の代価を今、払っている。かつてイスラムから搾取した。これからは、商売を続けたい。だからいま、旧植民地から流入するイスラム人を拒絶できない。これはいわば「戦後賠償」の代わりだ。日本は朝鮮半島を国防に利用したが代価はリアルタイムで払っていた。そして、これからは同地とは商売をしたくない。だから人の交流を断ち切ることが可能である。
 国境警備隊は、ATVを獲得したいので、その限りにおいて、密入国者を摘発している。ハナグスリは有効である。
 アルジェリア政府は、海岸から1000kmも奥にある南部沙漠で、200箇所のフラッキング(シェールガス採掘)を試みる。住民は、その汚廃水を押し付けられるだけで得することがなにもないと予期して、反発している。アルジェリアの南部に住んでいるのは、アラビア人ではなく、ベルベル族。この2民族のあいだには、いさかいがある。アルジェリアの警察官はアラブなので、ベルベルはテロで対抗する。アルジェリアの人口の3割=600万人がベルベル。
 次。
 ストラテジーペイジ2015-2-13 記事「Armor: Leopard 2 Forever And Ever」。
 アフガンにおけるカナダ軍とデンマーク軍の体験から、ドイツのメーカーはレオ2A6に最新改造したいと提案中。すなわち「2A7+」。
 主たるポイント。側面と後面をRPGからもっとよく守る。全周を多数のカメラで見張りつづけられること。無人リモコン銃塔。停車時にも電力をふんだんに供給できる補助エンジン。そして強化型エアコン。
 これによって自重は68トンに増加する。
 120ミリ砲には、胸壁の裏側や頭上で正確に爆発する特殊榴弾を発射させる。
 ※日本のメーカーは各種の「高性能弾薬」を開発して海外市場に売り込むとよいのだ。それは日本人に向いた分野だ。なによりも、売ったあとのメンテナンスが必要ない。がさつで怠惰なユーザーたちへの面倒なフォローが要らない。これが日本人の性格には合っているだろう。弾薬は、使用直前までコンテナーに封入されている「消耗品」だから、理想的である。なおイスラエルのメーカーは、120ミリ戦車砲でヘリコプターを撃墜するための特殊弾薬を発売する模様。
 次。
 ストラテジーペイジの2015-2-13 記事「Intelligence: Tech Is Not Always The Answer」。
 センサーへの投資か? ステルスへの投資か?
 後者にこだわっているのは、いまや米空軍だけである。
 ※日本は戦闘機を外国に輸出する日は永久に来ないだろう。日本の航空メーカーの実力がどれほど米国から後落しているかは、森本氏ed.の『武器輸出三原則はどうして見直されたのか』によく書かれている。おそらく活路は、機体ではなく、センサーにあろう。センサーの発達は、かならずやステルスの発達を凌ぐだろう。これは農業の進化が工業の進化に追いつけないのと同じくらいに自明だと思われる。誰も透明にはなれないし、絶対零度にもなれない。センサーが勝つ。日本の武器メーカーは、軍用機用の後付けセンサーや、各種弾薬の特殊信管、陸戦火器の照準器などに開発資源を集中すれば、今からでも国際市場に食い込めるはずだ。
 次。
 『ワシントンポスト』が、さすがの解明。Karen DeYoung 記者による2015-2-15 記事「The anatomy of a failed hostage rescue deep into Islamic State territory」だ。
 ペンタゴンが大統領府に、エイドワーカーKayla Jean Muellerをふくむ四人の米人救出作戦を提出したのが、2014-6-26であった。
 決行はその1週間後になされた。
 しかし突入隊員が発見できたのは、食いかけの飯と、一握りの髪の毛。虜囚は確かにそこに居た。だが、いなくなった。
 同年末、ISは四人のうち三人を斬首した。
 残った一人がカイラ・ミュラーである。
 2015-2-10にISはミュラーの死体写真を家族に電送した。米機の爆撃で死んだとISは非難している。米国はそれを否定している。
 レスキューミッション実施部隊の中からは、大統領府の決定のモタつきを非難する声がある。人質は数日もしくは数時間のタッチの差で場所を変えられてしまった。大統領府が早く決裁していれば作戦は成功したと。ディシジョンプロセスがおかしいんじゃねえのか、と。
 ※これはポピュリズムの声。スーザン・ライスはペンタゴンサイドからはとても不人気なのだが、2014の件に関しては無罪だ。WPは本人にもちゃんと弁明をさせている。
 作戦決定に深く関与した高官は4人である。他に7人くらい、秘密計画を知っていた。弁疏にいわく。計画→承認→実行のスピードは「ワープ」に等しい速度で今回は推移した。
 筆頭担任者は確かにスーザン・ライスである。
 ミッションはワシントンでは金曜日にスタートし、ゴーサインは土曜の夜だったわけ。
 これ以上速くはできなかったとライス。
 この作戦のリスクとしては、将兵もあぶないし人質もあぶない。だから軽々しく決められない。米軍はかつてシリア奥地に駐屯したことはなく、土地勘も無い。
 しかも今回は、そこに人質が居るという確証を事前に掴めてはいなかった。
 シリアくんだりで何か突入作戦しようというときは、誰も、どんな事前の確証情報も得られない。その霧の中でディシジョンしなければならんちゅうこと。
 そもそも人質救出作戦は、特殊作戦の中で最も成功し難い。だって、敵は人質をその場ですぐに殺してしまえるんだから。
 米軍はリビアに特殊部隊を送り込んでテロの容疑者のアラブ人を捕獲して引き揚げたことはある。2013年と2014年に、どちらも成功した。2名はいま米国の監獄にいる。このミッションは、なりゆき次第でぶっ殺しちまってもよかったわけで、特殊作戦部隊としては、気が楽だ。
 2012-1に、ソマリアのアルシャバブが捉えていた米人エイドワーカーとデンマーク人同僚をシールズが奪回しようとした。アルシャバブは軽武装かつ、訓練未到な連中である。
 ヘリで突入し、隊員の一人が救出対象のブカナン氏におおいかぶさり、他の隊員が看取兵たちを射殺した。大成功。
 続いて2013秋、イエメンのアルカイダが捉えていた米人写真屋ソマーズ君を2度、救出しようと試みた。
 さいしょは11月後半。洞窟の中に何人かの虜囚がいるという情報があった。その中に写真屋が含まれているかは、不確実だった。
 写真屋に命の危険が切迫しているという情報は無い。しかし現場は襲撃はしやすいので味方隊員のリスクは少ない。そこで木曜日に計画をホワイトハウスに提出。オバマは日曜日に承認した。
 現場にいたテロリストは全員射殺した。突入隊員の一人が腕に負傷。しかし人質のなかに写真屋はいなかったのである。
 その2週間後。写真屋は南部イエメンの某所に居り、しかもいつ殺されてもおかしくないという情報が来た。計画が提出され、オバマは24時間しないで決裁した。
 2013-12-6に突入。しかしソマーズはすでに殺されていた。そして事前情報の無かった、一人の南ア人のエイドワーカーもそこで死体で発見される。
 どちらもゲリラが銃撃して殺していた。ヘリコプターが迫ってくる音を聞いて、その着陸前に、虜囚を片付けちまったのだ。あとで判明したが、南ア人の家族や所属組織は、その人質の解放についてネゴシエーションしているさいちゅうだった。
 2014年の3月と4月に身代金を払ってシリアのISから釈放された欧州人6人は、ラッカの人質の中に米人フォリーがいるという情報をもたらした。
 そこで統合特殊作戦コマンドが、レスキュープランを練った。
 人質は、ラッカ郊外の、小規模石油精製工場に附属した建物に収容されているということだった。
 その時点ではまだ、シリア領内に対する米軍の空爆はスタートしていないので(空爆は9月スタート)、米軍はラッカの空撮写真を持っていなかった。偵察機を飛ばすとシリア政府軍の持っているロシア製高性能SAMで墜とされる危険もあったので。※この部分は実に変な話なんだよね。ラディン邸を監視していたステルス偵察機などがいくらでも使えたはずなんで……。
 フォーリーの家族は、米軍が2年間もフォーリー救出作戦を試みないのはどうしたわけだと、テレビの前で巧みなレトリックでオバマ政権攻撃に励んだ。
 230万ドルの身代金を支払って2014-6月17日にトルコ国境で解放されたデンマーク人が、最新情報をFBIに教えた。数日前に、ラッカで4人のアメリカ人が囚われているのを見ている、と。彼は、その収容所の見取り図情報も提供した。
 その情報は軍に渡され、セントラルコマンドが救出作戦計画をまとめて統合参謀本部へ。それをヘーゲルがホワイトハウスへ持参。
 それは特殊隊員だけでも100名以上を動かす、未曾有の規模の救出作戦だった。準備だけで大ごとだった。
 護衛兵たちを囚人の居る場所からひきはなすための牽制陽動作戦も複雑に仕組まれていた。
 作戦はヨルダン領内から発起する。だからヨルダンとの外交交渉も必要であった。※したがって日本政府のリエゾンが2015にヨルダンに送り込まれたのも至って順当だったといえる。米軍の救出作戦はトルコからでは実行されないのだから。
 2014-6-27(金)の早朝、ホワイトハウス内会議室に、国家安全保障関係諸官衙の高官たちが雁首をそろえた。午後、こんどは閣僚たちが計画案をチェック。
 その時点で、大統領から質問が出されたときの答えと、リスク予測もぜんぶまとまる。
 土曜日、計画案が安保系の側近〔チームといっているが要するにスーザンライス?〕によってオバマに提出され、承認を請われた。オバマは翌日まで熟考するかと思いきや、すぐにサインした。
 天候と月齢とが考慮された。接近飛行中に視認されたくなかったからだ。
 突入部隊である、陸軍第160特殊作戦連隊は、改造ブラックホークで移動した。※ここにもオスプレイなんて1機も出てこないんですけど、陸上幕僚監部は総理大臣から日本人の人質を救出しろといわれたときに、ナイトストーカーの真似をせず海兵隊のいうなりに模倣をしてきていたためにミッションが遂行不可能であることについて、どうやって申し開きをし、責任を果たすんだ? それと、2015-1-24に加州で墜落して海兵隊員が2人死んだというヘリコプターの機種は、何だったんだよ?
 2014-6月4日黎明、彼らはシリア領土に着陸した。短時間の戦闘があり、かなりのゲリラを殺した。ヘリコプターは銃撃され、そのとき隊員1名が負傷した。
 だが、人質が居なかった。
 あとから、いろいろと憶測された。人質4人はヘリ降着のほんの3時間くらい前に移動させられたという者もおり、数日前、いや、1週間以上前だという者もいる。真相は謎だ。
 この襲撃の実行ならびに失敗の事実は、2014-8-20まで公報されなかった。フォリーの斬首ビデオが8-19にリリースされたので、公表した。
 ソトロフの斬首ビデオは9-2にUpされた。カッシングの斬首ビデオは11-16にUpされた。


amazonで新刊『こんなに弱い中国人民解放軍』を注文しよう!

 講談社の「+α(プラスアルファ)新書」として、最新の兵頭二十八の中共撃滅戦略がリリースされます。店頭売りは3月ですけれども、アマゾンでは既に注文が可能になっているので、買い物の時間など心配せずに最も確実に、楽に早く手に入れたい方は、ぜひどうぞ。
 なお、超おもしろすぎる『歴代アメリカ大統領戦記』vol.1(独立戦争の前半まで)は、草思社から4月刊行予定なので、いましばらくお待ちください。
 『こんなに弱い中国人民解放軍』の内容は、タイトルのマンマです。
 日本版NSCの仕切りは外務省です。その外務省は米国国務省の御意向伝声管だというのが存在規定です。肉体エリートでもあった岡崎氏が欠けた日本外務省はどういうわけか腰抜け揃いで、しかも不勉強です。彼らは「シナ軍が弱い」ということが理解できない。そのために「受けて立つ」という戦争指導ができないんです。「受けて立つ」ことができなければ、シナ軍のクリーピング・アグレッションは成功します。頼むアメリカには「エア・シー・バトル」という役立たずなドクトリンしかないからです。
 じつは米海軍は、現代中共は「機雷戦」にもちこめば簡単に体制そのものが亡びるという分析を済ませています(そのデータ史料を提供したのはわが帝国海軍でした)。しかしそうなると米空軍は無用ということになってしまう。米国政治のなかで、米空軍のバックにいる超巨大な利権集団を海軍が敵にまわすことになってしまう。だから「対支戦争には米空軍だって活躍ができますよ」という説明文をわざわざ海軍が準備してやった。それがASBなんです。
 しかしASBでは「ウクライナの謎の軍服集団の蜂起」みたいなグレーゾーン・アグレッションには無力でしょ?
 海上挑発を「受けて立つ」ことで「機雷戦」にもちこんで、中共レジームを崩壊させることしか、シナ周辺国の国家主権を防衛する手段はありません。
 だからこれからは日本が「受けて立つ」戦略に、逆にアメリカを巻き込むようにしなければならない。しかし我がヘタレ外交官たちにそんなミッションができますか? 彼らには「やまとだましい」(旧慣行を度外視して新前例を創る敢為。シナ官僚の前例墨守主義と対比して謂う。特に外寇への緊急対処として)が、ありません。
 海上での敵の挑発を日本が受けて立つことにより、事態を「機雷戦」にもちこむことができ、中共は亡びます。ところがそれには法的な大きなワンステップが必要です。すなわち海上における「平時から戦時への切り替え」です。日本外務省にはこの指導はできません。怖いのと無知なのとで、できないのです。そんな腐儒官僚が日本版NSCを仕切っている以上、中共の「クリーピング・アグレッション」に日本は打つ手は無いでしょう。
 数日前に、『スターズアンドストライプス』紙のERIK SLAVIN記者が「The Asia-Pacific:where the US military follows its nation’s money」という記事をネットに載せています。
 ――米国の輸出品の四分の一はアジア向けであり、また、輸入品の37%は、アジアから来た。それは欧州その他から買っている量と等しい。中共が尖閣や南シナ海で余計なことを始めなければ、これからもずっと、米国はアジアを足掛かりに経済発展を続けることができる。2004年から2014年までの統計でも、アジアからの輸入の伸びよりも、アジアへの輸出の伸びの方が28%多かったのだから……と。
 米国務省の匂いがするこの記事は何を示唆しているかといいますと、とりあえず9月によびつける習近平に「これからイランと戦争して撃滅するから太平洋では騒ぎを起こすな」とでも命ずるんでしょうが、中共はガチガチの統制国家ではないですから、習近平がそれをかしこまって拝承して帰国しても、軍人たちがそれを守りませんよ。
 オバマ民主党政権が続く限り、アメリカ国務省は日本外務省が中共の海上挑発を「受けて立つ」(平時から戦時に切り替える)ことを許さないということでしょう。だったら領土主権も領海主権も「クリーピング・アグレッション」にやられ放題ですよね?
 米国経済がシナ市場を必要としているのと、日本の領土主権が「クリーピング・アグレッション」で蚕食されて行くのとは、独立の事象です。日本人にとっては、後者の方が重大。しかし日本版NSCはそれに対処できない。
 本書は、中共帝国から周辺国が独立主権を守るには「挑発を受けて立ち、機雷戦にもちこむ」ことしかなく、それによって中共は簡単に崩壊するし、アジアも安全化することをご説明します。
 機雷で中共を滅ぼせるのは、日本だけじゃありません。フィリピンにすら可能です。ですからこれからの日本の正しい武器輸出政策としては、機雷を撒くことのできる無人潜航艇や小型特殊潜航艇を日本から安価にフィリピンやインドネシアやマレーシアやタイやブルネイにどしどし輸出してやることです。
 また、通常の航空爆弾にとりつけるだけでそれを「沈底機雷」へコンバートすることのできる「複合センサー&信管」部品も、いまから大量に製造しストックし輸出(有事には無償供給)もすることです。
 日本が今日ではシナと違って機雷封鎖を恐れる必要など少しもない理由は、拙著『兵頭二十八の農業安保諭』でお確かめください。二度の世界大戦で、最も先進的な機雷戦システムであったドイツのUボートでも英国をブロケイドできなかった理由も詳述してあります。


オバマ政権は「イラン撃滅作戦」の準備としてまず原油高を維持して国内でシェールガス開発を進めさせ、2014年に機は熟したと判断したのか。残念だがこれから海自はペルシャ湾に召喚される。

 さいきんくだらないことを発見した。
 うちのトイレには小学校三年で習う漢字200字が方眼シートに配列されたものが貼ってあるのだが、この方眼をてきとうに斜めにたどると、ランダムに「漢詩」や「対聯」ができてしまうのだ。
 もちろん平仄無視だから詩でも対句でもない。だが、ひとつひとつの字がわれわれにとって少しも難読ではないために、ランダム文字列なのにすらすらと読めてしまって、自動的に味わいのある意味が取れてしまったり、情趣ある「イメージ」が生成・喚起されて行くというところが、まことに可笑しく、そして興味深いのである。
 1989年に米国でTV放映された「新刑事コロンボ」(トータルでシーズン8)の中にある「GRAND DECEPTIONS」というエピソード(全69作中の49番目)に、加州の軍事系シンクタンクがその一セクションにて「易」をおおまじめに研究しており、それによってシナ人のディシジョン・メイキングの癖を知ろうと努めている、という場面が出てくる。
 中共の発表する公式統計値は、すべて易者が筮竹を見てそれをもっともらしく解説する、卦である。彼らはごく自然に、数字を聯句のように飾ってしまう。それが誰彼に喚起させるイメージを、ものすごく気にするがゆえに。そもそも、そのような行政情報加工が、太古から彼らにはずっと当然なビヘイビアであったがゆえに。
 だからトマ・ピケティ先生も、シナ人の資産や担税のデータを得られる日が来るとだけは、期待せぬ方がよろしかろう。これからもそれは無い。
 易学のこじつけの馬鹿らしさ、恣意性、非科学性をよく知っているはずのわれわれが、それを世界に対して指摘できないで、三十年前の米国のシナリオライターの方が、よくわかっていた。


捕虜の焼き殺しは彼らにとって珍しい文化でもなかった

 バグダッドの米国大使館で2004~2006に人質捕虜事案対策に任じていた元米海軍シールズ隊員が、既に2004年のイラクにおいて、アルカイダが捕獲したイラク人の警察官複数をいちどにガソリンで焼き殺すビデオを見たことがあるし、連中は十年も前からそんなことはしょっちゅう実行している――と証言している(Howard Altman記者による20155-2-5記事「Brutal treatment of prisoners is traditional jihadi tactic, former SEAL says」)。
 その内容は、自分たちで掘らせた塹壕の前に、ガソリンをぶっかけた捕虜を一列にひざまづかせておき、まず一人をつきおとして点火。そのあとから次々に他の捕虜もつきおとす、というものだったと。
 ちなみに米軍航空隊ではクルーにSERE教育というのをしている。Survival, Evasion, Resistance and Escape=捕虜にならない。なったらいかにして脱走するか。
 ただしこれが通用するのは、米国や米軍と同じ文化を共有する敵の場合だけだ。
 ISによる捕虜処刑やそのビデオ公開は、「ISはその勢力拡大運動を維持しつづけている。ISは他のセクトよりも勢いがあるから、みんな、ISに加われ」というPRのためだけに実行されている。
 そこで、リアルの陸戦で敗退して旗色が悪くなったときが、処刑やビデオリリースのグッドタイミングである。
 たとえば、シリアのコバネ市からISIL軍が叩き出された直後のタイミングでISILは後藤を馘首するビデオをリリースした。
 またイラクのキルクーク市郊外では、クルド部隊が8つの橋をISILから奪回した。その時点でISILはアルカセスベー操縦士の焼き殺しビデオをリリースすることにした。
 焼き殺しはそのずっと前だったが、12月下旬のラッカ空爆のダメージが大きかったからこそ、操縦士の焼き殺しによって身内の気勢を維持する必要があったのである。
 なおISは、アルカセスベーのビデオの末尾で、他のヨルダン空軍パイロットたちの氏名と居場所のリストを表示して、こいつらを殺せば純金100ディナールを償金としてくれると言っている。
 次。
 Slobodan Lekic記者による2015-2-4記事「Analysts: Pilot’s death may give Jordan’s monarch freer hand against Islamic State」によると……。 2005のアンマン爆破事件では、確実な死者は57名だという。
 ヨルダンは内戦が起きていない数少ない中東国家である。
 そして、シリアからは150万人、イラクからは45万人もの難民を受け入れている。米国は13億ドルの資金をヨルダンに援助している。
 米陸軍はヨルダン内にパトリオットSAMを展開。また米空軍のF-16×1個飛行中隊も進出している。
 ヨルダン空軍機は、ISに対する空襲を、2014年9月22日から開始した。
 ヨルダン人口のマジョリティは、パレスチナ人である。しかしヨルダン政府とイスラエル政府のあいだは、緊密である。
 アメリカとイスラエルに、中東諸国は対抗できない。そればかりか、その政府はむしろアメリカやイスラエルと結託しようとさえしている。これに絶望した若者がISに身を投ずるのである。
 次。
 Vivian Salama and Bram Janssen記者による2015-2-4記事「Westerners join Kurds fighting Islamic State group in Iraq」。
 豪州は、法律により、自国籍人が豪州軍ではない軍隊といっしょに戦うことを禁じている。
 次。
 これはNYTによるすっぱぬき第一報の後追い確認記事らしい。
 ROBERT BURNS記者による2015-2-4記事「US: Key Arab ally no longer flying airstrikes over Syria」。
 UAEはシリア空襲を中止した。12月から抜けていた。
 それなのに米政府は、UAEもずっと空襲を続けているような公報をしていた。
 次。
 MATTHEW PENNINGTON and ERIC TUCKER記者による2015-2-4記事「FBI analysis suggests Philippines killed terror suspect」。
 マレーシア人の大物イスラムテロリストがフィリピン南部に入り込んでいたが、比島警察隊が2015-1-25に仕留めた。警察部隊も44人死んだ。
 フィリピンは政府が弱すぎるので、米国FBIが全面協力。また米国はそやつの首に償金をかけていた。
 こやつは、英語、アラビア語、マレーシア土語、比島土語をあやつることができ、しかも、爆弾作りの技師であった。教育は米国で受けている。
 インドネシアのテログループ「ジェマーイスラミヤ」のリーダーでもあった。
 2015-1-25の戦闘は比島政府として近来最大の激戦だった。比軍の人数が少なく、首魁の死体をまるごと持ち帰れない情況だったので、指だけ切断してもってきた。
 次。
 ストラテジーペイジの2015-2-4記事「Afghanistan: That Sense Of Great Loss」。
 東アフガニスタンと南アフガニスタンでは、ISILとタリバンの武力衝突がすでに発生している。
 アフガン人は、阿片とヘロインしか輸出換金できるものがない。
 200万人のアフガン人がすでにヤク中である。
 タリバンに規律と自制力があったうちは、警察や行政当局者への鼻薬も効くのだが、地域でムチャクチャなことをやるようになって住民に恨まれれば、賄賂を提示してもめこぼししてもらえなくなる。いま、その段階。
 さいしょは宗教運動だったタリバンも、いまやマフィアと同じである。住民は誰も支持してない。むしろ米軍機による空襲を待望念願している。
 米軍が撤収準備に入って空襲しなくなる→タリバンが自律をうしなってギャング化する→住民から浮く。このパターン。
 2011にはNATO空軍が連日364ソーティ実施してたが、いまはアフガン政府空軍による19ソーティのみ。
 アフガン軍は機関銃装備のMD-530を2015中にめぐんでもらう予定。
 固定翼機としては、20機のスーパーツカノ(A29 Super Tucano)も2015にめぐんでもらう。※この機体はイイ。現代のP-51だよね。いや、ブラジル製ということはドイツ人の設計だから現代のフォッケウルフなのか。練習機的性格の軽攻撃機。日本の武器援助も、ほんとうはこういう装備から始めるのが理想的なのだが、戦後の富士重工がこういう飛行機を考えてこなかったからタマが無い。日本の武器メーカーの経営陣は、アメリカの真似することしか考えられねえのか。
 アフガンでも過去10年に10万人が戦死/戦災死した。
 しかしアフガン人は年々豊かになっている。だから8割が米国を支持している。
 2001には百万人の児童(すべて男児)しか、小学校に通っていなかった。今は800万人であり、しかも4割は女児。
 電話は2001には1万台だったが、いまはセルフォンが170万台。
 問題は、パキ国境からイスラムテロリストが流入し、アフガン東部と南部に住み着くこと。最近は、ウズベキスタン人が増えている。
 カンダハルでは、IED用の爆弾部品を満載したトラックが摘発された。パキからアフガンに入ろうとした。
 インドのアフガン支援がものすごい。パキを挟撃するためだ。
 次。
 Lori Hinnant and Paul Schemm記者による2015-2-3記事「The cost of leaving Islamic State: Death or jail」。
 欧州と北アフリカには、ISを抜けて戻った連中が数千人も潜っている。
 過去半年で、国外に戻りたいと言ったメンバー120人以上がISじしんの手で処刑されている。
 逃げ戻った男のシリアでの目撃証言。
 ISは女もメンバーに加えているが、彼女らに強制される任務は、野営地で毎晩、違う男とSexすることである。
 APはこの証言の裏を取っている。複数の人物が同様の証言をしている。
 外国からIS参加した者のパスポートはすぐ取り上げられてしまう。これでもはや元の国には戻れぬ。プロパガンダビデオの中では、パスポートを燃やしている。
 次。
 ストラテジーペイジの2015-2-2記事「ISIL And The Future Of Islamic Terrorism」。
 ISILの絶頂期は2014年の晩春から夏であった。
 しかし彼らはバグダッドまでは南下できず。そして勢いは過去3ヵ月で退潮に向かった。
 とはいえ、シリアではラッカを、イラクではモスールを確保していることに変わりはない。
 住民略奪に遠慮会釈がないのは、外国人のメンバーである。
 歴史はそれじしんを繰返す。2007のアルカイダと、ISILの転帰は同じようである。
 アルカイダは、2003の米軍イラク占領時点では、アラブ世界で高い支持を得ていた。だがそれから4年にして、アラブ世界内でも支持率が失墜した。ところによっては9%以下の支持率となった。2007以降、アルカイダは暴力傾向を抑制したが、それは勢力拡大に結びつかず、却って、ISILの駘頭に道をひらいた。そしていま、ISILも人気をうしないつつある。
 2014-6にモスールを制圧したISILは、シーア派の兵隊と警察官を皆殺しにして、カリフェイトの樹立を宣言した。これが絶頂期。
 さいごのカリフェイトは、トルコ帝国だった。それは400年続いたが、1924に消滅した。
 イラクでは、2割がスンニで、6割はシーアである。
 シリアでは、75%がスンニで、15%がシーアである。
 つまり、マイノリティとマジョリティが 逆転しているのだ。
 シリア東部のスンニと、イラク西部のスンニは、民族的・宗教的に一体なのに、トルコと西欧のおかげで分断された。
 かれらは、「スンニスタン」をつくりたいのである。
 スンニのトルコと、シーアのイランが、このアラブ最北の地、すなわちシリア=イラクで、宗教的な角逐をずっと続けてきた。
 トルコは16世紀からそこを支配してきたのだが。
 中東に平和が来るとどうなるか。連中は、伝説物語の中の、イスラム防衛のための戦士たちをなつかしみ、何か事を起こしてやりたくなるのだ。
 だから、ISILが消滅したとしても、また中東では、おなじようなことが将来もずっと、永遠無限にくりかえされるのみ。